「タウエよりアウェーですが…」三菱ではないM銀行からの参加者も
〝ケロ、ケロ、ケロ〟-絶好の田植え日和の5月下旬、無農薬の田んぼで色とりどりの服を着て、へっぴり腰で酒米を植える、いかにも都会育ちと思える集団をやや嘲笑気味に「初めてにしてはよくぞやった。歓迎の意を表す」とばかりカエルが鳴いた。参加者約30人は、さすがに疲れたのか、作業後は声が出なかったが、みんな満足の表情を浮かべた。
三菱地所グループがNPOえがおつなげて(曽根原久司代表)と連携して山梨県北杜市増富地区で取り組んでいる耕作放棄地・荒廃森林の再生を目指す「空と土プロジェクト酒米づくりツアー」お田植え編に同行取材した。
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5月23日(土)、9時30分。武田信玄像があるJR甲府駅前にツアー参加者が集まった。早速バスに乗り込み、高齢化率62%、耕作放棄地44%という壮絶な限界集落、北杜市増富地区に向かった。老若男女、その数は約30人。
現地までは途中休憩を挟みバスで約1時間半。早速、車中で自己紹介が始まった。口火を切ったのはCSR活動も担当する同社常務執行役員・吉田淳一氏。初めて田植えを体験するのは8割くらいであることを確認した上、緊張をほぐすためか「田植えはたいしたことない。人海戦術でやれば大丈夫。空気も水もきれいだし、泥に入っても温かい。心身ともリフレッシュしていただきたい」などと話した。
三重県伊勢市の近くの農村で育った、田植えがいかに重労働であるか分かっている記者の番に回ったので、吉田氏に反撃を加えた。「吉田さんは簡単なように仰るが、ヒルやアブ、マムシがいるし、肥溜めもある。私は落ちたことがある。女の人は〝くノ一〟じゃなくて、への字に腰が曲がる」と脅した。(後で聞いたら、吉田常務は山口県下関出身で、肥溜めに落ちたことがあるそうだ)
肥溜めが何たるかをしらない人ばかりなのだろう。笑いは誘ったが、「いい酒米をつくりたい」「キノコは酒のつまみにしたい」などと、記者の脅しなど馬耳東風。いかにも楽しそうな様子で参加者は決意を語った。
オーストラリア人ならぬ豪の者もいた。丸の内のM銀行(三菱じゃない)に勤める若い女性2人組だ。「酒が好きで、ツアーの案内のチラシが入ってきたので参加しました。何だかタウエじゃなくてアウェー状態ですが、よろしくお願いします」と爆笑を買った。
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一行は現地でしいたけ植菌体験・採取体験をしたあと、昼食をはさみ田植えへ。曽根原氏やそのスタッフ、地域の協力者などに植え方などを教わり、一斉に田んぼの中に入った。
その光景は、母親や祖母が菅かさに木綿の野良着(テレビなどで放映される早乙女姿などはなかった)を着て田んぼに這いつくばる姿とは月とすっぽんほどの差があった。
写真①を見ていただきたい。右の女性はともかく、左の女性はスイマーのように全身ピッタリ黒(何と呼べばいいのか)ずくめに、パンツ(これも何と呼べばいいのか)姿。唖然とする記者に「一応、海に入ってもいい姿なんです」と話した。写真②もその女性。脚が長いのはいいのだろうが、腰が高い!
参加者は、ベテランなら一人で4時間くらいかかる田んぼ2枚を約1時間で植え終えた。地元の協力者は「素人にしてはよくやった」と太鼓判を押し、カエルも「ケロ、ケロ、ケロ」と、あざ笑ったのかも知らないが、歓迎の賛意を示したと記者は受け取った。サワガニは踏み潰されてはたまらんとあぜに駆け上がっていた。
最後は曽根原氏の掛け声「お田植えモリモリ」を三唱して締めた。
今回の田植えの翌週5月30日の、三菱地所レジデンスの友の会組織「ザ・パークハウスクラブ」会員を対象にした田植えツアーには定員40人に対し10倍の応募があった。
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収穫された米は、山梨の老舗蔵元・萬屋醸造店によって純米酒「丸の内」として製造される。この日、当主中込元一郎氏も田植えに参加。
「皆さんが植えられたお米は、これまでの等級チェックではすべて1等米。いい米でないといいお酒は造れない。水もきれい、栽培中は農薬・化学肥料を使わない。何よりも皆さんの気持ちが込められたお酒なのでおいしい」と話した。
「丸の内」は昨年は天候不順が続き、3,400本しか製造できなかったそうだが、今年は4,000本が目標とか。丸の内の酒屋でも販売されるが、瞬く間に売り切れとなる〝幻の酒〟のようだ。記者も飲んだことがある。文句なしに美味しい。
三菱地所グループ「空と土プロジェクト」体験ツアーに同行取材(2012/1/10/19)