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2016/02/29(月) 00:00

ブルースタジオ 築32年の軽量鉄骨アパートを環境共生型へリノベ

投稿者:  牧田司

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「縁木舎」

 ブルースタジオが企画・設計監理を担当した築32年の軽量鉄骨造2階建てアパートの1棟リノベーションプロジェクト「縁木舎」を見学し、植栽計画を担当したエーピーデザイン社長・正木覚氏から武蔵野の生態系を学ぶ「まち歩きトーク」に参加した。

 物件は、JR 中央総武線・京王井の頭線吉祥寺駅から徒歩18分(小田急バス明星学園前停留所から徒歩3分)、三鷹市井の頭5丁目に位置する敷地面積520.37㎡、延べ床面積282.76 ㎡の軽量鉄骨造2階建て全9戸。専用面積は21 ㎡、33㎡、42㎡、53㎡。既存建物竣工年は1982年4月。リノベーション竣工年は2016年1月。企画・設計監理はブルースタジオ。施工は有限会社キューブワンハウジング。植栽計画はエービーデザイン。

 現地は、井の頭公園を抜けた中高級住宅が建ち並ぶ第一種低層住居専用地域の一角。従前の建物は1982年に大手ハスウメーカーによって建てられた1戸約21㎡のアパート。築年数が経過するとともに競争力を失い、約6万円だった賃料は約5万円まで下げざるを得ない状況になっていた。

 昨年、この状況をどうするかの検討が始まり、敷地内に自生したムクなどの樹木を残す環境に優しく人にも優しい同社の提案が受け入れられ、1棟リノベーションすることが決まった。

 リノベーションにあたっては、環境共生を重視するため敷地内のムクなどの既存樹を極力残し、新たにコナラ、シラカシの高木や草花を植栽。プランはニーズの変化に対応して2戸を1戸にした41㎡のタイプを増やし、床材・面材にクルミ、オーク、カエデ材を多用しているのが特徴。

 賃料は建築当初を上回る7万円くらいに設定したにもかかわらず、これまでに約8割の入居が決まっている。

 「まち歩きトーク」では、冷たい雨が降る中、正木氏の案内で入居者や若い人たちが春の芽吹きを体感した。正木氏は初代JAG ( ジャパンガーデンデザイナーズ協会) 会長で、「青豆ハウス」などブルースタジオの物件の植栽計画を数多く担当している。

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2部屋を1部屋にリノベーション

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庭(手前はウッドデッキの縁)

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◇    ◆   ◇

 内覧会が始まったのは午前11時。「まち歩きトーク」は午後1時30分から。この間、喫茶店などないから冷たい小雨が降る中、街をさまようしかなかった。「帰ろうかな」とも思ったが、春の芽吹きを堪能し、香りを胸いっぱいに吸い込みたいという欲望が勝った。約1時間の「まち歩きトーク」で拾った話を紹介する。

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正木氏

「歩くことは半分仕事」

 「縁木舎」で正木氏から「春をさがしに」のテーマについて説明を受けたあと、井の頭公園に向かった。正木氏が背負っている大きなリュックからホタルのように明滅する光が漏れていた。何だろうと思い聞いた。「迷子にならないように…というのは嘘で、いつも外を歩くのでぶつかられないように」ということだった。

 「先生、そんなに出歩くんですか」「歩くことは半分仕事のようなもの。自分が植えた樹木などは一本一本、育ち方を確認している」「先生、記者の仕事も同じです。どれだけ歩くかです」

●「ミツバチグリを見て僕の世界観は変わった」

 井の頭公園に入ってまもなく、若い女性参加者が「春の芽吹きを感じますね、先生」と語りかけ、「そうですね」と正木氏は応じた。嗅覚まで老化した記者は「ただの落ち葉の匂いじゃないですかね」と余計なことをしゃべってしまった。

 もう一つ。すぐ側に玉川上水が流れる緑道で正木氏はドキリとする言葉を発した。

 「大学2年生のとき(正木氏は現在63歳)、黄色い可憐な花をつけた〝ミツバフグリ〟に出逢って僕の世界観が変わった。植物が話しかけてくるようで、人間とつながっていることを悟った」

 若い女性がたくさんいる中で、よくぞ堂々と恥ずかしげもなくそんな言葉を口にできるものだと驚いた記者は、先生より2倍も3倍も大きな声で「先生、ミツバフグリって何ですか」と聞いた。正木氏は「フグリじゃない。ミツバチグリ」「……」(家に帰ってミツバチグリを調べた。よく見る野草だった。見学者が二人の会話を聞いていなかったのを祈るのみだ)

 それにしても、20歳にもなって野の草花に心を奪われる正木氏はなんて繊細な心の持主なのだろうとうらやましくなった。記者などは10歳の頃に春の芽吹きを感じた。正木氏は単に晩生だったのか。

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ミツバチグリ

●「竹炭を土中に埋めるときは気持ちが浄化された」

 芝生と枕木を敷いた駐車場の土中には大量の竹炭が埋められている。炭は土中で腐ることもなく保水性が高いために樹木の根が寄ってきて地盤をスプリング状態にするので、駐車場をコンクリで固めなくてもいいことを証明するためにそうしたという。オーナーの意向とも一致したそうだ。

 「竹炭を改良材として土中に埋めるとき、職人さんの顔がどんどん晴れやかになっていった。わたしも気持ちが浄化されていくような体験をした」と正木氏は振り返った。

「自然林⇒落葉樹⇒常緑樹へ変る自然の摂理」

 「もともと自然林は人間の手が加えられないと鎮守の森のようになるが、その過程で成長の早い二次林、落葉樹が主体となる現象が起こる。里山では木を伐採し薪炭にしたり落ち葉を肥料として集めたりするので地力が衰え、やせた土地でも育つアカマツ林となる。江戸時代の浮世絵などは松ばかりが描かれているのはそのせい」

 なるほど。石油が薪炭に取って代わってから50年。これから植生はどうなるのか。大量に発生している松枯れとは関係あるのか。

●ドングリは子育てをしない?

 季節になるとドングリはたくさんの実を落とす。しかし、そのドングリの実は親のドングリの樹が元気なうちはほとんど発芽しないのだそうだ。親が伐採されたり倒れたりしたときにのみ発芽するという。親は子を育てない、子は親の死を待つ…これも自然界の摂理か、親子間の無駄な争いを避け共倒れにならないということかもしれない。

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玉川上水の緑道

 

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