会話ができる・通ると音がし、香りも嗅げる・動きに合わせて風が吹く暖簾-こんなユニークなイベント「未来ののれん展」が11月1日(木)~11月11日(日)、日本橋・中央通りの「コレド室町」周辺で行われる。
2018年7月、日本橋の企業と若手クリエイターが立ち上げた「nihonbashi β」(代表:朴正義氏)が主催するもので、日本橋の伝統と文化を象徴する「暖簾」と新しい感性と共創させ、未来につなげようという企画。
学生2人を含めた4チーム16名(平均年齢28歳)が、3カ月にわたりセミナーやワークショップを重ね、様々なソフトウェア、人感センサー、バイオメタル、超指向性スピーカーなどの最新の技術を駆使して作り上げた。
「β」の文字には、前例のないチャレンジを歓迎する開かれた街でありたいという想いと、日本橋から世界に羽ばたくクリエイターを生み出したいという希望が込められているという。掲出されるのは次の4種類。
「のれんさま/コレド室町」(クリエイター:髙橋紗登美、成田敬、深谷泰士、 藤木良祐)は幅4.5m ×高さ2m。人感センサー・加速度センサーを使用し、暖簾をくぐる人に話しかけるのが特徴。220種のことばを喋れるという。
「響きあう、今と昔/三井ガーデンホテル日本橋プレミア」(同:石川貴之、佐藤哲朗、鈴木和真、水野直子)は幅2.3m×高さ2.5m。バイオメタル(形状記憶合金)を使用し、静音性の高いのれんの上下運動を実現することによって、暖簾のモアレ現象を増幅させる。
「日本橋 音ノ場/にんべん日本橋本店」(同:小田部剛、馬場隆介、水野諒大、森幸浩)は幅3.5m ×高さ1.5m。max/msp(ソフトウェア)を使用し、調理音を音楽として再構築し、超指向性スピーカーで耳元から音が聞こえるようなシステムを構築。出汁が煮える音、鰹節を削る音のほか、香りも漂う(暖簾自体から香りが出るわけではないが)というのが〝味噌〟。
「マンダリン オリエンタル 東京の風/マンダリン オリエンタル 東京」(同:五十嵐優作、斧涼之介、佐藤達哉、水村真理子)は幅7m ×高さ2.7m ×奥行き2m。ファンと音を制御し、測域センサーを使用し、人の動きに合わせて暖簾が美しくなびき、移ろいゆく森の音を体験することができる。
◇ ◆ ◇
記者は、開催に先立って10月31日に行われたオープニングセレモニーを取材した。4チームがそれぞれプレゼンを行い、7名のアーテイスト、デザイナーなどによる審査委員のトークセッションが行われた。
一つひとつ紹介する余裕はないが、審査委員からは「清々しいテーマ」「可能性を感じた」「すごい」「面白い」「のれんなくてもよかった」「話せる暖簾なんて世界初じゃないか」「精度高い」「感動した」「パチンコ屋のような電飾がつくられるのではないかと心配したが、杞憂に終わった」「何を置いても似合う」「みんな頑張った」「想像を超えた」「(商品を)買いたくなる」「音が香りを引き出した」「大きな一歩」「プロセスが大事」「(企業の代表などと)フラットで話し合える」「経験は次に生きる」「街とつながる」などと感嘆・絶賛の声が上がった。
◇ ◆ ◇
「暖簾」と言えば、記者などは木綿か麻でできているものしか浮かばないが、マンダリンホテルのそれは「レーヨン」(化繊)で出来ていて、白いカーテンのようだった。しかも5層の奥行きもあり、足元には既設の水盤もあった。日本橋に本社を構える東レが制作に協力していると聞き、なるほどと思った。「暖簾」の既成概念を根本的に変えた作品だ。
にんべんの出汁が煮える音とか鰹節を削る音も流れるという暖簾にもびっくりした。審査員の方も「すぐ買いたくなる」と話したのも大げさではない。これはすごい。だが、しかし、出汁(煮込みか)が煮える音は、窯ゆでにされたような恐怖を覚えないか。入る客も逃げ出さないか、少し心配になった。記者はかつて鰹節を削り、最上の昆布で味噌汁をつくっていたが、だし汁が沸騰する音は聞こえない。
それにしても、奇想天外な発想に呆れかえりもし、無限の可能性も感じた。あらゆる商品が〝五感に訴える〟時代がやってくるのではないか。〝シズル〟は広告業界の永遠のテーマなのだろう。