分譲戸建てナンバーワンの飯田グループホールディングスの中核企業・一建設が4月から「リースバック」事業に参入した。現段階で他の飯田グループ企業がどうするかは不明だが、年間で46,000棟以上を供給し、約30%の分譲戸建てシェアを占める飯田グループ全社がリースバック事業に参入したら業界に与える影響は少なくない。リースバック事業を考えてみた。
最初に断っておく。記者はこれまで一度もリースバック事業について取材したことはなく、門外漢でもある。しかし、今回の新型コロナ問題により、使途が問われないこのリースバックを希望する人が激増するのは間違いなく、果たして健全な市場が形成されるのかどうか心配になってきたので記事を書くことに決めた。
その前に、よく似た商品について概観しておく。
まず、「リバースモーゲージ」について。自宅を担保に、そのまま住み続けられるという金融商品だ。1981年に武蔵野市が初めて導入し話題となり、記者も少し取材したことがある。現在では多くの信託銀行も取り扱っているが、事業目的や投資目的には利用できず、金融機関も長生きリスク、担保価値下落リスク、相続人のトラブルなどを回避する傾向にあり、融資実績は伸び悩んでいると言われている。
75歳の借主の場合、貸付合計額は不動産の価値の35%という報告もあるように、普通の人にとっては使い勝手が悪いのがネックだ。契約終了時に担保物件の売却価値が借入残高を下回ると、不動産を売却しても借金が残ることになる。銀行もまた不良債権化することを防がねばならないので、神経を使うようだ。
もう一つ、似た商品に住宅金融支援機構の「リ・バース60」がある。2009年に始まった主に60歳以上の高齢者を対象とした住宅ローンで、普通の住宅ローンと異なり、毎月の支払は利息のみで、本人が死亡したときに相続人が一括して返済するか、担保物件の売却によって返済するかどちらかが選択できる。
機構は金融機関と住宅融資保険契約を結び、残元金の全額を保険金として支払うので、金融機関は、担保価値下落リスクなどを回避することができる。2017年にノンリコース型を導入してから利用者が増えているようだ。
これらの金融商品・住宅ローンとことなるリースバックとは何か。Wikipediaでは「不動産リースバックには、持ち家をリースバック業者に売却して、資金を調達しながら、リースバック業者から以前の持ち家を賃借することで、住み続けるサービスもある」としか記載されていない。市場規模は1.8兆円と試算するところもあるが、実態は分からないようだ。
そこで、業界最大手といわれるハウスドゥに問い合わせた。同社広報担当者は「当社は2013年から事業を開始し、リースバックのパイオニアとして自負している」とのことで、統一した定義のようなものはないようだ。
なのでよくわからない部分もあるのだが、同社のリースバック事業は極めて好調に推移している。
2020年6月期第2四半期の売上高は5,937百万円(前期比49.6%増)、営業利益670百万円(同39.3%増)、営業利益率11.3%(前期12.1%)を計上。契約件数は333件(月55.5件)、取得件数は320件、保有物件総額は5,616百万円となっており、ファンドなどへの売却は300件53億円に上っている。
同社のほかでは、セゾングループのセゾンファンデックスが2016年に事業開始したほか、インテリックス、SBIエステートサービス、スター・マイカ、ムゲンエステート、新生銀行グループの昭和リース、大和ハウス工業、セキスイハイム不動産、大成有楽不動産販売、大京穴吹不動産、センチュリー21ジャパン、ピタットハウスネットワーク、伊藤忠ハウジング、オークラヤ住宅など、「リースバック」で検索すると20社くらいがヒットする。
大手中小が乱立する玉石混交市場に危機感を抱き、健全な市場を形成するため自主規制を定めようという動きが浮上している。
ハウスドゥなどは今年1月、一般社団法人日本リースバック保証協会(代表理事:冨永正英・ハウスドゥ取締役)を設立。趣意書では「消費者にとっては、不動産活用の選択肢が増え、状況やニーズに応じたサービスを受けることができるようになる一方、近年、メディアなどにも取り上げられるようになってきたことで、注目が集まるとともに参入する企業も増加しており、サービス品質の低下や悪質な事業者の出現が懸念されています。
実際に、事前に説明を受けた内容と契約内容が異なっていたり、期限を定めて賃貸契約を締結する『定期借家契約』を利用し、期間満了後に契約の継続を断られたり、退去を求められるというトラブルが表れているケースもあり、今後このような状況が拡大して消費者がサービスの利用に消極的になれば、業界の発展を妨げることになりかねません」と警鐘を鳴らす。
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記者がもっとも心配するのは、同協会と同じ、利用者が不利益を被らないかの一点だ。今回の新型コロナの影響により、事業資金や生活資金をねん出するためリースバックを利用しようと考える人は間違いなく増加する。
〝足元を見られる〟のは必至で、事業者は地価下落リスクを抑えるため買い取り価格も低めに設定するのも明らかだ。賃貸利回りも高めに設定するはずで、利用者の負担は増すことになる。
この先、新型コロナが収束し、景気がV字型回復すれば最悪のシナリオは回帰できそうだが、そうでなければ自宅を再取得できず、高い賃料のまま住むことになるか、退去を迫られることにならないか。
それにしても、リースバック会社が提示する買戻し価格は売却価格と比較して高いような気がしてならない。木造住宅の減価償却期間は20~22年だ。建物価格を500万円とすると、定額制では年間25万円が〝目減り〟する。賃料利回りを4~5%と想定すると、期間3年の買戻し価格は売却価格の110%くらいが適正ではないか。
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web「お金のミカタ」を運営するセイビー(SEVEE)は昨年8月、「不動産リースバック」利用者に関する総合調査をまとめ発表している。サンプル数は157件と少ないが、結果を紹介する。
利用した物件は、「戸建て」が56.7%で、「マンション」は27.4%。資金使途は、「住宅ローンの早期返済」40.8%、「老後資金の確保・老後生活の充実」28.7%、「相続対策」「生活費」19.7%などとなっている。
利用した理由は、「自宅に愛着があるから」52.2%、「街に愛着があるから」36.9%、「引越しをしたくないから」21.7%など。このほか、利用している理由として、「年金が減り、物価が上昇するので老後の資金が不足するケースが増える」「老人ホームなどに入るにせよ、まとまった資金が必要」「カードローン・フリーローンは総量規制が厳しくなり、お金を借りる手段が限られている」などを上げている。
利用状況は、「リースバックした自宅に住み続けている」は77件(49.0%)、「買戻しを検討している」25件(15.9%)、「退去を検討している」10件(6.4%)、「買い戻した」11件(7.0%)、「退去した」34件(21.7%)などとなっている。
満足度では、「非常に満足」「やや満足」と回答した人は57.3%で、満足度の低い人は「買取額が安い」22.3%、「家賃が高い」21.7%、「事務手数料が高い」20.4%などを上げている。