前回は、「都市計画法ではありえない住宅不可の、駅前に行かないと飲食店はなく、フーゾクもない151haもの広いエリアに男女比71:17の88人の方はどのような生活をしているのか、職業は何か興味をそそられないわけではないが」と書いたが、やはりその興味というか誘惑には抗えなかった。早速取材に出かけた。
「(仮称)三井リビングラボ新木場」は駅から徒歩9分の表示だが、長丁場も予想し、スタミナを温存する意味もあり、また情報を仕入れる意図もありタクシーに乗った。「人? 住んでないですよ。飲食店? ありません」運転手はつれない返事。空振り。
建物が解体中の「(仮称)三井リビングラボ新木場」の前から取材開始。運よくバイクに乗っている郵便局員に出会えた。「住宅? 分かんない」またも空振り。なんのなんの、西武の山川のような気分だ。空振りを恐れて取材ができるか。
片っ端から営業している材木屋、倉庫などに声を掛けた。「10年位前からいるけど、そんな人知らないなあ」「歩き? 駅前にレンタル自転車あるけど。そんな恰好(スーツにネクタイ)して歩いたら、熱中症になって死にますよ」(ありがとう)「ここはそうじゃない。他を当たって」「ここは住んじゃいけないことになっている。知らない」「〇〇の息子さんが住んでいるという噂を聞いたが…まあ、どこだって事務所に住もうと思えば住めなくもないが…」
ここまで約1時間。10カ所くらい回ったが、全て空振り。汗が噴き出す。野球の試合の取材では6時間くらい平気だが、もう限界。空っぽの貯木場の写真を撮って帰りのタクシーを呼んだ。「住宅? それらしきもの知ってますよ」「えっ、それじゃ、そこ行ってください」
その現場に着いた。建物は鉄筋か木造か判別できないが、住宅といえば住宅だし、事務所のようでもある3階建てが建っていた。窓はあったが、男性も女性も子どもも下着は干されていなかった。表札には法人らしき名札が3つ4つかかっていた。業種までは分からない。フーゾクではなさそうだった。外観からは何屋さんか分からない。
小生は意外と無鉄砲なところがある。その筋の人が出てきたらどうしょうかとも考えないではなく、近くの貯木場に丸太ではなく、枯れ木の流木みたいな土左衛門として浮上し、カラスの餌にされるのではないかという恐怖も襲ってきたが、ええーいっ、ままよとばかり、郵便配達人のようにコツ、コツと二度ドアをノックした。
ものすごく長く感じたが、おそらく待つこと数秒。返事がないのに安堵した。小生はそれほど馬鹿でもない。写真を撮る勇気はなかったが、住所も法人名も控えた。もうこれ以上書かない。
ところで皆さんは建築基準法でいう「住宅」とは何かご存じか。第二条に「共同住宅」「居室」などはあり、建築物の細かな規定はあるが、「住宅」そのものの定義はない。
どうなっているのか。江東区の担当者は「法律をつくった国土交通省に聞いてほしい」といったし、国土交通省の担当者は「個々の案件は特定行政庁が判断する」とのことで、つまり、定義などは存在しないことのようだ。小生が「師匠」と仰ぐあるハウスメーカーの建築の専門家も「調べるから時間をください」としか答えてくれなかった。
ここでクエッション。そもそも法律ではっきりした定義がないものを地区計画で禁止する行為はいかがなものか。
参考までに、総務省の「住宅・土地統計調査」では「住宅」とは次のように定義している。
「一戸建の住宅やアパートのように完全に区画された建物の一部で、一つの世帯が独立して家庭生活を営むことができるように建築又は改造されたものをいう」とし、「『完全に区画された』とは、コンクリート壁や板壁などの固定的な仕切りで、同じ建物の他の部分と完全に遮断されている状態をいう。また、『一つの世帯が独立して家庭生活を営むことができる』とは、次の四つの設備要件を満たしていることをいう。①一つ以上の居住室②専用の炊事用流し(台所)③専用のトイレ④専用の出入口屋外に面している出入口又は居住者やその世帯への訪問者がいつでも通れる共用の廊下などに面している出入口」とある。
しかし、これも、バスもトイレもないわずか7㎡(2.1坪、4.2畳)の部屋を1戸とみなすセーフティネット住宅との整合性をどう説明するのか。
それにしても、このような地域にライフサイエンスの最先端ベンチャーを誘致する三井不動産はすごい!マンションではないから、RBA・話題のマンションベスト3には入れられないが、某媒体の今年のヒット商品番付で横綱になるのは間違いないと思うが、どうだろう。