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2015/11/13(金) 00:00

横浜傾斜マンション問題 どこも〝安全宣言〟を出せないのはなぜか

投稿者:  牧田司

 三井不動産レジデンシャルが10年前に分譲した「パークシティLaLa横浜」のマンションが傾いていると10月14日に報じられてからほぼ1カ月が経過する。その後、連日のようにマスコミで報じられている。国土交通省は旭化成建材に対し11月13日までに詳細な報告をするよう指示している。

 現段階ではどのような報告書になるか分からないが、10日、この問題をマンション販売現場はどう受け止めているのか、影響はどうなのかをアトランダムに電話で聞いた。

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 片っ端から電話した。しかし、「会社に聞いて」「責任者がいない」「答えられない」「コメントを差し控えるよう会社から指示を受けている」というところがほとんどだった。

 これはある程度予想はしていた。販売現場の担当者の口が堅くなったのは、あの構造計算書偽装問題が発覚した10年前くらいからだ。あれ以来、現場の生の声を聞くことはほとんど不可能になった。フィルターのかかった広報を通じてのコメントしか出なくなった。

 少し横道にそれるが、姉歯事件のときの各社の対応を振り返ってみたい。

 事件が発覚したとき、ヒューザーが姉歯と関わっているという噂は当日のうちに業界内を駆け巡った。大手、中小を問わずほとんどのデベロッパーから「当社は姉歯とは関係ございません」という趣旨の〝安全宣言〟が発信された。

 今回はどうか。野村不動産が新聞社の取材に対して「現在販売中のマンションには旭化成建材は関わっていない」旨のコメントを発したが、記者の知る限り、ホームページなどで〝安全宣言〟を発表したところはほとんどいない。

 これは何を意味するのか。姉歯のときは物件数が限られており、特定するのが容易だった。しかし、今回の事件は旭化成建材だけに限ったことではなく、杭打ち業界全体への疑惑が広がりを見せており、デベロッパーも対応に苦慮しているからではないかと思う。

 マスコミ報道も問題の核心にふれる報道など皆無に近い。問題なのは「施工監理」が機能していないことだと思う。マスコミは「管理」と「監理」を混同しており、「設計監理」に触れているところはない。それだけ「設計監理」が有名無実化していることを世間にさらしたということだ。

 設計監理が機能していないのではないかという疑惑はすぐ確信に変った。11月2日に行われた旭化成の会見で平居正仁副社長は「データ流用する環境があった」とコメントし、その前の会見でも「工期を守らないといけないプレッシャーを受けていた」旨の発言もしている。

 「データ流用する環境があった」「工期プレッシャー」は同社に限らず業界全体に蔓延しているということを平居氏は示唆したと記者は受け止めている。

 物件を施工・監理した三井住友建設はどうか。同社は11月12日、事件が発覚してから初めて会見を開いた。

 報道によれば、「横浜のマンション建設で三井住友建設の社員は、2次下請けの旭化成建材が杭を打った473本の大部分で立ち会っていなかったという」「永本副社長は、『試験的に打つ杭に立ち会い、残りは施工報告書で確認すればよい』とする国交省の標準仕様書に沿った対応だとして、『管理に落ち度はなかった』と強調した」(日経WEB版)とある。

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 話しを元に戻す。電話による取材にマンション現場担当者はほとんど口を閉ざしたが、4人だけ答えてくれた人がいる。そのコメントを紹介する。

 「来場者が減ったという印象はない。現場では、お客さんから聞かれるだろうとQ&Aを作成しているが、ほとんど質問はない。肩透かしを食った格好だ。影響は軽微だと考えている」

 「一人二人、聞かれる方があったが、予想したほどではない。引き渡し直前の50戸のマンション現場でも、『大丈夫か』という問合せがあったのは2~3件。影響は少ないのでは」

 「今回の問題になっている件はPC杭。当社は現場での杭打ちが多いので問題はない。それにしても旭化成建材が悪いのは言うまでもないことだが、ゼネコンも施主も見抜けなかったのは残念。大手デベロッパーはたくさん建築系大学卒の社員を抱えており、毎週のように各現場の状況をチェックしているはず。それを見逃すとは。ゼネコンもゼネコン。オフィスビルなどと異なりマンション施工は花形ではないから優秀な人材を配置しない。チェックする人の問題」

 「鴨居は地盤が弱いというのは業界の常識。当社は旭化成建材を使ったことはないが、他の業者に問題が広がらないか心配。どこも安全宣言できないのは、すべての分譲物件を調査するには時間がかかるからだ」

 わずか4件のコメントだけでは現場への影響の度合いは計れないが、事態を静観しているというのが現状ではないか。最近、マンションの現場取材を断られるケースもあり、デベロッパーが非常にナーバスになっているという印象も受ける。

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 何度も書くが、今回のデータ改ざんはあの姉歯の問題で国中が大騒ぎしているさなかに隠然と行われていた。もう救いようがない。建設業界を侵す「宿痾」という言葉以外見つからない。

 元請けの三井住友建設の会見も不可思議だ。施工監理に問題はなく、「信頼を裏切られた」と永本副社長はまるで他人事のように話したが、監理チェックを怠ったと言わざるを得ない。建設業法、建築士法が問われる問題だろうと考える。

 姉歯事件は結局、元一級建築士個人の犯罪という形で結論付けられたが、その後、住宅瑕疵担保履行法の施行、確認・検査の厳格化を定めた建基法改正まで発展した。

 今回はどのような展開を見せるのか。

後を絶たないマンション施工不良「設計監理」機能は働いているのか 姉歯に懲りたはずなのに 建設業界を侵す宿痾(2015/10/17)

 

 

 

 

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