マンション管理業協会は12月3日、マンション居住者や管理組合のマンションライフを豊かにする様々な工夫や活動を応援する「マンションいい話コンテスト 2018(一般編)」グランプリ、準グランプリ、 特別賞を発表した。グランプリ賞(賞金30万円)には、全国536通の応募の中から高橋千秋さんの「かわら版って、いいよ!」が選ばれた。
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「かわら版って、いいよ!」のあらすじと「講評」は以下の通り。
大規模修繕工事のための臨時総会が開催された。ある出席者から、業者の選択、大規模修繕の必要性など、提示を根本から覆すような質問があり、大規模修繕工事は延期になるのかな、というあきらめのムードが漂い始めた。そんな時、年配の男性が『知りたければ、事前の段階で意見を言えばよい。それをせずに、この場で屁理屈のようなことを言っている。もう、黙らっしゃい。』と発言した。出席者から、割れんばかりの拍手が起こり、決着した。
この総会で私はある事に気づいた。一度に出す分厚い資料で知らせるのではなく、もっと簡単な形でその都度知らせていたら、よかったのではないかと。
私は、広報誌「かわら版」の発行を引き受けた。私は「かわら版」を毎月発行することにした。
理事会の議題に関することは勿論、マンション内での出来事を理事会の承認を得て、知らせている。
2億円をかけて、自走式駐車場を作るという試案が出され、賛否を問うアンケート調査を行い、結果は「かわら版」で一人ひとりの意見を氏名ではなく番号にして、知らせた。説明会が2回行われ、参加者は「かわら版」を冊子にして持ってきた。発言者は、『自分はかわら版の何番の人の考えに賛成である』『⑦番の人の考えには反対である』という感想がお互いに語られ和やかに話し合いは進み、提案者も納得し、自走式駐車場は作らないことになった。
水道管の洗浄が行われた時に、管の経年劣化が発見された。管の交換は全体で一斉にやるべきだと いうお声を頂き、「かわら版」でアンケートを取り、その結果、水道管の取り換えは全体で一斉にやる方向に、総会ですんなりと決定した。
築後23年を経過しているマンションでは、あちこちに経年劣化とみられる現象がみられ、その都度、工事着工についてのご意見などは、すべての所有者に「かわら版」を通して聞いている。390の所有者の意見をまとめ上げることは、以前は大変であったが、この「かわら版」アンケートを使い始めてからは、総会でのまとまりは非常に良くなり、なごやかになっている。
「かわら版」に関しての調査をすると、居住者のほとんどの人が読んでいる。総会に出席できない人も、「かわら版」で意見を述べたら、参加しているような気持ちになり、よかったというご意見を頂いた。
【講評】 マンションには多種多様な人たちが住まわれているので、合意形成が難しいとされがちです。それを実感した筆者が取り組んだのが、昨今のIT 化社会では古風にも感じられる、広報誌「かわら版」の活用。全居住者に配られる『かわら版』が、マンション内の風通しをよくするきっかけに。
多くのマンションで、理事会からの情報発信の手段として議事録や広報誌が作られていますが、使い方を工夫することで、マンションのコミュニティを良好に、また、合意形成をスムーズにする力を発揮するということを改めて感じさせられます。
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「かわら版って、いいよ!」がグランプリ賞を受賞したのが嬉しいやら悲しいやら。嬉しいのはもちろん、当たり前の管理組合の広報活動がきちんと評価されたことだ。
悲しいのは、このようなごく当然の広報活動が業界団体の賞を受賞するという情けない現実を見せつけられたからだ。
これは管理組合の広報紙にとどまらず、諸々のメディアにも言えることだ。当たり障りのない事大主義、事なかれ主義に徹する官報のような〝お知らせ伝言板〟に堕していないか、考える必要がある。