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2017/10/15(日) 15:52

日本の残したい環境 一番人気は「里山」 学生とエコ・ファースト企業 対話イベント

投稿者:  牧田司

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積水ハウスのブース

 大学生とエコ・ファースト企業との対話イベント「エコ・ファースト サステナブルカフェ2017」が10月14日行われた。学生にとって企業と直接ディスカッションする絶好の機会となり、企業は自社の環境活動が学生の視点でどのように評価されるのかを知る貴重な場であることから企画されたもの。今回が3回目。

 参加した企業は、「エコ・ファースト推進協議会」に加入する40社のうち12社、学生は17大学32名。「日本の美しい環境を残すためには?」をテーマに4時間以上、6~7人のグループに分かれラウンドテーブルディスカッションが行なわれ、2050年のわが国の近未来像を描いた。

 今回は大学生が主体となって活動するNPO法人エコ・リーグと共催で開催された。大阪でも12月2日に行われる。

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戸田建設(左)とアジア航測のブース

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 参加した企業はライオン、積水ハウス、電通、戸田建設、アジア航測、大成建設、ワタミ、クボタ、LIXIL、全日空、キリンビール、ブリヂストン(順不同)で、環境省もオブザーバーとして参加した。

 企業が学生に環境活動などを説明する懇談会が始まり、記者は緊張した。各企業・環境省の13のブースに用意された椅子は各3脚。1回につき10分、全6回行われた。学生が企業を自由に選べるもので、学生が集まらない企業も出てくるのではないかと不安になった。

 嬉しいことにそれは杞憂に終わった。さすが学生さん。閑古鳥が鳴かないよう忖度したのかまんべんなく各企業を訪ねていた。

 話の内容を聞こうと各ブースを回った。しかし、総勢70名近くが一度に話すので声が共鳴して、耳が遠くなった記者はほとんど聞き取れなかった。

 1つだけ、環境省のブースはよく聞こえた。理由は簡単。年寄りは高音が聞き取りづらくなるので、バリトンの同省担当者の声はよく聞こえたということに過ぎない。同省の活動を完ぺきに伝えたのではないか。

 何とか苦労して聞き取れたものを紹介すると、学生の鋭い質問が飛んだのが戸田建設のブース。同社は国内初となる浮体式洋上風力発電設備を実用化、運転を開始し、今後も力を入れることが報じられている。

 同社担当者は「風力発電には漁業権などの問題もあるが、設備が漁礁になることも期待したい」と話した。すかさず男子学生は「設備が発する低周波は魚(=人間)への影響はないのか」と質問した。これには記者も絶句した。風力発電は結構だが、情報開示が圧倒的に少ないのも事実だ。

 積水ハウスに対しては、「里山や空き家はビジネスになっているのか」の質問があったという。「里山」はともかく、「空き家ビジネス」については同社担当者も返答できなかったのではないか。業界関係者みんな頭を悩ませている。

 これら学生さんの鋭い指摘に驚き、安心もした。〝疑ってかかれ〟これが基本だ。この考えを基本にすればわが国の将来は明るい。彼らに未来を託せる。

 面白かったのはアジア航測。担当者は「(絶滅危惧種の)サシバはマンション(巣)とレストラン(餌)の近いところを好む」と説明した。なるほど、サシバも人間と一緒〝食住近接〟を好むようだ。

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 企業と学生が情報を共有するためのコミュニケーションタイムが最高に面白かった。最初に主催者から提案されたのは「日本の残したい環境」「よくしたい環境」を参加者全員がカードに記すことだった。

 出るわ出るわ。ゴミのない街、治安がいい街、美しい里山、歴史的建造物、森林公園、田園風景、観光資源・景観、生物環境、商店街、門前町、井戸端、あぜ道、農作物の自給、離島、竹林、蛍、海岸林、エアコンいらず、光熱費ゼロ、農業・林業の再生、コンパクトシティ、温泉、清流、鎌倉、食品ロス、保育シェア、紅葉、花火…中にはわが業界に痛烈な皮肉を込めた「庭のある家に住みたい」や「日本酒」まであった。

 もっとも多かったのは「里山」で10数枚の支持を集めた。これは積水ハウスが事前運動をし、参加者に鼻薬をかがせたのではないかと思ったが、同社広報マンは「いえいえ、そんなことは一切やっておりません」と完全否定した。

 これらのキーワードを整理し、最終課題である2050年のわが国の近未来像を描くことが最終課題として示された。

 ここで参加者の手が止まり、口が閉じられた。自らが書き出した「エアコンいらず」「農業・林業の再生」「農作物の自給」など困難な課題にどのような解決策を示すかが問われるわけだから、ハタと困るのは当然だ。

 豊かさの中に浸りきっているおじさんが多数派のチームは自家撞着に陥り、「このまま進めばマルクス、レーニン、トロツキーの共産主義ではないか」と自嘲気味につぶやいた。

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 この難問に果敢に挑戦したチームが2つあった。一つは「不要なものを減らし、循環型社会を目指す分かち合い社会」の実現を導き出した。〝過剰包装が多い〟〝不要なものを減らす(罰則を設ける)〟〝多少の不便は我慢する〟などと具体的な提案を行った。

 もう一つのチームは、〝分かち合いの社会〟を実現するために都市計画、日々の暮らし、コミュニティの観点から様々な解決策、提案を行った。〝モノが少なくても満足できるミニマリスト〟〝Fun to Share〟を呼び掛けた。都市計画まで踏み込んだのはさすがだ。

 双方に共通していたのは、具体的な問題に言及しており、女性が多数派を占めるか主導権を握っていたことだ。生き方や心の問題まで踏み込んでいた。観念的な言辞が目立った、どちらかといえば男性が中心のチームと対照的だった。

 各チームとも目立ったのは、「市民」を中心に据えていることだった。何事につけ〝産官学連携〟は必須要件だと考えるが、ここに市民を加えることもこれからの社会には重要なのだろうと実感させられた。

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会場となったキリンビール本社会議室(参加者には飲料水が提供された)

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 参加者の「残したい環境」一番人気になった里山について指摘しておきたい。

 里山は、積水ハウスが20年近くも前から「5本の樹計画」に力を注ぎ、藻谷浩介・NHK広島取材班「里山資本主義」(角川書店)が2年前、爆発的にヒットした。関心を呼んでいるのは結構なことだ。

 記者も里山の再生は喫緊の課題だと思う。しかし、言うは易く行うは難し。全国の里山は危機的な状況にある。電気柵に触れて人間が死亡した事故が報じられたが、里山はサル、イノシシ、シカなどの棲家・楽園と化し、まるで人間が電気柵に保護されているような錯覚に陥る。

 彼らが運んでくる山ヒルの恐ろしさは経験しないとわからない。ここでは書かないが、ぜひ古山高麗雄「フーコン戦記」を読んでいただきたい。東南アジアとわが国のヒルは種類が違うだろうが、読むと卒倒しそうな恐怖に襲われる。ついでに丸山健二「田舎暮らしに殺されない法」もどうぞ。

 山ヒルだけでない。いま問題になっているマダニ、スズメバチ、マムシなども里山を徘徊している。山頂の風力発電は生態系を狂わせ、低周波は人体への影響も取りざたされている。彼らと共生するのは絵空事と記者は考えている。

 さらに言えば、われわれは物質的な豊かさを手に入れるのと引き換えに、生態系を破壊し、都市と農村の格差を増大させ、文化も破壊し、人間性すら狂わそうとしている。そうした一面を考えないといけない。

 「不要なものは捨てる」のも結構(記者のような老人は〝不要な〟存在に判定される時代が来ないことを祈るばかりだ)だが、かつての薪炭時代に逆戻りはできない。

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