プレハブ建築協会は12月7日、「ZEH元年-その先の住まいとまちづくり」と題する2016環境シンポジウムを実施した。関係者ら約200名が参加した。
「2020年までに標準的な新築住宅でZEHの実現を目指す」という国の政策目標の達成に沿ったもので、首都大学東京大学院教授・小泉雅生氏(小泉アトリエパートナー)が「新しい環境文化の形-クリマデザイン」と題する特別講演を行った。
「クリマデザイン」とは、小泉教授や工学者の村上周三氏(建築環境・省エネルギー機構理事長)らが提唱する、パッシブデザインを一歩進めた機械設備(アクティブ)も適宜使いながら環境を制御しつつ地域性を背景とした環境文化を創造しようという新しい考えで、「環境の質を上げ、生きものとしての快適な環境を考え、『気候』をデザインする」(小泉氏)というもの。
シンポジウムでは、積水化学工業、パナホーム、サンヨーホームズの最新の事例報告も行われた。
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小泉氏は、「これまで様々な実践を行ってきた中で、もう一度理念、思想を考え直そう」と、クリマデザインにたどり着いたその経緯などについて話した。
記者は、パッシブデザインとどこが違うのだろうとずっと考えていたが、どうやら高気密・高断熱=アクティブのイメージが強いわが国のプレハブ住宅のいいところと、ややもするとアクティブを否定的に捉えがちなパッシブデザインの良さも取り入れながら、より快適な環境文化を育てようという理念だ。「クリマ」は気候(climate)から取った造語。
なるほどと思った。これからはボタン一つで住宅の温熱環境を自在に操る時代だ。IT技術の進展がそれを可能にする。
しかし、ボタン一つでそれが可能な、均一な住空間が果たして最適な空間かと問われれば「ノー」だ。そのいい例として、小泉氏は、爬虫類の繁殖に成功した札幌市円山動物園の本田直也氏の話を持ち出し、「亀に雨を降り注ぐと交尾が始まる。適度な負荷が必要」などと冗談交じりに話した。
われわれ人間もそうだ。われわれに楽な人生などやってこないかもしれないが、楽しい生活をクリマデザインは実現するのではないか。
興味のある方は、村上周三+小泉雅生+クリマデザイン研究会「 クリマデザイン: 新しい環境文化のかたち」(鹿島出版会)をお読みください。ついでだが、記者が最近読んだ芦原義信「続・街並みの美学」(岩波現代文学)もぜひおすすめだ。小泉氏の考えに近いものがある。