住友林業が協賛し、読売新聞社が主催するシンポジウム「新しい木の時代 ~日本の森林再生と利活 用~」が12月11日行われ、約400人が会場を埋めた。
この日は、2020東京五輪・パラリンピックのメイン会場になる新国立競技場の起工式が行われた日で、このタイミングを計ったように、シンポジウムでは建築家の隈研吾氏が基調講演をし、競技場の技術提案等審査委員会委員を務めている東京都市大学特別教授・涌井史郎氏、住友林業社長・市川晃氏、女優で戸板女子短期大学客員教授・菊池桃子氏、トヨタ自動車MS製品企画部主幹で「SETSUNA」開発責任者・辻賢治氏による「各分野で期待が高まる木の価値」をテーマにしたパネルディスカッションが行われた。
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感動的なシンポジウムだった。記者は自らの勉強のためもあるが、主に取材のためにシンポジウムを年に数回こなす。だいたいが3~4時間ある。その内容を的確に伝えるのはとても難しい。読者の方々がどのような人なのかわからないからし、聴衆のレベルを無視して持論を一方的に話す学者先生が多いからだ。
この日のシンポジウムは違った。隈氏の特別講演では、20くらいの美しい作品事例が紹介された。シンポジウムでもそれぞれ皆さんの担当する分野の話が分かりやすく伝えられた。
それでもその中身の濃い話をここでは紹介しきれない。この日の模様は読売新聞が来年1月22日(日)付朝刊で発表するそうだから、それを読んでいただきたい。過不足なく伝えるはずだ。(記者はアンチ巨人なので読売新聞はほとんど読まないが、この日だけは買うか図書館でコピーして必ず読む。皆さんもそうしていただきたい。間違いなく料金の数倍の価値があるはずだ)
なので、ここではひょっとしたら読売が書かないと思われる、しかし、これこそが真髄をついた言葉だと記者が感じた涌井氏の話を紹介する。
涌井氏は、わが国の美しい自然とその災害が同居していることに例え、「うちのかみさんと一緒。美しいが扱いを間違えると大変なことになる」と話した。
この言葉を文字通り解釈すれば、上野千鶴子氏あたりから痛烈な反撃を食らうだろうし、読売も女性の読者層の反発=販売部数減を恐れ、この涌井氏の発言部分をカットするかもしれない。
しかし、記者は「かみさん」を「木」に置き換えた。これほど木(女性)と女性(木)の本質を文学的に的確に、男性の側から表現した言葉はないと思う。
これは菊池氏も市川氏も辻氏も話したことと同じだし、隈氏の考えにも通じるものがある。
菊池氏は自宅の椅子が壊れた話をした。椅子に使用されていた釘から木目に沿って木が割れたのだそうだ。市川市は「木の性質をよく知ることが必要」と語った。辻氏は「経年」「想い」「継承」をコンセプトに「SETSUNA」にたどり着いたことを話した。隈氏も、街がどんどん年を重ねるごとに価値を増すと話している。
女性も木も歳(年)に関係なく美しい。その美しさは不変だ。女性の梅干しのようなしわは、酒と同じようにそれだけ美に深みが増したと考えればより一層おいしく、いとおしく思える。そのしわにケチをつけるから険悪な関係に陥るのだ。
それにしても涌井氏の話は面白い。話すのが本業とは言えこれは神業だと思う。涌井氏から「木の名前と虫の名前と鳥の名前を覚えると、一歩、歩くごとに人生3倍楽しくなる」と教わったのは20数年前だが、今回の「かみさんの美しさ」は5年前にも聞かされている。その記事も参照していただきたい。涌井氏は次のように語った。
「私はもう66歳。美しいが、性格が厳しいかみさんとどうして折り合いをつけるのかという難問の答えを知ったのは20年ぐらい前だ。『いなす』『負けるが勝ち』 これこそが夫婦円満の極意だ」
あれから数え涌井氏は71歳。東京都市大学を「停年」になったそうだが、新たに「特別教授」の肩書がついた。
シンポジウム後、涌井氏に「先生、これは終身教授という意味ですか」と聞いたら「特別教授にしてくれ」ということだった。ノーベル賞を受賞した大隅良典氏の肩書は東京工大栄誉教授だが、「名誉教授」も「栄誉教授」も退役した「教授」に与えられる称号だ。涌井氏の「特別教授」には「死ぬまで現役で続けてほしい」という大学側の強い要請があったからだと受け止めたい。
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