1月28日付住宅新報は、「主要デベロッパーの戸建て供給実績 安定供給の中で戦略に相違 ハウスメーカー規模の注文実績も」と4段見出しの記事を12面トップで報じた。業界紙の揚げ足など取りたくないが、取材姿勢に問題があり、初歩的なミスもあるので看過できない。書いた記者本人はもちろん、書かせた編集長にも考えてほしいので以下にいくつか記すことにした。小生のエールだと受け止めていただきたい。
記事のリードには「主要デベロッパーが供給する戸建て住宅の実績をまとめた」とある。「主要デベロッパー」とは何を指すのか不明だが、まあ、これはよしとしよう。ハウスメーカーは除外されていることが分かる。
次に「分譲マンションの供給が主力のデベロッパーは分譲戸建てを手掛けるのが主流」とある。これは意味不明。書いた本人も分からないはずだ。小生はこの段階でパニック状態。
分譲マンションが主力のデベロッパーと言えば、大京はそうでなくなったし、強いてあげれば明和地所、タカラレーベン、モリモト、大和地所レジデンスなどで、これらのデベロッパーは戸建てを手掛けるのが主流とすれば…数えるほどしかないはずだ。三井不動産や住友不動産、三菱地所、東急不動産などは分譲マンションが主力ではない。
さらに続けて「その一方、注文住宅受注や宅地分譲を中心に展開する企業もある」としている。これも理解不能。デベロッパーの中には注文住宅を手掛けるところは多くはないが、かといって少なくもない。また逆にハウスメーカーだって最近は〝街づくり〟など開発事業に力を入れている。
この傾向はさらに強まるはずだし、デベロッパーとハウスメーカーの垣根などそもそもない。業界紙の勝手で「デベロッパー」「ハウスメーカー」に分け、つまりバリアを設けて、取材体制を敷くところに根本的な問題がある。デベロッパー担当の記者はハウスメーカーのマンションや戸建て分譲を見ないし、ハウスメーカー担当者はその逆にデベロッパーの分譲するマンションや戸建てを見ない。これを改めない限り、記者はいつまでたってもマンションや分譲戸建てを理解することは不可能だろう。担当記者を業態や事業分野に振り分ける陋習というべき取材体制を改めるべきだ。
基本的なミスについて。普通なら4分の1程度に収まるはずの「主要デベロッパーの戸建て供給実績」の表だ。表に記載されているのは14社のみ。先にも書いたが、年間4万数千戸の戸建てを供給する飯田グループはデベロッパーではないのか。表にはないポラス、オープンハウス、ナイス、ケイアイスター不動産などはどう分類しているのか。分かったら教えてほしい。
かわいそうなのは三井不動産だ。表には三井不動産レジデンシャルの18年度の供給実績は「400戸程度」となっている。なるほど、調査は「供給戸数」とあるので、三井不動産の広報担当者は正直にそのように答えたのかもしれない。
しかし、同社の2019年3月期の分譲戸建ては売上高332億円(前期289億円)、計上戸数475戸(同501戸)、平均価格6,990万円(同5,788万円)、完成在庫30戸(同35戸)だ。同社はずっと以前からこのようにきちんと決算数字を発表している。
ところが、野村不動産の数値は「供給戸数」ではなく、2019年3月期の計上戸数647戸(前期607戸)をそのまま引き写していると思われる。
計る物差しは一緒にすべきだが、これまで三井に勝てなかった野村はついに計上戸数では三井を捉え上回ったことを表は示している。これは快挙かもしれない。記者はなぜこれを書かないか。
ただ、決算計上戸数は遅行指標であることを忘れてはいけないし、利益率も見なければならない。記者はここに的を絞ってもよかったと思うが、どうして野村が三井を戸数で上回ったか、過去6年間のそれぞれの計上戸数を比較するとその謎が解ける。( )内は三井-野村の順の戸数。
・2014年3月期(916-718)
・2015年3月期(899-859)
・2016年3月期(751-643)
・2017年3月期(639-682)
・2018年3月期(501-607)
・2019年3月期(475-647)
三井は2014年3月期の916戸をピークにこの5年間で戸数をほぼ半減させている。一方の野村は、明らかに三井を意識して急激に戸数を伸ばして来た。2015年3月期には鼻差まで迫った。ところが、急拡大に無理があったのか販売ペースは落ちた。2016年以降は600戸台にとどまっているのはそのせいだ。
過去6年間の計上戸数のトータルは三井が4,181戸で、野村が4,156戸となっている。勝負はこれからだ。三井がまた引き離すか、野村はこのままリードを保てるのか。三井の経理担当者は「当社は他社と戸数で争っているわけではない」と話したことがあるが…どうなるか。
もう一つ。住友不動産の断トツの数字にはあ然とするほかなかった。「18年度供給戸数は3,077棟」(他社は「戸」なのにわざわざ「棟」)とし、「ハウスメーカー並みの規模」と書く。この記者も書いている通り、住友の3,000戸は注文住宅だし、分譲戸建てはせいぜい100戸程度だ。記事は完全に破綻している。注文も含めるのなら三井ホーム、三菱地所ホーム、東急ホームズなども入れないと公平ではない。
このようなあり得ない基本的ミスを犯すのも、先に書いたように業界紙記者は身も心も悪弊に分断されているからだ。
参考までに、小生が8年前に書いたデベロッパーの建売住宅に関する記事を添付する。小生も注文が主力の大手ハウスメーカーを対象外とした。理由は簡単。調べるのに時間がかかるからだ。
ついでに言えば、マンションもそうだが、いわゆるパワービルダーと呼ばれる会社とデベロッパー、ハウスメーカーが供給する分譲戸建ては似て非なるものだ。同じ土俵で論じるのは適当かどうか。価格は倍ほども異なる。
さらに一言。きついことを言うようだが、この記者の方は現場を見ていない。記事を読めばすぐわかる。あの鶴岡一人は「グラウンドにはゼニが落ちている」と名言を残し、初代若乃花は「土俵の下には金が埋まっている」と語った。マクロデータをいくらかき回しても、ものは見えてこない。しっかり戸建て現場を取材してレポートしてほしい。
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そのつもりはなかったのだが、新報を取り上げるなら週刊住宅も書かないと公平でないので書く。
1月20日付週刊住宅の1面見出しだ。「取引価格は既に天井破り」にはドキッとすると同時に笑うしかなかった。
〝破る〟のは〝心臓破り〟であり〝おきて破り〟しか小生は知らないし、〝天井を破る〟のは忍者かコソ泥か覗き魔しかいないはずだ。「天井知らず」または「青天井」と書くべきところを間違ってそう表現したのだろう。
が、しかし、確かにリート・ファンドは〝おきて破り〟に限りなく近いという意味では〝天井破り〟は的確に市場を捉えており、そのうちに新語として定着するかもしれない。