キッズデザイン協議会(会長:山本正已・富士通取締役シニアアドバイザー)は9月30日、第14回「キッズデザイン賞」受賞作品237点の中から最優秀賞、優秀賞、奨励賞、特別賞など優秀作品33点を発表。最優秀賞の内閣総理大臣賞は福祉型障がい児入所施設「まごころ学園」が受賞した。
「まごころ学園」は、新潟県見附市にある知的障がい、育児放棄、虐待を受けた子どもたちを受け入れる施設で、見附市、長岡市など5市町村の共同プロジェクト。建物は1辺54mの中庭付きヒノキの木造平屋建て延床面積約2,000㎡。約40人の子どもはそれぞれ6畳大の個室に入所している。
受賞者は福祉型障がい児入所施設 まごころ学園/一級建築士事務所 山下研究室/長建設計事務所/江尻建築構造設計事務所/設備工房アドイン/ハイランドパーク。
授賞理由は、「福祉型施設の課題点を精緻に分析し、空間デザインとして非常にうまくまとめている。管理型になりがちな施設に家づくり・コミュニティづくりの視点を取り入れ、様々な居場所をつくり、子どもたちが無理なく伸び伸びと過ごせる環境を生み出している。個室も完備され、居住空間も良く、カラーリングやサイン計画も秀逸」としている。
プロジェクトを代表して登壇した山下氏は、「思いもよらぬ受賞、感無量です。子どもたちはコンクリでつくられた旧施設から移って一冬を過ごしたが、インフルエンザに罹った子どもはほとんどなかった。生き生きと暮らしている。最高の賞を受賞し、これまでの苦労が報われた。オール・ハーピーエンドとなった。とても幸せ」などと喜びを語った。途中、プロジェクトに関わった自治体の市長から学生さん、大工さんに至るまで約20人の具体的な名前を挙げ喜びを分かち合った。
「キッズデザイン賞」は、子どもの安心・安全と健やかな成長発達に役立つ優れた製品・空間・サービス・活動などを検証する制度で、今回の応募は390点で、先に237点が受賞。累計応募数は5,376点、受賞数は3,205点となった。
同協会会長・山本氏は「キッズデザイン宣言に掲げるように『すべての子どもは社会の宝であり、未来そのものです』-新型コロナの影響を大きく受けている今だからこそわれわれは真価を問われている。ものづくり、ことづくりを通じで子どもに心の豊かさを届けられるよう一層努力していく」と挨拶した。
審査委員長・益田文和氏は「今、社会は自然界からパンデミックや気候変動などのチャレンジを受けながら、戸惑い、足踏みをしているのでしょうか。今年の審査を通して時代の迷いのようなものを感じました。しかし、そういう時だからこそ、子どもたちの中にある未来の不安を打ち消し希望を呼び覚ますために、社会がしなければならないことがあるはずです。状況の変化に柔軟に対応しつつキッズデザインの目標を再確認し、果敢に提案し続けていきたいものです」とコメントした。
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記者はこれまで10回くらい取材してきただろうか。ほとんど毎回ハウスメーカーやデベロッパー、ゼネコンなど日ごろ取材している企業などが優秀作品に選ばれているので楽しみにしてきた。
ところが、今回は優秀作品33点の中には相互住宅(消費者担当大臣賞受賞)とミサワホーム総合研究所(キッズデザイン協議会会長賞)しかなく、コロナ対策として入場制限なども行われていたので、早々に退却しようと考え、表彰式もぼんやりと眺めるだけだった。
何の収穫も得られず帰ろうとした途端だ。記者の目を射たのが「まごころ学園」の模型とファイルに収められていた図面だった。文字は小さく配布資料もなかったが、優れた作品であることは読み取れた。
設計を担当された長岡造形大学 建築・環境デザイン学科教授・山下秀之氏の話も聞いた。
「子どもたちはインフルエンザに罹らなくなった。喧嘩が激減した。明らかに木質空間の効果。そればかりでない。大人たちがみんな〝自分が住みたい〟と言い出した。これはそのまま全国の施設に置き換えることができる」-嘘のような本当の話を山下氏はされた。山下氏はキッズデザイン賞を教え子の方を含めて過去4回受賞されているとのことだった。今回の作品は、審査員から圧倒的な支持を得たそうだ。
木造ハイブリッドの記事を2本書いた翌日の今回の総理大臣賞受賞作品だけによけいにうれしい。コロナがなければすっ飛んでいきたい作品だ。
ちょうど居合わせた同協会副会長で積水ハウス副会長の稲垣士郎氏に「稲垣さん、御社もこのようなものを造るべき」とけしかけたら、「検討しよう」とまんざらでもなさそうだった。
会場(六本木ヒルズ アカデミーヒルズ49)