ポラスグループは4月12日、企画-設計-施工まで〝オールポラス〟で取り組んだ「ポラス建築技術訓練校」が竣工したのに伴う記者見学会を行った。建物は、国交省の再生可能な資源である木材を大量に使用する木造建築物の技術向上に資するとともに普及啓発を図ることを目的とした補助事業「平成27年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されている。
建物は、一般に流通する安価な集成材を複数本集束させることで「合せ柱・合せ梁・重ね梁」として強度を高める技術を開発したのが特徴。
発表会に臨んだ同社経営企画室室長・江本昌央氏は、「2年前から取り組んできたプロジェクトで、ポラスグループの総合力を結集した。木造非住宅のモデルハウスとして今後の受注拡大に結びつけたい」と語った。
また、ポラスハウジング協同組合施工推進課マネージャー・成田超洋氏は、「訓練校の卒業生は697名。この中からたくさんの技能オリンピック受賞者を輩出してきた。今年の新入生は44名。立派な大工などに育てたい」と話した。
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この建物については、1月に行われた「構造見学会」に参加して、記事も書いているのでそちらも参照していただきたい。
木造住宅の美しさについては何度も書いてきたが、完成した建物、特に事務所棟の内部は柱や梁が現しとなっており木造の建物であることが判るようになっている。
一方、実習棟の天井高は約6m。一般の木造住宅に使われている柱や梁の材料を使用しながらもこれだけの大きな建物を作り上げたポラスグループの総合力には関心をしたのだが、構造見学会で見惚れた天井部分などはパネルで覆われていたのは少し残念だった。
せっかくの木造建築物なのだから、その特徴が通りすがりの人にも気付くようなデザインをもっと取り入れてよかったのではないか。
「ポラス建築技術訓練校」は、建築大工、内装工などの若い技能者の育成を30年間にもわたって継続してきたことに価値がある。卒業生は697人もいるというではないか。
建築業界では技能者不足が叫ばれて久しいが、具体的な解決策は描けていないのが現状である。日本の未来を考えるならば今回のように技能者育成の学校を自ら設計、施工するような企業がもっと出てくるべきだろう。
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見学会では、設計や施工を担当した同社グループのスタッフと懇親会を兼ねた食事会が催されたのだが、隣り合わせた鍋野友哉アトリエ/TMYA主宰・鍋野友哉氏が興味深いことを話した。「木は耐震性、耐久性、断熱性などそれぞれ個別の性能ではナンバーワンではないが、いずれの性能もそこそこよくバランスがとれている。そこを最大限に活かす設計ができれば良い木造建築が生まれるいずれもバランスがとてもいい」と。
森林・木材の価値は、地球環境保全、生物多様性保全、土壌保全・水資源涵養機能、快適空間形成機能、文化機能などそれこそ数え切れないほどある。
にもかかわらず、わが国の森林・林業は危機的状況にあることが指摘されている。地域コミュニティ、文化の崩壊も懸念されている。
どうして木材が鉄やコンクリに取って代わられたのかここでは書かないが、結局は、こうした森林・木材の価値に目をつぶり、「安いものがいいものだ」という経済合理性を最優先してきたことに尽きるのではないか。
鍋野氏が話したように、これからはバランスがいい木を基本として、足りないものを他の製品で補っていく-これは生き方にも通じるのではないか。
鍋野氏は1979年生まれの「東京大学大学院農学生命科学研究科木質材料学研究室」卒だ。農学から建築を設計・研究するというのがいい。いまどこの大学も「グローバリズム」を金科玉条のように掲げ、文科省からの補助金欲しさに理系を重視し、英語を共通語にしようとしている。入学式で式辞を英語で話した学長もいるくらいだ。「農本主義」は死語になったのか。鍋野氏のような農学者の反撃に期待したい。
ポラス サステナブル建築物等先導事業の構造見学会(2016/1/14)