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2016/06/06(月) 00:00

「多摩NTにおける人的不良在庫」 吉川徹・首都大教授が軽妙発言

投稿者:  牧田司

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吉川氏

 首都大学東京教授で多摩ニュータウン学会の理事を務める吉川徹氏が「多摩ニュータウンにおける人的不良在庫」という、極めて刺激的で機知に富みかつ本質をついた、ひょっとすると今年の流行語大賞にノミネートされそうな言葉を発した。6月4日に行われた学会が主催する「多摩ニュータウンと女性」と題する討論会場での質問に答えたもの。

 「人的不良在庫」発言のきっかけはこうだ。

 討論会では、「たまこ部」の永山菜見子氏・秋好宏子氏、せいがの森保育園園長・倉掛秀人氏、NPO法人シーズネットワークの岡本光子氏、首都大学東京助教・松本真澄氏がそれぞれの立場から問題を提起した。

 記者は、問題提起者が楽観的、ポジティブに多摩ニュータウンについて語ったのに対し、「多様なライフスタイルといわれるが、普通のサラリーマンにとって多様な選択肢などない。都心のマンションは20坪で億ションになり、23区でも子育てファミリーマンションは6,000万円くらいする。時間と空間をシェアするなどとてもできない。絶望的な世の中にしたのはわれわれ団塊の世代の責任だろうが希望もある。学会と多摩ニュータウンを再生・活性化させるためには、吉川先生が仰ったマンションなどのハードとしての『在庫』と、老人力といっては失礼だが、この方々のソフトとも言うべき『知見』を結び付けるべきではないか」と質問した。

 この質問に対して、20歳代と思われる永山氏が「そのようなおじさん、どこにいるんですか」と鋭く切り返してきた。

 ドキッとした記者はとっさに「西浦先生に聞いてください」と振ったら、西浦氏は自らの論文の締め切りが迫っているのかパソコンに熱中されており、「ダメ」の目線を送られたので、「吉川先生、お願いします」と下駄を預けた。

 すると吉川先生は「『年度』ごとに同じメンバーだけで凝り固まるのが悪い。学会もそう。年度ごとに(会員が)いなくなる。リノベして戻ってくるような、豪胆な人的在庫の組み換え、たな卸し(棚ざらしとは仰らなかったはず)をしないと人的不良在庫化する。世代間の交流がなく、若い人に知見が受け継がれていないのも問題。(高齢者を)おだてて引っ張り出してはどうか」と話した。(「年度」というモノサシに注文をつけられたのに大賛成。高齢者の時間はゆったり流れる。どうしてテニスと同じ時間でものごとを測ろうとするのか、世の中が間違っている)

 吉川氏は最近発行された「多摩ニュータウン研究 №18」で、吉川氏が「大好きな」ショスタコーヴィチが他の作曲家の旧作から頻繁に「引用」「転用」したことを紹介し、「優れた建築物や基盤施設の『在庫』に満ちた多摩ニュータウン」の「在庫」を「引用」「転用」してはどうかと結んでいる。

◇    ◆   ◇

 記者も学会の末席を汚しているのだが、ここで学会の紹介。

 何よりいいのは年会費3,000円で学者先生の論文が読めることだ。学会誌は横文字で、表記が句読点ではなくカンマ・ピリオドのため、老眼のため区別がつかない年寄りには全然親切ではないのが残念だが、会費が会費だから文句は言わない。

 それより素晴らしいのは、新潟県出身の学会会長・西浦定継氏(明星大教授)が会合のあとの懇親会などにショスタコーヴィチ級の1杯で3,000円の価値がありそうな特上の日本酒をプレゼントしてくれることだ。この日も、獺祭と同レベルという山口県の「雁木」と佐渡島の「風和(かぜやわらか)」に、赤と白のワインまで大判振舞をされた。

 もうひとつは、総会などの会場となる首都大学東京や明星大学のキャンパスの自然と触れ合うことができ、大学の先生はもとより若い学生さんなどとも交流できることだ。知的な刺激は間違いなくボケ防止につながる。

 つまり、①年間3,000円で論文が読める②1杯3,000円の酒がタダで飲める(この日は予定参加費2,000円が消費増税も延期されたためか1,000円にプライスダウンされたのがうれしいやら悲しいやら)③若者・(記者のような)馬鹿者・よそ者と交流できる-こんな素晴らしい会はない。「不良在庫化」しないためにも高齢者にお勧めだ。わが国の社会・経済状況を映す鏡のように予算も決算もどんどんシュリンクする学会を活性化させていただきたい。学会のリンクを貼り付ける。

◇    ◆   ◇

 これはおまけだが、吉川先生は相当な「ショスタ」ファンだ。ここに音楽をこよなく愛した作家・辻邦夫のエッセー「わが音楽遍歴の風景」の一部を紹介する。「小説」の代わりにあらゆる仕事が当てはまるのではないかと思うからだ。

 「現在、世界が危機に晒され、人々が頽廃と混迷の中に喘いでいるにもかかわらず、私が、廻転するコマの中心にも似た不動の一点に身を置いたような感じで世界を見られるのも、この<美なるもの>が私の運命の始まりであり、終わりであると思えるからだ。官能の陶酔に根ざしながら、官能を超えて精神の全オクターブを激しく燃え立たせ、その一瞬に『すべてよし』と叫ばせるような、そうした高揚した甘美な恍惚と充実と解脱感を、私は<美なるもの>の根源的特徴と考えているが、音楽の形でそれを受け取り、小説の形でそれを吐き出すことが、私の唯一の在り方なのだ。私はそれ以外のどんなものも欲しくない。そのかわり音楽を聴くことと小説を書くことだけは何としても与えてほしい。それだけは、大地に跪いても、懇願しつづけるつもりである」

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西浦会長と理事の荒又美陽氏(東洋大准教授) 荒又氏はこの日(6月4日)が誕生日とかで、総会・討論会後の懇親会でケーキをプレゼントされていた(首都大学東京で)

多摩ニュータウン学会

 

 

 

 

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