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2016/03/22(火) 00:00

コミュニティ崩壊につながるマンション議決権に「価値割合」の導入

投稿者:  牧田司

 国土交通省が「マンション標準管理規約」を改正したことは既報の通りだが、先日(3月17日)行われたマンション管理業協会の記者懇親会で「議決権割合」について質問が飛んだ。「価値が低い人に(議決権を)合わせるのはかえって不公平。タワーマンションをたくさん分譲している三井さんはどうですか」という質問もあった。

 これに対して、岩田龍郎副理事(三井不動産レジデンシャルサービス会長、三井不動産レジデンシャルサービス会長)は「お客さまがどう考えられるか。もう少し検討しないといけない」と導入に否定的な考えを示した。

 規約改正では、第46条の③に新築物件における選択肢として、総会の議決権(及び譲渡契約時の敷地の持ち分割合)について、住戸の価値割合に連動した設定も考えられる旨の解説を追加した。その解説として「この価値割合とは、専有部分の大きさ及び立地(階数・方角等)等を考慮した効用の違いに基づく議決権割合を設定するものであり、住戸内の内装や備付けの設備等住戸内の豪華さ等も加味したものではないことに留意する。また、この価値は、必ずしも各戸の実際の販売価格に比例するものではなく、全戸の販売価格が決まっていなくても、各戸の階数・方角(眺望、日照等)などにより、別途基準となる価値を設定し、その価値を基にした議決権割合を新築当初に設定することが想定される。ただし、前方に建物が建築されたことによる眺望の変化等の各住戸の価値に影響を及ぼすような事後的な変化があったとしても、それによる議決権割合の見直しは原則として行わないものとする」としている。

 この問題については、昨年も記事にしたが、「価値割合」に応じて議決権を設定することは選択肢としてはあるかもしれないが、価値基準もあいまいで、仮に導入すればコミュニティの崩壊にもつながりかねないもはらむ。推進派の危険な思想が見え隠れする。もう一度、警鐘を鳴らす意味で書く。

◇       ◆     ◇

 前回でも価値割合による議決権について具体例をあげて書いたが、もう一度、具体例をあげて説明する。

 昨年、三井不動産レジデンシャルが分譲して圧倒的な人気で完売した「パークコート赤坂檜町ザ タワー」の価格は1億4,920万~15億円で、専有面積は57.61~203.96㎡だった。最低価格と最高価格を価格差にすると1:10で、専有面積比率だと1:3.5となる。

 さて、ここで何を基準に価値割合を導けばいいか。国交省は単なる専有面積割合ではく、設備機器のグレードは含まないというから、価値割合は1:10でも1:3.5倍でもない。

 もうこの先は分からないのだが、階数による価値の差について考えてみよう。一般的なタワーマンションは階数が高いほど価格は高いが、これが普遍の原理かといえばそうではない。都心部などでは超高層マンションなどお互いが〝お見合い〟するケースが少なくなく、階数が高いほうが将来にわたって眺望・日照などが確保される可能性が高い。

 しかし、用途地域、地区計画(これも未来永劫ではないが)などによって、敷地前面に高い建物が建たないと想定される場合や、価格を高くすると売れないという市場のニーズを考慮して低層階も高層階も価格差をあまり設けないケースもある。眺望・日照の価値は個別性が高く測るのが極めて難しいということだ。

 海が好きな人は海が見えることに価値を見いだすし、山が好きな人は北向きでも山側を選ぶかもしれない。西陽が嫌いな人は東向きを選ぶかもしれない。需要者ニーズは千差万別だ。だからデベロッパーも値付けに苦労するのだ。

 設備仕様は、価値判断に加えないというのは分からないではないが、マンションの価値はまさにこれにある。ケミカル製品の壁や床材と比べ無垢の建具・壁・床がいいのはいうまでもない。デベロッパーはここに付加価値を付ける。商品企画・販売担当者の腕の見せどころだ。この価値を無視してマンションの価値は果たして測れるのか。

 眺望などの事後変化を考慮しないというのもわからない。事後変化によって眺望・日照阻害がないことがマンションの資産性を高める。事後変化を考慮しなければ、マンションの価格など決められないし、ユーザーはこの事後変化を物件選考の際に重きを置くべきだ。

◇      ◆     ◇

 これまで書いたように、価値割合の導入は極めて難しいことが分かったはずだか、仮に1:7くらいで採用するとしよう。管理費もその価値割合に応じて差を設けたとしよう。

 そうなった場合、ゲストルームの申し込みはどうなるのか。高額住戸居住者は「管理費を多く払っているのだから、共用部分の使用・利用も差をつけるべきで、ゲストルームを優先的に使わせろ」というかもしれない。

 そんな事態にはならないだろうが、先の「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」(座長:福井秀夫・政策研究大学院大学教授)で価値割合を主張された方はそのようなことが理に適っていると考えている人だ。このような「経済価値」を重視する動きをネオリベラリズムと呼ぶ。組合は四分五裂、コミュニティは崩壊し、低層階に住む人は高層階に住む人を妬み、高層階の住人は下層階の居住者を蔑む風潮がマンションを支配する。合意形成は絵に描いた餅-というより「価値」の高い住戸に住む人に権力を集中させようという考えだ。

問題はらむ議決権割合に価値割合の導入 マンション管理検討会(2015/4/7)

 

 

 

 

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