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2016/02/29(月) 00:00

脚光浴びるインスペクション 宅建業法を改正へ 重説に盛り込む

投稿者:  牧田司

 国土交通省は2月26日、既存住宅の流通の促進を図るための「宅地建物取引業法の一部を改正する法律案」が閣議決定されたと発表した。

 不動産業者に専門家による建物状況調査(インスペクション)の活用を促すことで、売主・買主が安心して取引ができる市場環境を整備するのが主な目的。

 不動産業者が媒介して契約するとき、インスペクションを行う業者のあっせんに関する事項を記載した書面を依頼者に交付し、インスペクションを行った結果を重要事項説明書に記載することを求める。法律が成立してから2年後に施行する予定だ。

 国は、平成25年時点で4兆円の既存住宅市場を平成37年までに8兆円へと倍増させる目標を掲げており、このインスペクションの普及に大きな期待を寄せている。日本不動産鑑定士協会連合会(JAREA)も中古住宅の適正価格を査定するワンストップサービス「住宅ファイル制度」を武器に市場参入機会をうかがっている。

◇       ◆     ◇

 結構な法律改正だと思う。インスペクションが脚光を浴びることになってきた。

 問題は、法律案で「国土交通省令で定める者」となっているインスペクション業者をどう規定するかだ。現段階では建物診断のプロである建築士が想定されているが、建築士に限定することに対しては業界内からの反発も予想される。

 例えば、大手ハウスメーカー10社からなる「優良ストック住宅推進協議会」がそうだ。同協議会は2008年に立ち上げられたもので、①住宅履歴②長期点検メンテナンスプログラム③耐震性能-この3つを武器に確実に売買実績を積み上げてきており、独自の査定方式「スムストック査定」にも絶対的な自信を見せている。同協会が認定したスムストック住宅販売士は3,000名を超える。

 このスムストック住宅販売士をインスペクション業者から除外したら大混乱が起きる。同協議会こそがインスペクションの重要性を一貫して主張してきたからだし、戸建て流通のビジネスモデルを構築したのも同協議会だ。国会議員の先生たちも大手ハウスメーカーを敵に回すことはできないはずだ。

 だとすると、「国土交通省令で定める者」とは「建築士、又は国が同等の資格を有する者と認めた者」というような文言に落ち着くはずだ。

 もう一つ、見逃してはならないのが、重要事項の説明に関する宅建業法第35条六の二のロだ。宅建士は「設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類で国土交通省令で定めるものの保存の状況」について書面を交付して説明しなければならないことになっている。

 これは具体的に何を指すのか不明で、国交省も「これからの検討課題」としている。

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 中古住宅の流通促進を阻む大きな壁は、新築こだわり派の「新築のほうが気持ちがよい」という「気」だ。これがなかなか厄介だ。ベルリンの壁のようなものだったら壊そうと思えば壊せるが、なにしろ「気」は空気のように姿が見えない。この妄信・迷信・信仰・崇拝に似た「見えない壁」をぶち破らないと、中古市場の倍増はうたかたの夢に終る。インスペクションを武器に流通量を倍増させることなど絵空事だ。

 では、この「見えない壁」をどう打破するのか。残念ながらその手だてが見つからない。同じ土俵で戦えるようにするためには、関係者がコツコツと実績を積み上げていく以外にない。〝雨垂れ石を穿つ〟という諺もあるではないか。この変化の機会を捉えたい。不動産流通会社の出番だ。

 希望の光がないわけではない。消費者の意識は変わりつつある。国交省の住宅市場動向調査でもその変化はみてとれる。平成26年度と24年度の数値の変化に注目していただきたい。

 注文住宅、分譲戸建住宅、分譲マンション取得世帯が中古住宅を選ばなかった理由は、平成26年度では「新築のほうが気持ち良いから」が61.3%でもっとも多いのだが、これは平成24年度の73.2%(分譲派)から11.9ポイントも減少している。

 また、中古を選ばなかった理由として2番目に多い「リフォーム費用などで割高になる」は24年度の38.2%から26年度は27.6%へと10.6ポイント減少している。このほか「隠れた不具合が心配だった」は26.3%から24.5%へ、「給排水管などの設備の老朽化が懸念」は20.7%から17.4%へそれぞれ減少するなど、消費者の意識の変化がうかがわれる。

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 個人的な意見を言わせてもらえれば、インスペクションは、「瑕疵の有無を判定するものではなく、瑕疵がないことを保証するものではない」(国土交通省・既存住宅インスペクション・ガイドライン)というのはよくわかるのだが、「検査結果がどの検査事業者が行ったかによらず同様の結果が得られるよう、現時点で得られている知見や一般的に用いられている検査技術等に基づいたものとすること」(同)というのがよく分からない。

 誰が行っても同じ結果しか出ないことを求めるということは、誰もが見て触っても発見できないような問題点を指摘する水準以上の専門家は必要ないということなのか。だとすれば、消費者には選択肢はない。インスペクションは単なる〝安心料〟というのも寂しい。(そんなに報酬はもらっていないという反論がありそうだが)

 さらに言えば、いったいぜんたい「宅建士」「建築士」「鑑定士」(ハウスメーカーが組織するスムストック住宅販売士もある)の「士」が3人も4人も揃わないと中古住宅の質が担保されない、安心・安全な取引ができないというのは考えてみれば情けない。みんなその費用を消費者に負担させようというは理解されないと思う。

不動産鑑定士業界、「住宅」評価に注力 不動産価値にお墨付き(2015/12/22)

「スムストックの認知度と販売士がカギ」 優良ストック住宅協・和田会長(2015/8/27)

 

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