国土交通省は1月30日、郊外住宅団地の再生を図るため地方公共団体、民間事業者などが調査・意見交換等を行う「住宅団地再生連絡会議」を設立、初会議を行った。人口減少・少子高齢化社会を迎え、空き家の増加、土地利用需要との乖離などの問題が生じていることから、関係団体が問題解決に向け手を携えて取り組むのが目的で、全国から276団体が参加している。この日は約250名が参加した。
冒頭、挨拶した国交省・由木文彦住宅局長は、「連絡会議の設置には全国からたくさん歓迎の声が寄せられている。全国の郊外住宅団地はそれぞれ多くの悩みを抱えており、スポンジのように穴が開いている状態。国交省としても組織に横くしを入れ6局体制で臨み、経産省、厚労省などとも連携を図り、団地再生に取り組んでいく」と話した。
会長に就任した横浜市・平原敏英副市長は、「団地再生に向け一堂に会して論議するのは意義深いこと。横浜市も南部や西部では住環境の破壊が進んでおり、再生に向けた官民学のプロジェクトを立ち上げた。一朝一夕にはいかないが、知恵を出し合い取り組んでいきましょう」と語った。
副会長に就任した大分市・桑田龍太郎副市長は、「同様の問題を抱えている札幌市などとも連携し、平成22年度に『ふるさと団地の元気創造推進事業』をスタートさせ5年が経過した。ともに前に進みましょう」と呼び掛けた。
会議では、東京大学・大月敏雄教授が「住宅団地を住みこなせる町にする」と題した基調講演を行った。大月氏は、「第一種低層住居専用地域は(コンピニなどの利便施設)みんなダメというような昭和の発想を転換し、賃貸住宅への活用や近居など多様な暮らしを提案し新たな住宅双六を構築しよう」と提案した。
会議に出席した小田急不動産経営企画本部経営企画部顧客開発・IT推進グループリーダー・石井隆臣氏は、「当社も住み替え支援など取り組みを強化しているが、行政区が異なる自治体との連携、検討されているリバースモーゲージはそれでいいのか、バス便をよくすればいいのか、同業とのアライアンスも必要」と感想を述べた。
連絡会議には、全国の地方公共団体、鉄道会社、金融機関、社団法人のほか、住宅・不動産会社では新日鉄興和不動産、住友不動産、双日新都市開発、大成有楽不動産、大京、長谷工コーポレーション、フージャースコーポレーション、三菱地所、三菱地所レジデンス、旭化成ホームズ、積水ハウス、大和ハウス工業、ナイス、パナホーム、トヨタホーム、ミサワホーム、ポラス、LIXIL、三井ホームなどが参加している。今後、年1回程度、先進事例の研究、調査報告、意見交換などを行っていく。
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平原横浜副市長が「住環境の破壊も進んでいる」と話したときはぎくりとした。桑田大分副市長は「時宜を得たもの」と持ち上げたが、やや遅きに失した観は免れない。せめて20年くらい前に立ち上げていればまた違った展開を見せていたかもしれない。昭和50年代から60年代、郊外住宅団地の購入をあおる記事をたくさん書いてきた記者も責任を感じる。
郊外住宅団地については過去数回、記事にもしているのでそちらを参照していただきたい。
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大月教授が「昭和の発想の転換」を唱えた。一考に値すると思う。第一種低層住居専用地域の用途を変更しようものならそれこそ大騒動になりそうだが、「特定行政庁が用途地域における良好な住居の環境を害するおそれがないと認め、又は公益上やむを得ないと認めて許可したもの」は可能かもしれない。また、国交省は昨年、「良好な住居の環境が形成されている地域であって、住民の徒歩圏内に日常生活のために必要な店舗が不足している等、地域の生活利便性に欠ける地域」でのコンビニの建設を認めてもよいとする内容の助言を各自治体に行っている。
連絡会議に期待する。
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一戸1億円以上の「松韻坂」の建売住宅を見に行ってからだから、10年振りくらいになるか。日本新都市開発( 昨年8月特別清算) が開発した「鳩山ニュータウン」( 埼玉県鳩山町、開発面積約140ヘクタール、約3200戸) を見学した。前日、同じぐらいの規模で同じように郊外型でありながら、驚くほど生き生きした街づくりが行われている山万「ユーカリが丘」団地を見学し、「鳩山はどうなっているか」気になってしょうがなかったからだ。
記者は、昭和50年代の半ばから60年代の前半まで5~6回は取材に訪れている。その街並みの美しさにほれ込み、「昭和を代表する街」として何度も記事にした。電柱・テレビアンテナのない街として知られているが、ごみ一つ落ちていない、法面まで植栽されていたのが今でも記憶に残っている。高齢者施設と小学校だったか、保育施設だったかが隣合わせにあったのも覚えている。図書館の貸し出し冊数も確か県内でトップクラスだったはずだ。
そんな素晴らしい団地だが、最近の「都心回帰現象」の流れの中で人口流失、高齢化、地域経済の停滞…などが集中的に現れているのではという仮説は当たった。
最初に訪ねたある商店は、「売上げは数年前の3分の1。みんな車で数分の大型店に行く。増えたのは車だけ。道路事情がよくなったため車がひっきりなしに通り、60キロぐらいのスピードで通過していく」と苦りきっていた。
都心の大学に1時間半かけて通学する女子大生のFさん(21) は「コンビニまで歩くと20分。車がないと生活できない。学校の帰りもバスがものすごく混む。就職活動をやっているんですが、先日も面接の人から『残業もありますよ。通えるんですか』と聞かれた。結局、落とされたのですが『一人暮らしする』といえばよかったかなと。同級生も都内に引っ越していくし、気がついたら近所の家が空き家になっていたり…。独立したらマンションを借りようかと、親とも話しているんですが…。家は築25年経っており、古くなってきたし…」と語った。
父親(54) は、具合が悪くなった祖母の面倒を見るため仕事を辞め九州に帰っていたが、今度は母親(60) の具合が悪くなり帰省。今は近くの会社に準社員として勤めているという。このFさんの家庭は、同世代の家族が抱える問題を全て背負っているようだ。
住宅価格の下落も止まらない。団地内で3年前「タウン住宅販売」を設立した川畑光男社長(42) は「以前は3000万円していた土地が今では1000万円。手数料が3分の1に下がったわけですから、きつい。6時に家を出て、12時過ぎに家に帰ってくる親の姿を見ている子どもは、そんな生活をしたくないと出て行く。過疎化ですよね。力のある企業が進出でもすれば、街の活性化はできるでしょうが…」と表情を曇らせた。
しかし、暗い話ばかりでもない。母娘と思われる二人連れに声をかけると、そのお母さんは「私ですか、この頭を見なさい。真っ白でしょ。あと2つで80歳。娘は50歳ですよ。でもね、これだけは書いといて。ここのお年よりはみんな自立していると。街もきれいでしょ」。
この母親の言葉に記者は救われた。
真夏の陽気を思わす炎天下で、深緑の歩道が風を運んでくれた。白い葵の花が「ここはいいよ」と呼びかけた。