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2018/03/04(日) 18:20

働き方改革に欠かせない裁量労働制 残念でならない一連の出来事

投稿者:  牧田司

 本日(3月4日)、「裁量労働制を全社的に違法に適用し、昨年末に厚生労働省東京労働局から特別指導を受けた不動産大手、野村不動産の50代の男性社員が過労自殺し、労災を認定されていたことがわかった。男性は裁量労働制を違法適用された社員の一人だった」(朝日新聞)などとメディアが一斉に報じた。

 残念でならない。業界紙の記者として、ご本人のご冥福をお祈りしご遺族にお悔やみ申し上げます。

 裁量労働制について政府与党は、今国会に提出する働き方改革関連法案に裁量労働制の拡大に関する部分を削除することを先に決めた。

 きっかけとなったのは、厚生労働省の2013年度労働時間等総合実態調査で、一般労働者の「1カ月で最も長く働いた日の残業時間」と、裁量労働制で働く人の労働時間を比較して、裁量労働制で働く人のほうが労働時間は短いというデータを安倍総理に発言させたことだった。

 これには記者も唖然とした。国のシンクタンクである官僚がこんな単純ミスを犯すはずはない。経団連の榊原定征会長も「ミスは非常に残念で、あってはならないことだ」(日経新聞)とコメントした。

 ここで大きな疑問が一つ。そもそも労働時間等総合実態調査は、大学教授をはじめとする公益代表、労働者代表、使用者代表など20名以上が参加する労働政策審議会労働条件分科会に報告されているはずで、メディアの傍聴・資料配布もあったはずだ。どうして中学生や高校生だってわかる前提条件の違いを見逃したのか。審議会メンバーやメディアの責任も問われるべきだ。

 それでも記者は、働き方改革に裁量労働制の拡大は欠かせないと思う。

 記者の仕事でいえば、弊社は記者に対して〝さぼっていい〟とは言わないが、一切制約を求めない。「RBA野球の取材をすれば、あとは何を書いてもいい」というのが記者に与えられたミッションだ。

 なので、これまで書いた記事に対して「ノー」と言われたことはほとんどない(読者のクレームで削除した記事はいくつかあるが)。どこに取材に行こうが問われない(取材源の秘匿は記者の生命線でもある。最近はそのような取材はやっていないが)。みなし労働が全面的に認められている。

 労働時間はどうか。これも会社から強制されたことは一度もない。RBA野球の取材は炎天下で8時間くらい食事もとらず駆けずり回っている。こうしていま記事を書いているが、これは記者が自主的に判断して書いている。労働時間という認識はまったくない。子育てや家事に関する時間が「労働時間」に入らず、専業主婦に「労働」はなく「無職」なのと一緒だ。確か農業も労働時間規制外だ。子育て、家事、農家に労働時間制を採用したら、みんな8時間労働に違反になる。

 その代わり、疲れたら休む。そうしないと商品としての労働力の再生産ができなくなり、結局は資本にも大打撃(与えないか)となるからだ。自己管理は自分なりにやっているつもりだ。会社からは「酒を控えたほうがいい」と言われるが、これも自己責任。酒を飲もうがタバコを吸おうが、これは基本的人権の問題だ。

 住宅・不動産業界には、裁量労働制が認められる建築士、不動産鑑定士も多いし、商品企画担当、インテリアコーディネート、コンサルティングなどの「専門業務型」「企画業務型」労働も少なくない。宅建士、マンション管理士などは適用外だが、レベルの高い仕事をしている宅建士は多い。適用の対象となる時代がやってきてほしい。

 「現行法制下での労働時間管理は、創造性と裁量性を有する労働者の能力を存分に発揮する環境を用意できず、生産性の高い働き方、さらには労働者のワーク・ライフ・バランスの実現を困難なものにしている」とする経団連の「労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制」(2013年)を支持する。

 制度を悪用する企業に問題がありそうだが、これは資本主義経済の宿命なのか。明大教授・飯田和人氏は著書「市場と資本の経済学」(ナカニシヤ出版)で次のように指摘する。

 「終わりなき自己増殖(無限の余剰価値の追求と獲得)、生産のための生産、蓄積のための蓄積、そして運動それ自体の継続性の確保という、資本の論理…資本内部のヒトとヒトとの関係は、彼らによって、独特の支配-従属関係からなる賃労働-資本関係として組織化されることになる。彼らが資本内部の上下的な秩序関係からなる階層的組織の頂点に立ち、これを資本の論理にしたがって不断に締め上げ規律づけることで、資本内部の人的組織すなわち独特の支配-従属関係からなる賃労働-資本関係は成り立つ」「労働者に与えられる賃金が増えれば、資本の獲得すべき余剰価値が減り、逆の場合にはまた逆の結果になる関係」-資本と労働者は相反関係に置かれていると。

 苦役を喜びに転化させることは不可能なのか。労働者側からこの問題に積極的にアプローチすべきではないか。

 

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