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2018/05/26(土) 11:58

木造建築物は不遇・暗黒の50年か、進化の50年か 木住協の懇親会で考えたこと

投稿者:  牧田司

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木住協の懇親パーティー(明治記念館で)

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市川氏

 日本木造住宅産業協会(木住協)は5月24日、定時総会を開き、平成30年度事業計画の重要事項として、支部未設置地域への支部設置を促進し、地域貢献の強化を目指すほか、災害時の木造応急仮設住宅の供給に向けて都道府県と協定締結を促進すること、21回目を迎える「小学生作文コンクール」のテーマを「木のあるくらし」に変更し、新たに外務省の後援を得て内外に「木」の持つ可能性の追求と普及啓発に取り組んでいくことなどを決めた。

 同協会会長・市川晃氏(住友林業社長)は総会後の記者会見で、「ストック型社会の潮流に乗り遅れないように進め、住生活産業が国内経済をけん引することにつなげたい。住宅以外でも公共建築物や商業施設などの中大規建築物の『木質化』の波が起きている。2020年東京オリンピックに向けた大規模施設の建築計画も相次いでおり、『木』にとって大きなチャンスだ。『木』は唯一再生可能な資源であり、オリンピックなどの世界的イベントで日本の『木材先進性』を世界にアピールする絶好の機会」などと述べた。

◇       ◆     ◇

 総会後の懇親会で考えさせられる発言があった。冒頭、挨拶に立った市川会長は木・木材の優位性を述べたうえで、「でも鉄やコンクリのほうが強いと言われる。こうした誤解を解く意味でも、もう一度木の文化・技術を体系的に整理し、新たな木造建築物の時代に向け努力していく」と語った。

 この挨拶を受けて登壇した来賓の国土交通省・伊藤明子住宅局長は、昭和34年に日本建築学会が「木造禁止」を決議したことを紹介し、「それ以来、木造住宅は不遇な時代が続いている」と述べた。

 さらに、乾杯の音頭を取った同協会副会長・平田恒一郎氏(ナイス社長)は、伊藤氏の話を引き継ぐ形で「暗黒の50年」と形容した。

 伊藤氏が紹介した「木造禁止」について日本建築学会は2010年、「(伊勢湾台風の被害を受けた昭和34年の)決議は建築物の火災、風水害の防止を目的として、特に危険の著しい地域に対する建築制限のひとつとして『木造禁止』を提起したもの」「決議前後の状況と切り離されて『木造禁止』だけが一人歩きしますと、『木造禁止』の意味および本会の活動に対する誤解を招くことになります」と文書で公表している。

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伊藤氏(左)と平田氏

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 伊藤氏と平田氏がどうしてこの「木造禁止」に言及したのかその意図がよく分からないが、今国会に上程されている建築基準法の一部改正が成立すれば、耐火構造とすべき木造建築物の対象が見直され、耐火構造以外でも木材のあらわしが可能となることを念頭に置いたものと思われる。

 木造ファンの記者は以前から建基法の耐火・防火規制が強すぎる、あらわしを可能にすべき、どうして鉄やコンクリと同じ土俵(各種の規制)で相撲を取らせるのかなどと主張してきた。「燃えてもいいのか」などと言われると黙るしかないのだが、木は日本の文化だ。全てを合理性で判断する物差し(建基法)はは改めるべきだと思う。

 その意味で、建基法の改正は当然のことだと思うが、一方で「不遇の時代」「暗黒の50年」という認識には違和感を覚える。

 着工戸数が漸減し、木造住宅が鉄やコンクリにどんどん侵食されてはいるが、その一方でツーバイフォーは年々戸数もシェアも伸ばしている。市川氏が社長を務める住友林業は、ヒノキ造りの住宅なら右に出るものはいないと記者は思う。積水ハウスも木造シャーウッドが健闘しており、強化することを打ち出した。平田氏は「暗黒の50年」と話したが、同社は慶大と共同で木造実験棟を建設し、CLTやハイブリット建築に力を注いでいる。同協会副会長・中内晃二郎氏が社長を務めるポラスも木質ハイブリッド構造ビルや木造建築物先導モデル「ポラス建築技術訓練校」を建設した。分譲戸建て市場では圧倒的な存在感を示している。理事・宮沢俊哉氏が社長のアキュラホームは先日、わが国で初と思われるCLTによるモデルハウスを完成させた。

 このように見ると、木造住宅が「不遇の、暗黒の50年」の環境下に置かれてきたというのは事実だろうが、他方では、あるハウスメーカー広報マンが語ったように「木造進化の50年」でもある。

 市川氏は「『木』にとって大きなチャンス」と力を込めた。このチャンスを生かせないのなら「不遇の時代」「暗黒の50年」は永遠に続くのではないか。木住協と会員会社の真価が問われる。

 懇親会に出席していた東洋大学名誉教授・上杉啓氏(82)は、この問題について「木造が一気に使えなくなったのはその通り。プレハブメーカーが鉄やコンクリに努力してきたという一面もある。車の両輪のようにうまくかみ合うべき。そのことより、わたしは木が十分育ったのに赤字になるので伐れない、さらに、伐った後の50年、100年先を見据えたロングビジョンがないのが問題だと思う」と森林・林業の将来を憂慮した。

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上杉氏

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平田氏(左)は「ヒグラシ(日暮清社長)からコグレ(小暮)です」と次期すてきナイスグループ社長に就任する小暮博雄氏を紹介していた

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明治記念館の素晴らしい庭園(上)とガス室のような狭い喫煙所(以前は庭園を眺めながら吸えた)

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酸欠状態にはならないものの、立錐の余地もない上の喫煙所と大差ない懇親会会場

 

 

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