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2020/02/22(土) 15:38

「AERA」はマンションの「本当の価値」を明らかにしたか 東京カンテイには感服

投稿者:  牧田司

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「AERA」2月24日号「マンション新常識」記事(マーカーは小生がつけたもの)

 朝日新聞出版「AERA」2月24日号に掲載された「マンション新常識」の記事を興味深く読んだ。「『販売日数』が示す真の価値 価格じゃ見えないマンションの裏側」と題する全4ページで、筆者は住宅ジャーナリスト・山下和之氏と同誌の編集部。

 もっとも注目したのは、東京カンテイが提供した首都圏、名古屋市、大阪市、京都市などの2014年~2018年にかけて分譲されたマンション全物件のデータだった。

 データは定量的に処理されているため、具体的なマンション名などは1件も記されていない。販売開始から終了までの平均日数、最長日数と即日完売-半年以内-1年以内-1年超の分布、4年間の平均価格の推移などが分かりやすく図示されているのみだ。

 驚いたのは販売日数だった。首都圏でもっとも販売期間が短いのは墨田区の22日で、以下、荒川区28日、大田区38日、台東区42日、足立区62日、板橋区65日、新宿区66日、北区74日などとなっており、人気エリアというより、都心周辺の住宅地としてのポテンシャルが低い区部が上位を独占していることだった。

 正直、嘘だろうと思った。大手デベロッパーが販売リスクを考えもっとも嫌がる地域ではないか。2014~2018年に取材したマンションの記憶を辿っても、それらのエリアで売れ行きが好調だったのを思い出せなかった。墨田区でいえば、錦糸町で分譲し、好調だった三井不動産レジデンシャル…しか思い浮かばない。足立区でも北千住の三井不動産レジデンシャルと三菱地所レジデンスの早期完売マンションしか出てこない。

 そこで早速、同社に具体のマンションデータを教えていただきたいと申し込んだ。短時間完売ベスト100とかロングランマンション100、デベロッパー別販売スピード、戸数別販売速度などとして再構成し、記事にしようと思ったからだ。

 甘くはなかった。「AERA」の記事にも登場する同社市場調査部上席主任研究員・井出武氏から「センシティブな内容を含むので、データは具体のマンション名などを公表しないという条件付きで提供した」と断られた。

 あっさり引き下がるほかなかった。記者は、前職で20年以上、首都圏の新規マンションと分譲戸建ての販売状況をまとめ記事にしていた。捕捉率はマンションは約9割、分譲戸建ては4~5割だったと思う。デベロッパー別、施工会社別、用途地域別の売れ行きの違いなども記事にした。例えば準工立地の物件の売れ行きが悪いとか、住居系立地の三井不動産のマンションがよく売れるとか、竹中工務店施工マンションが好調…などだ。

 しかし、個別物件の販売日数などはとても追いきれないので記事にしたことなど一度もない。東京カンテイが全国のマンションのデータを詳細に把握しているのに驚嘆した。

 同社が設立されたのは1979年だが、目黒駅近くの雑居ビルで話を聞き、記事にしたのを思い出す。分譲パンフレットの収集から始めたはずだ。小生も取材したパンフレットは事務所に保管していたが、膨大な量にのぼるので捨てることにした。一部数千円から1万円以上のものもあったはずで、保管していたら凄い財産になったに違いない。

 同社のその後の事業展開などはよく知らないが、新築マンションのデータだけでなく、一戸一戸の中古流通のデータも把握していると聞いた。年間10万戸として数百万戸のデータを握っているのではないか。富の源泉は情報だ。同社の将来が末恐ろしい。悔し紛れに一点だけ弱点を指摘すれば、具体のマンションの基本性能・設備仕様レベルは把握できていないはずだ。

◇       ◆     ◇

 記事をまとめた山下氏はよく存じ上げている。マンションだけでなく、記者も顔を出すあらゆる取材現場で山下氏と出くわす。〝現場主義〟に徹している方だと思う。

 ただ、残念だったのは、記事には前段で書いたように具体のマンションは一つも出てこず、全4ページの紙面のうち見出し・図表が約57%を占め、記事の60%以上は東京カンテイの図表の説明やあれやこれやのマクロデータの寄せ集め、不動産コンサルタントなどのコメントであることだ。

 記事の冒頭にある取材テーマでもある「モノの値段は需要と供給のバランスで決まる。それが経済の大原則のはず。ならば、売れていないのに(太字は小生)価格が上がり続けるのはおかしい。現在の不動産市場では、価格が必ずしも市場価値を反映していないのではないか。だとしたら、知りたいのは『本当の価値』だ」としている「本当の価値」を記事は明らかにしていないのではないか。

 もうこれ以上深入りしないが、小生は供給物件を十把一絡げにして契約率が高い低い云々と書くのはいかがと思う。マクロデータはものを見えにくくするからだ。仮に坪単価500万円の20坪の億ションが即日完売し、同じ坪単価の10坪の5,000万円マンションが完売まで1年かかったとしたら、これをどう解釈、説明するのか。

 販売総額は15,000万円だから平均価格は7,500万円となるが、これが市場価格でないことは明らかだし、果たして売れ行きがいいのか悪いのか誰も説明などできない。デベロッパーだって足して二で割るようなそんな乱暴な売り方をしない。誰に売るかを真っ先に考えるからだ。

◇      ◆     ◇

 最初に記事を書いてから1日経過した今、「販売日数」は実際のマンションの販売期間とは関係ないことに気が付いた。

 前述の井出氏は期分けした物件もそれぞれ1物件としてカウントすると語った。仮に、全部で100戸のマンションを期分けせず1年間かけて販売した場合の販売期間は1年だ。一方、100戸のマンションを1期10戸としてそれぞれ即日完売し、全体として販売期間は1年間だったとすると、東京カンテイのデータには10物件が「即日完売」したことになる。

 つまり、後者の「即日完売」は見せかけであり、実際には前者のマンションの売れ行きと同じだということだ。これで、城東、城北エリアのマンションの販売期間が極端に短い謎が解けた。違いますか? 井出さん、山下さん。

錦糸町12分で坪単価264万円は〝旧価格〟か 三井レジ「パークホームズ錦糸町」(2016/10/28)

 

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