建築中の「花畑あすか苑」
三井ホームは12月9日、延べ床面積約9,800㎡という規模と5階建てという階数でわが国初の2×4工法による特別養護老人ホームが上棟したのに伴い、プレス向けに内覧会を実施した。建物は1階がRC造で2階から5階が2×4工法。平成26年度の国土交通省「木造建築技術先導事業」として採択されている。
施工にあたっては、地震時の横揺れに有効な新技術としてカナダで開発された木造中層向けの「ミッドプライウォールシステム」を初めて採用。さらに建物強度を確保するため独自金物を用いたタイダウンシステムを採用したほか、個室はユニット組立方式とした。
事業主の聖風会・近藤常博理事長は、「介護施設の報酬は3年ごとに見直され、その都度減額されている。建物の建築費は鉄骨などでは坪120万円というのがざらだが、これではイニシャルコストが回収できなくなってきている。その点、木造はそれより低くて減価償却も鉄骨の50年に対して17~20年で短いので、その分のメリットがある。
さらに、木造は入所者の感染症の発生が少ないとか、素足であるいてもやわらかくて暖かいとか、ぬくもりがあるとか、環境面でもやさしいなどの特徴がある。地域の方にも区の事業にも貢献しようと新しい試みにチャレンジした。私どもの理念である〝最高に価値あるものをすべての人に〟の実践です」と語った。
建物の所在地は足立区花畑4丁目で建築主は社会福祉法人聖風会。名称は「花畑あすか苑」。設計者はメドックス。構造設計は日本システム設計。施工は三井ホーム。敷地面積は約4,551㎡、延べ床面積約9,789㎡。特別養護老人ホーム140室と短期入所生活介護施設20室のほか、デイサービスセンター、居宅介護支援事業所、地域交流スペースが設置される。竣工予定は2016年6月。同社の落札価格は約27億円。
完成予想図
近藤氏
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この施設が「木造建築技術先導事業」として採択された段階から、どこが施工を担当するのかずっと注目していた。木造ファンの記者にとって約9,800㎡という規模と5階建て(1階はRCの混構造だか)の木造建築物ができるということはとてもうれしい。
毎度のことだが、残念なことが一つある。当然ではあるが、建物は青いシートで覆われていた。同社関係者も「コンクリートと同じではないか」と思わず口にしたように、木なのか鉄なのかコンクリートなのかさっぱり見分けがつかない。
内部はもちろん美しい。福島産のスギ材を一部使用するなど林野庁もよろこびそうな配慮をしている。ところが、このままの現わしで事業主に引き渡すわけではない。表面は耐火認定を取るためにボードなどで覆われることになる。
工事関係者にも聞いた。「ここに入所される方は木でできていることが見て分かりますか? 」と。その関係者は「無理でしょうね。我々プロでも一見して木造か鉄なのかの区別はつかない」と答えた。
いまさら木造の良さについて書かないが、今の耐火・防火基準は全て木の良さを覆い隠すイチジクの葉っぱだ。木が恥部のように扱われるのにものすごく腹か立つ。
この日から向こう3日間は、われわれ記者も含めて業界や行政関係者など1,000人くらいが見学に訪れるそうだ。せっかく美しい木の建物を造って、それを覆う愚かしさに気づいてほしい。耐火・防火基準はわが国の文化の否定だとも思う。
外観も少しは木造らしい仕上げをしており、完成するのが楽しみだが、わが国初の記念すべき木造建築物が鉄やコンクリと同じ姿なのを見せつけられるのだろうか。
「ミッドプライウォールシステム」を採用した壁
シートで覆われた建物
三井ホーム 国内初の2×4工法による大規模木造5階建て受注(2015/4/3)