昨日(4月20日)、同業の記者から「熊本県南阿蘇町で倒壊した学生アパートの築年数は42年だった」とするある会社のブログ記事が添付されてメールで送られてきた。
記者もこの倒壊アパートについては相当のショックを受けた。テレビ画像では木造か非木造かは判別できなかったが、かなり古い建物かあるいは構造に問題があるのではと思っていた。建物の構造や築年数などについて言及するマスコミはなかったはずだ。
どうしてあのような無残な倒れ方をしたのかずっと頭から離れなかった。「なぜ」を繰り返した。理由を知りたく記事にもしたくて、木造の構造に詳しい人にも相談したが、「情報が少ない段階で書くべきではない」と言われそのままにしていた。
そして昨日だ。同じように不思議に思っていた人が多いようだ。そのブログ記事には、件のアパートは登記簿では木造の昭和49年築で、"改築◯年"となっていたようだ。
ここで問題となりそうなのは、築42年という築年数ではなく「改築」だ。建基法では「改築」とは、「建築物の全部又は一部を除却した場合、又は災害等により失った場合に、これらの建築物又は建築物の部分を、従前と同様の用途・構造・規模のものに建て替えること」とあり、従前のものと同じ、つまり現行の建基法の規定に従わなくてもいいようにも受け取れるが、それは軽微な改築であり、一定規模以上のものは建物全体が建基法の規定に適合するよう是正しなければならない。
だとするならば、今回の倒壊アパートはどうなっていたのか。記者は現行の建基法に適合していればあのような倒れ方はしないと思う。
このアパートに住んでいた学生が死亡した東海大学の災害対策本部・広報は、「学生が死亡したアパートは当大学が管理・運営している学生寮ではない。現段階では事実関係が明確ではないが、比較的(築年数が)新しいと聞いている」と話している。
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国土交通省の「賃貸住宅標準契約書(改訂版)」には、構造が木造か非木造か、工事完了年がいつであるか、大規模修繕を行っている場合はいつであるかを記載するよう求めているだけだ。
賃貸だろうと分譲だろうと、一番肝心なのは耐震性・遮音性・断熱性・居住性などの基本性能だ。分譲マンションでは、デベロッパーは杭打ち状況、壁・床厚、遮音等級、断熱性能、天井高、セキュリティなどをほとんど例外なしにパンフレットに盛り込んでいる。重要事項説明書にも法令上の制限や建物の維持・管理などを記載することが義務付けられている。
それに対して、どうして賃貸はもっとも肝心な耐震性についてはほとんど何も求めていないのか。これが信じられない。
ユーザーは真っ先に建物が旧耐震なのか新耐震なのかを確認することが必要だ。大きな地震(震度6~7)が起きたとき、「建物が倒壊して死ぬかもしれない」旧耐震の物件を購入し、あるいは賃借すべきでないと記者は個人的には思っている。
賃貸物件の貸主もまた旧耐震の物件については耐震診断を行い、必要なものは耐震補修を行うべきだ。これは最低限の義務だろう。
仲介会社も同様だ。賃借人の安心・安全を提供するのが宅建業者の使命であるはずだ。
宅建業法の目的は「購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ること」(同法第1条)であり、宅地建物取引士の任務は「宅地又は建物の取引の専門家として、購入者等の利益の保護及び円滑な宅地又は建物の流通に資するよう、公正かつ誠実にこの法律に定める事務を行う」(同法第15条)だ。
この文言からすれば、少なくとも旧耐震の木造アパートが〝危険〟であることを告知する義務があると思うがどうだろう。そのような危険な共同住宅が市場に流通しなくなるような社会にしなければならない。