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2015/05/26(火) 00:00

平成の田園調布になるか 1区画200坪の街づくり つくば市の「春風台」

投稿者:  牧田司

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「緑住農一体型住宅地 春風台」

 1区画が200坪(660㎡)という「平成の田園調布」とも言うべき街を見学した。茨城県つくば市の土地区画整理事業地の一角で3年前から分譲されている「緑住農一体型住宅地 春風台」(109区画)で、期間50~70年の長期定期借地権付き宅地分譲により初期投資を抑え、区画整理事業法、固定資産税法、都市緑地保全法など縦割り行政の隘路を巧みな手法で切り抜けたわが国に例のない街づくりだ。つくば駅から車で15分とややかかる難点を逆手に取った手法でもある。

 物件は、つくば駅の北東約2~4キロに位置する開発面積189.9ha、計画人口8,000人の「中根・金田台特定土地区画整理事業」(施行期間平成16年~31年)地内の一角。従前は自然林や畑だった台地状のところ。区画数は全109区画。地代は月額5~6万円。契約期間満了時に返却される保証金は250万円。

 全体計画は、住宅地の前に幅12mの景観緑地を配している「緑住街区」と、100坪の宅地と60坪の景観緑地、40坪の果樹・菜園からなる200坪の「緑住農街区」から構成されており、「村の記憶」「森の継承」「緑陰のまちづくり」がコンセプトとなっている。電線類の地中化を実現した。基本は定借だが、所有権分譲にも対応する。

 景観緑地には市の地上権を設定することで、その部分の地代を事実上非課税としているのが特徴で、緑地の整備・管理は地権者が行い、自治体は財政負担なしで市街地の緑地を確保できる〝三方良し〟の関係が保たれている。約60区画で住宅が建設されることが決まっている。

 地権者の一人でもある「桜中部地区まちづくり協議会」会長・酒井泉氏(66)は、「米国のオークパークやヴィレッジホームズ、わが国の伝統的な民家・集落のいいところ取りの街づくりを目指した。こんな街は他にないはず。里山の環境をつくり、緑陰で居住者が語り合えるような街にしたい」と話した。

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◇     ◆   ◇

 現地についてすぐ、近くでウグイスが澄んだ美しい声で「ホーホケキョ」と記者を歓迎してくれた。酒井氏によると、絶滅危惧種に指定されている、かつては人間と共存していたオオタカもすぐ近くに棲んでいるという。

 どのような街であるかは写真を見ていただきたい。道路は日照や通風に配慮した南北軸で、ボンエルフの手法を採用。車道と景観緑地を分ける縁石の高さは数センチくらいに抑え、景観緑地にはヤマボウシやコナラなど近くの自然林の樹木が植えられている。

 各住宅はハウスメーカーが建てたものでまちまちだが、地区計画によって建築物や壁面位置、色、形状などガイドラインが定められている。

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「家庭菜園」 このお宅では小松菜、カボチャ、玉ネギ、ナス、トマトなどたくさん野菜が植えられていた

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 酒井氏の専門は物理学。昨年3月、定年で退職するまでの7年間は福井大の教授を務めていた。車中で少し話を聞いたのだが、まるで宇宙語、さっぱり意味が分からなかった。

 ここで酒井氏の経歴について少し触れたい。酒井氏は地元つくば市出身。東北大学工学部卒で、卒業後は民間の研究所で大容量送電システム、国の研究所で大強度陽子加速器の研究に携わり、「原子力と核融合エネルギーが人類の未来への希望と思っていた」が、チェリノブイリ事故に衝撃を受け、2007年に福井大学教授に就任してからは、当時の中川英之副学長の「核変換による核廃棄物処理は物理屋の使命」との言葉に共感して、大強度加速器の核変換技術への応用などの研究に比重を移していく。

 1988年頃からボランティアとしてつくば市の街づくりに関わるようになり、1996年以降は、東大法学部名誉教授・稲本洋之助氏の指導を仰ぐようになる。区画整理事業地の近くに実家があり、地主の一人でもある。

 「緑・住・農」などという大胆かつ奇想天外とも思える発想ができるのも、ここが生まれ育った故郷であり、自らの研究テーマである原子力と同様、動き出したら止まらない制度的特徴を持つ区画整理事業を同じ問題として捉えているからではないだろうか。他人事で済まされない、持続可能な地域社会を造るのだという不退転の覚悟がないとできないことだ。

 区画整理事業についてはたくさんガイドブックのようなものが出版されている。ほとんどが推進派からだ。住民サイドからのものもなくはないが、「反対」ありきで、理論的に深く掘り下げたものは記者はよくしらないし、記者は研究者でもない。

 その点で、酒井氏が区画整理事業について書かれた論文は正鵠を射るものであるのは間違いない。酒井氏が平成4年に書かれた「区画整理事業の改革に向けて 『複合型』区画整理事業の提案」と題する論文には次のようにある。

 「地価の動向や、どのような街を造れば人が集まるのか、正確なことはわからない。重要なことは、坪いくらで売れるという『にわか不動産屋』的発想ではなく、『自分達が住み続けたいと思える街を造ることである』。極言すれば、『自分たちが住んでいる集落を捨ててでも住みたくなる』ような、質の高い街をつくれば、地価の動向による損得を超えて、子や孫たちに、よい環境の街を残したいということで納得できるはずである。…中途半端な街づくりをして、他の開発に負けて、せっかくの優れた環境を台無しにする危険は犯したくないと思うのが普通だ。

 これまでの他の日本の都市には見られなかった、優れた環境の街を造ることができれば、地理的に不利な条件や厳しい財政事情を克服し、活路を見いだすことができるかも知れない」

 記者はこの論文の副題に「複合的」という文言が入っているのに注目した。がんじがらめの法律の網をかいくぐって問題を解決するトンボのような複眼の視点でものごとを考えることが必要と小林秀樹・千葉大大学院教授に教わった。同じ発想だ。酒井氏の論文にも小林教授の名が登場する。

 酒井氏の了解も得たので、その論文をそのまま添付する。今後の区画整理のあり方を研究する方々にはぜひ読んでいただきたい。

  桜中部地区まちづくり協議会のホームページアドレスはhttp://harukazedai.com/ 、連絡先電話番号は 080-4471-8566。

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酒井氏

 「区画整理事業の改革に向けて 『複合型』区画整理事業の提案」H4-2.pdf

 「常磐新線沿線開発・土壇場での解決策」H10.pdf

震災から4年「希望」はあるのか陸前高田に見る復興事業(2015/3/4)

これでいいのか 被災地復興土地区画整理事業(2014/2/13)

「区画整理の限界を超える」か スマートシティ「ビスタシティ守谷」(2013/2/22)

 

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