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2018/08/06(月) 10:43

不動産流通経営協会 住宅ローン控除の面積要件引き下げ要求に賛成 住宅貧乏なくせ

投稿者:  牧田司

 不動産流通経営協会(FRK)が発行する「FRKコミュニケーション」2018年夏季号に掲載されている「論点1 50㎡未満の持家の居住満足度は低くなく、住宅購入は婚姻・出産への実現意欲を後押しする可能性がある」を興味深く読んだ。

 全国主要都市を対象とした50㎡未満住宅の居住満足度とライフスタイル影響に関する同協会の調査結果では、「50㎡を境とした持家の居住満足度に統計的に大きな差はみられない」ことから、「税制上の措置を50㎡で区分する根拠が明確でない」とし、「経済力に限界がある若年層の住宅取得を後押しするためには、一定のニーズが存在する50㎡未満の住宅に対して税制上の措置を拡大することにより、一次取得時のハードルを低くすることが有効であり、そのことは持家率の上昇をもたらし、結婚や出産の意欲を高める効果が拡大するとも考えられ、そして、それは居住満足度、社会厚生という観点からも、十分合理性がある施策と言えよう」と結論付けている。

 FRKは、2019年度の税制改正要望に住宅ローン控除の床面積要件を現行の50㎡から40㎡に引き下げることを盛り込んだ。

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 「論点1」の順序プロビット分析による居住満足度指数が面白い。居住満足度を「1:非常に不満」から「10:非常に満足」まで10段階で回答を得た結果、平均は6.47で、持家は7.05で、賃貸は6.03となっている。

 持家でもっとも満足度が高いのは居住面積が「120㎡以上~150㎡未満」で指数が0.530であるのに対し、もっとも低い「20㎡以上~30㎡未満」は0.071となっており、大きな隔たりがある。

 一方、「40㎡以上~50㎡未満」は0.340であるのに対し、「50㎡以上~60㎡未満」は0.338とほとんど差がなく、FRKの主張を裏付けている。

 他方、「150㎡以上~200㎡未満」は0.426になり、「120㎡以上~150㎡未満」より0.104低くなる。その理由は示されていないが、広すぎると掃除や管理などでストレスがたまるということか。

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 記者は、基本的には住宅ローン減税制度などに面積要件を加えることに反対だ。

 そもそも昭和47年度からスタートした「住宅取得控除制度」には、床面積に応じた控除額ではあったが、具体的な面積要件はなかった。面積要件が加わったのは昭和55年の税制改正からで、既存住宅について下限が「40㎡」と定められた。

 そして、平成5年の税制改正で新築も含め「50㎡以上」という面積要件が加わった。これ以降、「50㎡」は、住宅購入資金の贈与税の特例、登録免許税の特例、不動産取得税の特例などあらゆる税制に採用されることとなった。

 当時も今も、この「40㎡」「50㎡」について合理的な理由・説明を行える人を記者は寡聞にして知らない。

 常識的に考えられるのは、融資する側からすれば狭小=劣悪=担保価値がないと考えるのは当然で、狭小=価格が低い=年収が低く貸し倒れリスクが高まると判断し、審査に慎重になるのもまた理解できる。

 もう一つ、強いてあげるなら、平成18年に施行された住生活基本法の「新たな住生活基本計画」の数値がある。

 同計画では、子育て世帯の「誘導居住面積」(都市型3人世帯:75㎡、4人世帯:95㎡)達成率を37%⇒50%に、「最低居住面積」(3人世帯:35㎡、4人世帯:45㎡)未満率を早期に解消するとしている。

 参考までに東京都の例を示すと、平成25年の最低居住面積以上は79.0%(全国90.2%)で、誘導居住面積以上は40.0%(同56.6%)となっている。最近の地価・建設費の上昇で、この数値が劇的に向上したとは考えられず、むしろ後退しているのではと思われる。

 こうした政策目標がある以上、住宅ローン減税制度などに一定の面積要件を付加すべきという考えも成り立つ。

 だがしかし、FRK「論点1」が指摘するように住宅ローン減税制度などの面積要件が「一次取得時のハードル」を高くし、最低居住水準や誘導居住水準以下の世帯の住宅取得意欲を減殺するように働いていることは否定できない。

 そしてまた、どれほどの効果かは分からないが、FRK「論点1」が論じる面積要件の引き下げが「持家率の上昇をもたらし、結婚や出産の意欲を高める効果」があるのも間違いないと思われる。

 それより何より、面積要件は日本国憲法の「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」(第14条)「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(第25条)に背馳していると考える。

 税の透明性、公平性についていえば、「租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律(租特透明化法)」(平成22年成立)の目的には「租税特別措置について、その適用状況の透明化を図るとともに、適宜、適切な見直しを推進し、もって国民が納得できる公平で透明性の高い税制の確立に寄与する」とある。

 住宅基本法にも「政府は、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策を実施するために必要な法制上、財政上又は金融上の措置その他の措置を講じなければならない」(第10条)とある。

 税の公平性からいっても、住生活の安定確保の観点からいっても、面積要件を取り払い、逆に子どもや高齢者・要介護者などの家族数に応じて控除額・控除率を引き上げるべきだと考える。

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 フラット35(前住宅金融公庫融資制度)の面積要件について。住宅金融支援機構は平成16年4月、床面積の融資条件を50㎡から30㎡に引き下げた。

 これは、バブル崩壊後の平成7~8年ころから単身者のマンション購入が増え始め、デベロッパーも積極的に単身者・DINKS向け商品を分譲するようになり、金融機関も女性のマンション購入をバックアップするようになり、新たなマーケットとなった時代背景がある。記者もこれを全面的に支持した。

 融資条件を引き下げたことによりリスク管理債権が増加したとも聞かないし、年々既往債権が減少していることから、リスク管理債権比率は減少し続けており、2017年度は3.94%で、同23年度の7.80%より3.86ポイント改善している。

 住宅ローン控除の面積要件を取り払うか、引き下げてもリスク管理債権が増加するとも考えられないのではないか。

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 住宅ローン控除制度とは直接関係ないが、いかにわが国の住生活が貧困であるかの例を示す。

 平成29年10月に施行された高齢者、低額所得者、子育て世帯などの住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅登録制度「新たな住宅セーフティネット制度」が始まり、登録物件が閲覧できるようになっている。

 現在、全国で129件1,170戸が登録されている。もっとも多いのが大阪府で459戸で東京都は167戸だ。

 都内の足立区西新井駅から徒歩14分の築1年.6カ月のトイレも洗面も台所もないワンルーム(7㎡)は3.3万円(坪約1.6万円)で、子育て用は11件あり、高尾駅からバス25分の築31年の2K(31㎡)は4.3万円(坪約4,600円)だ。

 記者は賃貸のことはよく分からないのだが、西新井の物件はべらぼうに高く、都心の一等地並みの単価ではないか。高尾の物件も交通便と居住面積などを考えると賃料は安くない。

 これが「高齢者、低所得者(生活保護世帯)、子育て世帯の入居を拒まない」賃貸住宅の実態だとすれば、分譲と比較して相対的に質が劣る賃貸に住まざるを得ない低所得者などは救われない。住宅取得は夢物語でしかない。

 厚労省の平成28年「国民生活基礎調査」によると、「児童のいる世帯」所得は739万8千円で、ここ数年回復傾向にはあるが、ピークだった平成8年の781.5万円には回復していない。しかも、若年層の非正規雇用が増大し、雇用不安があるためか、「児童のいる世帯」の58.7%が「生活が苦しい」「大変苦しい」「やや苦しい」と答えている。

 「住宅貧乏物語」(岩波新書)を著した建築学者・早川和夫氏が先月亡くなった。享年86歳。

 

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