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2016/10/25(火) 00:00

「202030は可能か」 日本学術会議 ジェンダー研究分科会セミナーに参加して

投稿者:  牧田司

 日本学術会議社会学委員会ジェンダー研究分科会が「202030は可能か-『女性活躍推進法』の実効性を問う-」と題する公開シンポジウムを10月23日、日本学術会議で開いたので議論を聞いてきた。

 「202030」とは、平成15年6月、内閣府・男女共同参画推進本部が決定した「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的位置に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする目標」をわかりやすく言い表したものだ。2010年段階でこの数値をクリアしているのは薬剤師(67.0%)、国の審議会など委員(33.8%)くらいしかなく、衆議院議員(10.9%)、100人以上の民間企業の課長相当職以上(6.5%)など、圧倒的に低い現状値を引き上げようというもので、2015年8月には、女性管理職の割合に数値目標を義務づける「女性活躍推進法」が参院本会議で可決、成立した。

 シンポジウムは、この数値目標を達成するのは可能か、さらにまた「女性活躍推進法」の問題と可能性を論じるのが目的だ。

 記者は、「女性活躍」なる言葉は何だか胡散臭く好きではないが、「女性活躍」=「男性の働き方改革」でもあると考えているので、女性の学者先生がどのようなことを話すか興味があったので聴きに行ったのだ。

 シンポジウムに参加して感じたのは、これほどの大きなテーマであり、コメンテーターに立命館大学特別招聘教授・上野千鶴子氏、東京大学教授・大沢真理氏が登壇し、その他多くの専門の立場の方々6人が報告するにも関わらず、聴衆は100人どころか数十人しかいなかったことだ。この日が土曜日で、家事や子育てに忙しいからだろうか。ならば保育付きならもっと集まったのではないかと率直に感じた。(家事や子育ては女性だけの仕事でないと怒られそうだが)

 もう一つは、どうしてジェンダー論者は女性ばかりなのか。この分科会には、女性は連携会員を含め18人もいるのに、男性委員は京都大学大学院文学研究科教授・伊藤公雄氏一人だ。上野氏らと真っ向勝負する男性の学者はいないのか。これまた男性にとっても女性にとっても不幸なことではないのか。

 とはいえ、女性の方々が何を考えているのかよくわかったし、何よりも声が美しく、「えー」「あのー」などの機能語をほとんど使わなかったのに感心もし、10分間の休憩をはさんで5時間も真剣に論議する〝粘り強さ〟には「男性は絶対かなわない」と感服した。

 (女性の)参加者や報告者の胸をぐさりと衝いたのは、大沢氏が「女性が(管理職などに就いて)何が変わるのか明らかにすべき」と語り、上野氏が「202030って何? これはゴールなのか手段なのか、達成した先には何があるのか、均等法によって(女性は)『白鳥』になれたのか、同床異夢ではないのか、女が軍隊への女性の参加は究極のジェンダーフリーなのか、大隅さんのノーベル賞受賞報道で、同じ研究者の奥さんの『内助の功』が強調されるのはなぜ」などと語ったことではないかと思う。

 ◇       ◆     ◇

 わが住宅・不動産業界の「202030」はどうか。記者の知る限り、上場会社の女性役員はコスモスイニシア、サンケイビル、フージャースコーポレーション、ヒューリックくらいしかない。管理職比率も全体では10%もないはずだ。

 しかし、マンションなどの商品企画は「女性の視点」抜きではありえない。三井不動産レジデンシャルは20年前に「MOC」を立ち上げ(実際はそれ以前から取り組んでいたが)、業界をリードしてきたし、大京、東京建物などの女性だけの商品企画グループは多くの成果を上げてきた。コスモスイニシアにはそもそも男女の差がない企業風土がある。

 ダイバーシティの取り組みも動きは緩やかではあるが、先進企業が見られるようになってきた。積水ハウス、大和ハウス工業、NTT都市開発は経産省・東証の「なでしこ銘柄」に選定されたし(株価が反応しないのは残念だが)、野村不動産とヒューリックは女性活躍推進法に基づく認定マーク「えるぼし」の最高評価の認定を受けた。

 また、東急リバブルはかなりハードルが高いとされる厚労省「均等・両立推進企業表彰」を、さらに厚労省「子育てサポート企業」には業界から10社以上がそれぞれ認定を受けている。

 均等法が(醜いアヒルの子を)「白鳥」にしたのか、それとも『カモ』にしたのかは分からないが、「女性活躍」=「男性の働き方改革」=ダイバーシティの取り組みは待ったなしだ。202030の実現に向けてわが業界が先進的な役割を果たすことを期待したい。

◇       ◆     ◇

 「白鳥」について記者は異論がある。多くの人は「白鳥(ハクチョウ)」からチャイコフスキー「白鳥の湖」、サン・サーンス 「白鳥」を連想するのだろうが、「白鳥(シラトリ)」と読めば、若山牧水の「白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ 」を思い浮かべる。

 若山牧水が自らの寂しい孤独な心境をうたったのだろうが、記者に言わせればそれこそ〝白鳥の勝手〟だ。空の青や海の青に染まず漂う姿は、人間に例えれば右にも左にもぶれず、自らの信念、孤高を貫く気品に満ちた実に美しい姿勢ではないか。

 そんなに「白鳥(ハクチョウ)」になりたいのか、醜いアヒルのどこが悪いのか。何とも滑稽な無防備な〝カモ〟もまたかわいいではないか。

 会社の女性スタッフに「女性活躍をどう思うか」と聞いたら、「活躍したからといって(アベノミクスの)手柄にしてほしくない」と手厳しい答えが返ってきた。

 

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