Tsunashima SST協議会(代表幹事:パナソニック、野村不動産)は3月28日、横浜市港北区綱島で開発を進めている「Tsunashima サスティナブル・スマートタウン(Tsunashima SST)」の「まちづくり構想書」をまとめ発表した。10団体が異業種協業の街づくりに向けてスマートシティとしての環境目標、安心・安全目標、景観や運営の規定などを策定した。報道陣の関心も高いのか、普通のデベロッパーの会見の2~3倍の約100人が駆けつけた。
「Tsunashima SST」は、パナソニックの事業所跡地約3.8haに商業施設、技術開発施設、集合住宅、国際学生寮を整備し、エネルギー、ファシリティ、コミュニティ、セキュリティ、モビリティ、ウェルネスなどの街全体の情報を一元管理するタウンマネジメントを導入し、都市型スマートシティの構築を目指す。
具体的な数値目標として、CO2排出量を2005年度比で40%削減し、廃熱利用・水素利用など新エネルギーの利用率30%以上を掲げている。
パナソニックは、遊休地の財務価値と事業価値の向上、地域貢献によって空間価値のさらなる創出を目指す。
野村不動産は、マンション94戸をMID都市開発(4月1日から関電不動産開発に社名変更)とともに建設するほか、近接する横浜市港北区箕輪町二丁目の「日吉複合開発計画」(約5.6ha)と広域連携を図り、サスティナブルな魅力あるまちづくりを目指す。
東京ガスグループは、街に設置するタウンエネルギーセンターを通じてガスコージェネレーションシステムを導入するほか 、異用途施設へ電気や熱のエネルギー融通を行う。
JXエネルギーは、次世代エネルギーとして注目の高い水素活用拠点の運営に携わり、燃料電池自動車への水素供給のほか、未来の水素社会に向けた各種取り組みを推進する。
慶應義塾大学は、国際学生寮を開設し、学生の主体的活動や研究者の実践的取り組みを促す仕掛けにより活発な国際交流や地域とのコラボレーションを実現する。
横浜市は、環境未来都市にふさわしい持続可能な魅力あるまちづくりを支援していく。
会見に臨んだパナソニック・津賀一宏社長は、「『Tsunashima SST』は『FujisawaSST』に次ぐ第二弾。わたし自身も『藤沢』に何度も足を運んでいるが、行くたびに新しい発見がある。進化し続けている。『綱島』もコンセプトは同じだが、新たな都市型のスマートシティへの挑戦という点が異なる。都市ならではの問題点、社会課題を明確化し解決していくかがポイントになる。『綱島』で得た知見、ノウハウは世界各国で求められている都市型のスマートシティづくりに生かしていく。さらにその先を志向し、日本が世界に誇れる街づくりに貢献すべく、パナソニックが持つ知恵と技術を存分に発揮していく」と述べた。
続いて登壇した横浜市長・林文子氏は「横浜の環境施策は世界の都市をリードしているという評価を得ている。『綱島』の業種・業際を超えた先進的な取り組みを全国に発信し、さらには隣接する『日吉』との広域的な街づくりとしても大きな一歩にしたい」と語った。
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会見が始まってから約1時間、8人目に登壇した慶應大学常任理事・岩波敦子氏が〝権力に媚びへつらうな〟と言ったらしい福澤諭吉の建学の精神を話したとき、芥かわくらばのように時の流れに身を任せ、流されるままに生きてきた記者は頭をどやされたような気になり、さらに先日のさいたま市の「スマートタウンさいたま」の会見のことも思い出され、目が覚めるどころか覚えていたことが全て吹っ飛んだ。
「慶大はどうなのか」と言い返したくもなったのだが、堪えることにした。そんな質問をする時間も与えられなかった。
それにしても、会見は盛沢山な内容で、記者は完全な消化不良を起こした。
取材がいかに大変だったか、登壇順に列挙する。パナソニック社長・津賀一宏氏、横浜市長・林文子氏、パナソニック役員ビジネスソリューション本部本部長・井戸正弘氏、野村不動産社長・宮嶋誠一氏、ユニー常務取締役・吉田譲氏、Apple(司会者が代弁)、東京ガス・早川美穂氏、JXエネルギー取締役常務執行役員・西島弘也氏、慶應大学常任理事・岩波敦子氏、横浜市都市整備局長・平原俊英氏まで9人に達する。
この方々が1時間15分の間に理念、哲学や難しい専門語を交えて話をされた。それぞれ記事になりそうな言葉を必死で書きとめていたのだが、岩波氏の言葉にショックを受け、記事の構成などを考える余裕がなくなり、結局、プレース・リリースをコピー&ペーストすることにした。リリースはよくまとまっていると思う。
どうして行政が絡むとこのような会見になるのか。もっと時間をとって分かりやすいものにしていただきたい。聞く側の立場にもなってほしい。一人の人が3分間に話すとすれば、テーマを3つくらいに絞り、原稿用紙にしてせいぜい2枚(800字)くらいにとどめてほしい。
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会見でもっとも注目したのは、野村不動産がマンションをいくらで分譲するかだ。分譲するのは来年あたりだから、宮嶋社長が話すわけが絶対ないとはわかっていたが、会見場に顔を見せていた野村不動産ホールディングス執行役員・山本成幸氏に「坪単価300万円でどうですか」と吹っかけてみた。山本氏は「それで売れますかね」と答えた。
この言葉がヒントになる。同社は5年前、今回の「Tsunashima SST」のはす向かいで「CASBEE横浜」のSランクを取得した「プラウド綱島」(99戸)を坪200万円で即日完売している。その時もパナソニックの設備機器をフル装備していたので、パナソニックの工場再開発も同社が絡むと確信していた。
あれから5年。時代は変わり、日吉、綱島は再開発、相鉄・東急直通線開通などでポテンシャルが高まり、「世界に誇れる」コンパクトスマートシティが実現するのだから、坪200万円から300万円へ50%も値上がりしても記者は驚かない。「CASBEE横浜」のSランクを取得し、新排水システムも導入するそうだ。
しかし、綱島街道は道路が狭く、現地まで徒歩10分以上だから難点もないわけではない。さらに坪300万円(にならないかもしれないが)といえば、横浜市民の第一次取得層の取得限界をはるかに超える。
そこで林市長にお願いしたいのは、マンション購入者に都市計画税を軽減するとか利子補給をするとかのインセンティブを与えてほしいということだ。CO2を40%も削減し、新エネルギー使用量を30%以上実現するというのなら、実施する合理性はあるはずだ。「世界に誇れる」スマートシティに普通の市民や市職員が住めないというのは悲しいではないか。
「CASBEE横浜」のSランクを取得した野村不動産「プラウド綱島」 全99戸一挙販売へ(2011/3/3)
「日本一の街」になるかは保留 「美園スマートホーム・コミュニティモデル街区」(2016/3/19)