継承すべき文化・伝統と、改良すべき建物の性能・技術を融合させた菊池建設のモデルハウス「数寄屋」見学会が1月19日、千葉県松戸市の「ハウジングプラザ松戸」で行われた。
モデルハウスは延べ床面積約186㎡(56坪)の「数寄屋」造りで、8カ月も工期をかけて昨年3月に竣工した。わが国伝統の技法を用いながら、耐震等級は最高の3を取得し、断熱性能もUA値0.75を確保、近い将来0.6を目指す。
今ではほとんど伝承する職人がいないと言われる、人が床を歩くと鶯の鳴き声に似た音を出す「鴬張り」をはじめ、「侘び寂び」「粋」がふんだんに盛り込まれている。見どころがたくさんある住宅だ。
鴬張り床
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見学会は、同社常務取締役事業開発本部長・山﨑英明氏、同部部長・松本敏氏、同部部長・二瓶正裕氏らの案内で約1時間30分にわたって行われた。初めて聞く魅惑的な言葉が機関銃のように発せられた。必死でメモを取り、どうしたら聞いたこと見たことを正確に伝えられるか考えたが、残念ながら建築の知識がなくボキャブラリーも貧弱な記者には手に負えない。
なので、文章がほとんど「らしい」「という」「そうだ」の伝聞調になってしまった。ご了承願いたい。
何から紹介していいのかわからないのだが、まず、京都の知恩院や二条城にもあるという防犯装置の床「鴬張り」から。幅は約1間、長さは約2間半。歩くとけたたましい〝鶯の鳴き声〟がする(来場者にわかりやすく伝えるため大きく鳴くようにしているという)。値段はこの「鴬張り」装置だけでも約200万円とか。同社にもこの技術を持つ職人は1~2人しかいないという。
外観がまた素晴らしい。建物の高さを低くし重心を下げているのが特徴で、居室の天井高を確保しながら絶対高さを確保することに匠の技があるのだという。屋根は緑青を一部に施した銅板一文字葺き。樋は見えないように、かつ〝雨落ち〟もするように工夫が凝らされている。壁は「山吹」色。油絵具にはない、たまに日本画で見る日本の伝統色だ。
軒裏の木組みには、丸太同士を交差させる「捻じ組み」が採用されていたが、どんな説明を受けても分からないような気がした。背割れを施した柱を「玉石」に乗せるのも大変な技術がいるそうだ。
玄関は「庭屋一如」、つまり庭と建物は一体というわが国の住まいに対する考え方を取り込んだもので、手水鉢が設置され、和服が汚れないように工夫した腰掛、腰紙があり、上り框は「名栗」(ナグリ)仕上げ。天井をあえて低くしているのは、刀を抜いても振り回せないようにするためとか。「これより先は出入り禁止」の意思を示す「関守石」も置かれていた。
和室の壁は「ベンガラ」色。障子は障子紙を1枚と2枚とに貼り分けることによって「市松柄」を演出。床柱には銘木「神代欅」が使用されている。「神代欅」は、建設工事などで偶然出土したものを建築材に使用した古材のことで、希少価値が高いことから値はつけられないそうだ。畳敷の玄関取次の間は黒部杉(ねずこ)のヘギ板を籠目に編んだ「網代天井」仕上げ。
記者団から「坪単価はいくらか」という声が飛んだが、関係者は明言を避け「標準的な仕様で坪150~200万円」とだけにとどめた。
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同社の創業社長、菊池安治氏が昭和62年4月、学校法人富嶽学園 日本建築専門学校を開校したことを聞いた。どこかで聞いた名前だと思ったら、何度も取材で訪れている木造耐力壁ジャパンカップの会場になっている静岡県富士市にある学校だった。
一昨年の取材のとき、体調を崩し何度も同学校のトイレを借りたのだが、このままずっと入っていてもいいなと思ったくらい気持ちのいいトイレだった。校舎内は無垢材がふんだんに用いられていた。正面に飾られていた銅像は菊池氏だったのか。
同社は昨秋、ナイスの100%子会社になり再建を目指す。「木」は世界的なトレンドで、わが国の木造住宅の良さが見直されている。ナイスとのシナジー効果を生かせば大化けする可能性を秘めている。今後の展開に期待したい。