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2016/03/31(木) 00:00

「高所得層」 23年度と比べ9.8%増の90万人 27年度 市町村税課税状況

投稿者:  牧田司

 総務省は先に平成27年度の「市町村税課税状況の調」を公表した。これは、平成26年度の納税義務者の所得に対する平成27年度の課税状況をまとめたもので、1年前の遅行指標ではあるが、なかなか興味深い内容を含んでいる。概観するとともに、安倍政権誕生前の平成23年度の課税状況と比較して、アベノミクス効果も探ってみた。

 ここでいう「納税義務者」とは、住民税の所得割額の課税対象になっている人のことで、①生活保護を受けている人②障害者・未成年者・寡婦又は寡夫で、前年中の合計所得金額が125万円以下(給与所得者の場合は年収204万4千円未満)の人などは含まれない(東京都23区の場合)。

 さて、数字を見てみよう。平成27年度の住民税納税義務者数は約5,587万人で、このうち課税標準額が1,000万円以上の人は約90万人(前年度比3.5%増)、全納税義務者に占める割合は1.7%(同0.1ポイント増)となり、所得割額は1兆1,263億円で、全体の16.3%を占めている。

 課税標準額とは、所得金額から社会保険などの所得控除・特別控除を差し引いた課税対象額で、「10万円以下」から「1,000万円以上」まで9段階に分けてデータが公表されている。「所得割」とは、所得金額に応じて所得の多い人ほど多くの負担をする市民税のことだ。

 課税標準額が1,000万円超の層は、アッパーミドル・富裕層ということがいえるが、ここでは「高所得層」と呼ぶことにする。

 この「高所得層」の山林所得、退職所得を含めた総所得額は20兆円だ。全体が178兆円だから、全体の11.4%の所得を得ている。

 不動産や骨とう品、ゴルフ会員権などの長期・短期譲渡所得額は4,792億円で、全体の13.5%を占めている。

 株式の譲渡所得は1兆193億円(前年度比50.2%減)で全体の55.1%に達している。前年より激減したのは、平成25年末で軽減税率が廃止されたことによるものとみられる。

 株式の譲渡所得と比べ不動産などの譲渡所得が意外と低い実態も浮かび上がる。ただ、昨年は億ションが飛ぶように売れており、相当の額が不動産投資に向けられたようだ。日経新聞によれば、2015年の銀行による不動産業向けの新規貸し出し額は約10兆6,730億円となり26年ぶりに過去最高となったように、富裕層マネーが「マイナス金利」導入を支援材料に株から不動産へ向かう可能性もありそうだ。

 ケタ違いの数値を示している「高所得層」だが、寄付金税額控除額は全体の49.1%を占めてはいるものの、金額的には58億円にとどまっている。米国と比べ比較にならないほど少ない。

 この原因として文化、税制の違い(わが国は総所得の40%が控除限度額)などが指摘されている。お金持ちが寄付をしたくなるような税制改革が必要かもしれない。

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 もう一つのテーマである、安倍政権誕生前と比べどうなったか。安倍政権が誕生したのは平成24年12月なので、その前年の平成23年度と比較した。

 23年度の「高所得層」は82万人(全体に占める割合は1.5%)だから、27年度は9.8%、8万人増加し、比率も0.2ポイント上昇している。

 総所得額はどうか。平成23年度は全体で172兆円であるのに対して、27年度は178兆円と6兆円増加。高所得層のそれは18兆471億円(同10.5%)から20兆2,850億円(同11.4%)と、こちらも額、比率とも増加している。

 株式の譲渡所得も23年度全体で8,549億円から27年度全体は1兆8,500億円へ増加。高所得層は4,902億円(同58.0%)から27年度は1兆193億円(同55.1%)と額では倍増している。

 所得割額は平成23年度全体の6.4兆円から27年度は6.9兆円へと増加しているが、高所得層のそれは9,904億円(同11.8%)から27年度は1兆1,263億円(同16.3%)へと増加している。

 寄付金の税額控除額も全体では23年度の18億円から118億円へと6.5倍も増加。高所得層も11億円から58億円へと増やした。

 この数値だけでは単純比較できないが、アッパーミドル・富裕層は3年間で10%近く増加しており、アベノミクス効果が表れているといえるかもしれない。

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 それでは、課税標準額が10万円未満の層はどうなったか。ここでは「低所得層」と呼ぶことにする。

 この層は、23年度が236万人(全体に占める割合は4.4%)で、27年度は235万人(同4.2%)だ。わずかだが人数、比率とも減少していることが分かる。

 「低所得層」の総所得金額は23年度の1兆6,375億円(同1.0%)から27年度は1兆4,939億円(同0.8%)へ、所得割額は23年の316億円(同0.5%)から27年度は459億円(同0.7%)へとそれぞれなっている。

 面白いのは株式の譲渡所得だ。23年度の譲渡所得は905億円(同10.6%)もあり、27年度は1,472億円(同8%)へ金額は実に63.4%増加している。この額は、課税標準額が400万~550万人の層(約304万人)の譲渡所得1,178億円より多く、「高所得層」を除く他のどの層も上回っている。つまり所得が低い〝不労所得者〟もたくさんいることをテータは裏付けている。

 一方で、厚労省の統計調査を見ると、直近の賃金データは低い数値で推移している。

 なので、アベノミクスは確実に「高所得層」を増やしており、所得格差は広がったといえるが、「低所得層」までまんべんなく潤しているかどうかは「市町村税課税状況の調」でははっきりしないということになりそうだ。見方によってはいかようにもとれる。

 

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