RBA OFFICIAL
 
2015/04/07(火) 00:00

問題はらむ議決権割合に価値割合の導入 マンション管理検討会

投稿者:  牧田司

 国交省「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」(座長:福井秀夫・政策研究大学院大学教授)は、総会などの議決権割合を変更してはどうかという提案も行っている。

 区分所有法第14条(共用部分の持分の割合)には「各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による」とし、この規定は「規約で別段の定めをすることを妨げない」ともしている。また、同法第38条(議決権)では「各区分所有者の議決権は、規約に別段の定めがない限り、第十四条に定める割合による」としており、専有面積割合ではなく平等にしているところも少なくない。

 そしてまた、建て替えの場合などは、同法第62条(建替え決議)で「集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数…」としている。つまり議決権だけではなく、区分所有者が分母になるケースもあり、個人や法人が複数住戸を所有していても区分所有者としては一人としてカウントすることが決められている。

 検討会は、これを見直すことを提案している。「近年は、大規模で店舗と分譲住戸のある複合用途型のマンション、超高層マンション等の出現により、高層階と低層階、あるいは住戸と店舗とでは、床面積割合によっては住戸の財産価値(眺望、景観、日照等の付加価値)が適正に反映されないケースがみられるようになってきたため、現行のように議決権を床面積割合によって与えるのは、公平性等の点で問題がある…」というのだ。

 そこで、①各住戸の床面積割合に加え②価値割合を加味し③住戸1戸につき1個の議決権を与えてはどうかとしている。

 この提案は様々な問題もはらんでいる。難しい問題だ。一般的に、デベロッパーは、日照や眺望、間取り、設備仕様、向き、市場性などを総合的に判断して値付けを行っており、超高層マンションの場合などは低層階と上層階とでは10倍くらいの価格差のあるものが少なくない。

 具体的にはどれぐらい異なるのか。分かりやすい例で示そう。最近書いた東京建物「Brillia Towers目黒」の場合、平均単価は600万円だが、30㎡台の最低価格の住戸の坪単価は550万円くらいになりそうだ。一方、最高価格の150㎡台は880万円くらいになる模様だ。単価差で1.6倍、価格差で8倍だ。

 検討会が示した議決権割合をこれに適用すると、4億円台の住戸を取得する人はワンルームの購入者の8倍の議決権を持つことになる。これが公平かどうか記者は分からない。

 そもそも、先にも書いたようにマンションの値付けは不公平が生じないよう、付加価値の高いものは価格を高くし、その分だけ購入者に負担を求めている。価値の高い住戸ほど購入者の金銭的な負担が大きいのだから、ある意味ではこれもまた公平だ。共用施設の利用でも、高い値段の住戸を買った人と低い住戸を購入した人とで差別をつける例は皆無ではないがほとんどない。お金持ちもそうでない人も公平に扱っている。

 住戸1戸につき各1個の議決権を与えるべきというのも危うい。これが認められれば多数派工作は容易になる。買い占めればいいわけだ。

 検討会は、価値割合を採用した場合の課題として、「床面積割合という基準が客観的かつ普遍的であるのに対し、階層別や位置別の効用は主観的かつ流動的であり、また、それが販売価格に適正に反映されているとは限らない」ことを上げている。そして、「分譲後の環境変化に伴う効用の変化(例えば分譲時の眺望が隣接のマンション建設で大きくその価値が低下したなど)の問題が可能性として生じ得ることは否定できない」としながら、「床面積割合と価格割合に相当の乖離がある場合の不公平の問題の方が大きい」と結論付けている。

 これも難しい問題がある。確かに値付けは主観的判断で行なわれるので、価格が適正であるかどうかだれも分からない。しかし、あらゆる商品はそのようなものではないか。ダイコンだってキャベツだって、価格は主観的に付けられるのではないのか。適正であるかどうか結局は市場(消費者)が判断するものではないのか。

 購入後の環境変化も無視できない。検討会は「床面積割合と価格割合に相当の乖離がある場合の不公平の問題の方が大きい」としているが、マンション購入後に、その敷地の前面、隣接地にマンションなどが建設され、日照・眺望が奪われるのは日常茶飯だ。複合日影といって、複数のマンションからの日影の影響を受けても、個々の建築物は違法にならないのが現行法だ。

 だから、記者はユーザーには用途地域だとか立地条件には十分注意を払うようにと忠告してきた。購入時の価値判断が将来にわたって正しいかどうか、なんともいえない。

 もう一つ、固定資産税や都市計画税、不動産取得税は、価値割合ではなく、いずれも土地や建物の持分比率が基準で算定される。これとの整合性はどうなるのかという問題もある。

 以上、議決権割合に価値割合を反映させよという提案は説得力があるようで極めて危険な問題もはらんでいると思う。お金(力)のある富裕層が益々富み、そうでない人は益々貧しくなる、発言力も弱まる21世紀の資本主義社会がマンションでも完成するのか。

 

 

rbay_ayumi.gif

 

ログイン

アカウントでログイン

ユーザ名 *
パスワード *
自動ログイン