3月9日行われた恒例の第38回東急不動産ホールディングス記者懇親会。宴もたけなわどころか、お開きの場面だった。記者は取材を終え、沖縄のホテルプロジェクトや震災支援の活動について話を聞き、お薦めの酒を飲んでいるときだった。
金指潔・同社会長が閉会の辞でいきなりブラッシングボールを投げた。「業界紙に『住宅新報』『週刊住宅』があるが、合併して一緒になったほうがいい。このままでは生き残れない。〝週刊住宅新報〟とでもしたほうがいい…。とにかく情報が大事…」と。(この通り話されたかどうか自信はないが、それほど間違っていないはず)
この言葉の真意を聞こうと思ったが、金指会長は会場袖の出入り口からすぐ退出されたようで、話を聞くことはできなかった。周囲にいた同社関係者や同業の記者に聞いたが、「あれは冗談でしょう」「記者の方の対応をしていましたのでよく聞き取れませんでした」「どういう意味でしょうかね」という答えしか返ってこなかった。
金指会長をご存じない方に分かりやすく伝えるためにプロ野球投手に例える。金指会長は大谷投手やマー君のように力任せで相手を牛耳るタイプではない。基本はストレートだが、内角をえぐる際どいシュートや人を食ったような緩い球を投げる。
これだと並みの変化球投手だが、金指氏はそうではない。〝ブラッシングボールを投げるぞ、よけきれなければ俺は知らんぞ、お前の責任だぞ〟と予告し、その通りに投げるタイプだ。
その意図を読み切ればものすごくわかりいいが、深読みしすぎるとまともに死球を食らい、または絶好球を見逃してしまう。
この日、金指会長はなにを伝えたかったのか。ただの受け狙いの冗談を飛ばしたはずはない。かなり辛辣な問いを投げかけたと受け止めるべきだ。慈愛に満ちたブラッシングボールだと理解しないといけない。
名指しされた「住宅新報」も「週刊住宅」も、さらにわたしも含めたすべての記者も〝あなたたちはきちんと情報を伝えているか〟と問われていることくらい分かったはずだ。
しかし、この「情報」が曲者だ。情報にどのような価値があり、何のための誰のためかを見極める力がないと、みんな集まっても烏合の衆になってしまう。金指会長のこの日の言葉はずしりとこたえた。酔いはいっぺんに醒めた。
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昨夜に書いた記事が気になり、今日(10日)は早く起き、信頼できる同業の記者に聞いた。いくつか間違いもあるようなので追加する。昨夜の記事はそんなに的外れでもないのでそのままとする。
金指会長が投げたブラッシングボールは、それまでのメディアの人との懇親、歓談の流れの中で飛び出したもので、おおよそ次のような意味のようだ。
つまり、われわれ業界紙の記者は、これまでの時代をどう生きてきたかという根本的な問いを金指会長は〝危険球〟のようなジョーク交じりで発したのだ。あなたたちは自力で流れをつくり、あるいは流れに逆らって言うべき主張をしてきたのかと。それがジャーナリズムの使命ではないかと。
そうではなくて、病葉のように時代に流され、右に左にぶれやがて勢いをなくした大河のよどみに沈み汚泥、ヘドロとなり、やがて腐臭を発し、あぶくとなってぷかぷかと浮かび上がり、スギ花粉かPM2.5のような有害物質となって空気中に害毒を垂れ流す存在になっていないかと。もしそうならば、老害は去るべしと。
もう一つ、金指会長は「情報」と言ったのではなく、「上司」と言ったそうだ。上司次第で組織のよどみを一掃し、アユが遡上できるような清流を取り戻すこともできるという意味のようだ。
ブラッシングボールどころか、金指会長はものすごく重要なことをわれわれに語ったということだ。