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2015/08/21(金) 00:00

「日本らしく美しい景観」とは何か 国交省の懇談会が報告書

投稿者:  牧田司

 国土交通省は8月19日、昨年6月から行われていた「日本らしく美しい景観づくりに関する懇談会」(委員長:卯月盛夫早大教授)の報告書をまとめ発表した。同懇談会は平成16年の景観法制定から10年が経過したことを契機に、景観行政に関する幅広い点検・検証を行うため7回にわたり開催されていたもの。

 報告書は、景観行政を取り巻く状況や景観法の活用実態といったわが国の実情を踏まえた上で、良好な景観が地域に暮らす人々の誇りとなり、地域全体の価値の向上につながることを示すとともに、国内外の人々が日本的で美しいと感じる景観の「創出」と「保全」のために必要な方策のあり方についてまとめたもの。

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 記者もこの懇親会を2回くらい傍聴した。「日本らしく美しい景観」という文言に惹かれたからだ。「日本らしく」かつ「美しい」景観とはどのような景観なのだろうと考え、懇談会の委員の方々から「日本らしく美しい景観」の概念が示されるのではないかと思っていた。

 ところが、報告書の中には「日本らしく美しい景観」の文言は何カ所か登場するが、その具体的な内容についてはまったく書かれてはいない。今回の懇談会の目的は、そのような概念について論じるのではなく、良好な景観形成を進めるうえでの基本的な考えや、景観マネジメントについて論じる場だったからだ。

 それでも、専門家から「日本らしく美しい景観」について語ってほしかった。「日本らしく」というのは四季折々に変化する自然的景観、白砂青松のことだろうと思うし、また、歴史を感じさせる神社仏閣や古民家、あるいはまた水墨画のようないかにも日本人が好むモノトーンの世界なのか。さらにはまた、端正なシンメトリックな景観のことをいうのだろうか。それともまた、機能的なものが美しいのか、美しいものが機能的なのか…考えれば考えるほど「美」とは何かという疑問に行きつく。小林秀雄は言った。「美しい『花』がある、『花』の美しさといふ様なものはない」と。

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 懇談会はわれわれが景観の価値を認識するうえで示唆的な提言も行っている。例えば、「良好な景観は、地域を再生・活性化させる可能性を有する貴重な資産として捉えるべきであり、その保全・創出は地域の経済的価値を向上させる大きな要因となり得ることから、計画政策は経済政策の面からも重要である」「住宅地の生け垣や樹木が管理されず荒廃することで、周囲の景観の悪化をもたらされるなど、地域資源の劣化(外部不経済)を抑制することも重要となる」「その際、例えば、一定の地域の住宅所有者が全員加入し、賦課金により共有地の維持管理や建築行政のコントロールなどを行うアメリカのHOA(Homeowners Association:住宅所有者協会)のように、罰則まで設けて劣化資産を排除し、地域の不動産価値を維持する手法も参考になる」としている。

 懇親会はまた、景観協議の進め方にも言及しており、「景観計画区域における建築物の形態意匠、高さの制限等に関する基準である景観形成基準には大きさ、色彩など定量的なものと、『周辺と調和を図る』など定性的なものがある。建築物の建築等の行為は、定量的な景観形成基準だけに適合すればよいものではなく、周辺の既存の景観とのバランスも踏まえつつ、周辺も含めた景域全体の質的向上に資するよう、定性的な基準を個別の協議において的確に解釈し、良好な景観形成のための創造的な景観協議を積極的に進めるべきである」としている。

 この伝でいえば、いま各自治体が進めている建築物の絶対的高さを例えば20mというような半端な数値で規制することが都市景観にどのような影響を及ぼし、また居住性向上という視点からして、定量的な規制はどのような地域資源の劣化をもたらしているのかいないのか論議してほしいものだ。

 

 

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