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2020/12/07(月) 11:50

朝日新聞が創業以来の大赤字に 人員削減不可避(篠原勲氏のOSI会員向け記事転載)

投稿者:  牧田司

 企業文化研究所理事長・篠原勲氏が12月7日付でNPO法人OSI研究会会員向けに発信した記事を転載します。

 篠原氏は1942年生まれ。「会社四季報」編集長、「週刊東洋経済」論説委員、編集局次長、取締役営業局長・取締役広告局長、鳥取環境大学教授などを歴任。著書は「強い会社は軸がブレない」(定価:1,500円+税/発行・発売:第三企画出版)、「『武士道』と体育会系〈もののふの心〉が日本を動かす」(定価:本体1,500円+税/発売:創英社・三省堂書店)など。

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 スマホの普及に伴い新聞が急激に売れなくなってから久しい。日頃のニュースは新聞ではなくテレビやスマホを見れば十分ということなのだろう。通勤電車の中で新聞を広げている人はほぼ姿を消した。周囲に気兼ねしながら新聞を広げて読むのも気が引けるらしい。それに購読料が読者の収入に比べ割高感があることも新聞が売れなくなった理由の一つである。共稼ぎが増えたため主婦など家族も家で新聞を読む人が少なくなった。 

 新聞業界を取り巻く環境が厳しさを増す中で、朝日新聞が「創業以来の大赤字、渡辺雅隆社長が来春退任」とのニュースが流れたことから、朝日新聞の凋落ぶりが話題になっている。朝日新聞社は、「2020年度決算が経常損益で約170億円の創業以来の大赤字に陥る見通し」だという。2020年9月中間期の売上は1,390億円(前年同期比22.5%減)、営業損益92億円の赤字(同6億円の黒字)、純損益は繰り延べ税金資産の取り崩しにより419億円の赤字(同14億円の黒字)だった。

 新聞部数では、読売新聞が2020年上半期時点で771万部(ABC部数)とトップの座を守っている。朝日新聞は516万部で2位にある。ちなみに全国紙では3番手が225万部の毎日新聞、4番手が213万部の日本経済新聞、5番手が133万部の産経新聞という順番だ。

 それにしても、今から10年ほど前までは、読売新聞が約1,000万部の部数近辺で安定していた。それが急落に転じたのは2014年頃からだった。近年は新聞業界全体で見ると毎年200万部のペースで発行部数は減少をたどっている。

 もっともそうした中にあって朝日の落ち込みが目立つ一方、4位の日経新聞は経済情報を目玉にしてその存在感を増している。株式市場の堅調もあり直近では毎日新聞と日経新聞の部数が僅差で入れ替わったという話もある。2019年度の日本経済新聞社の連結売上高は3,568億円で、朝日新聞社の3,536億円を抜き、発行部数では日経が朝日の半分以下でも、広告収入などの面で日経が朝日を凌駕しているのがその理由だ。

 朝日新聞社が公表している財務データによると、朝日新聞社は不動産事業で安定した利益を上げていることが分かる。2020年3月期の決算データでは連結従業員数6174人が関わるメディア・コンテンツ事業(新聞はこの中に含まれる)の売上は3345億円、セグメント利益は19億円となっている。では不動産事業だが、売上高385億円、セグメント利益は68億円を稼ぐ。つまり、朝日新聞にとってオフィスビルの賃貸事業がメディア・コンテンツ事業を下支えしていることになる。

 朝日新聞社が170億円の創業以来の大赤字となり、渡辺雅隆社長が来春で責任をとって退任する(後任は中村史郎副社長)とのニュースにもかかわらず、同社で経営改革の話題が表面化しないのが周囲の興味を引く点と言える。コロナ禍で多くの企業が様々なコスト削減策を打ち出し生き残り策を模索しているが、朝日新聞社にはそうした動きが見られない。

 その理由はどこにあるのか。それには、「新聞社は民間企業でありながら社会の公器である」という意識と甘えが社内に強いことがあるという。特に、編集者とか記者は「会社の業績悪化は経営者が責任を取ればよいことであり、現場のジャーナリストがとやかく口を出す問題ではない」という自尊心が強く、経営側もそれを抑えられないようだ。

 しかし、いくら編集者や記者がその仕事に誇りを持っていても、赤字続きでは企業は行き詰まる。もちろん、他に新たなる収益源が加われば、先行きの不安も解消しよう。しかし、今の朝日新聞に新商品、新分野は期待しにくい。となると、先はジリ貧が待ち構える。

 朝日新聞社は株式を公開していないため、その内実は上場会社に比べ表に出てこないことが多い。しかし、有価証券報告書の提出企業のため従業員の給与水準を公開しているので、それによると朝日単体では従業員3,966人の45.4歳の平均給与が1,229万円(2020年3月31日現在)と、一般企業よりもかなり待遇が良いことが分かる。

 と言っても、この給与水準は他の大手新聞社や大手テレビ局の社員の平均的な給与と比べても特別高い訳ではない。ただ、朝日の場合、新聞販売部数の減少や広告収入の落ち込みを考えると、この高給がいつまで持つのかということである。

 すでに新聞業界においては地方紙と毎日、産経のような下位企業で社員の給与水準の見直しが進んでいる。データが公表されていないので、正確ではないが、毎日新聞・産経新聞の平均的な40代社員の年収は800万円前後と推測されている。

 朝日新聞は1879年(明治12年)に、大阪・江戸堀(現在の大阪市西区)において創立された。「朝日」の由来は、「旭日昇天 万象惟明」にあり、「毎朝、早く配達され、何よりも早く人が手にするもの」との意味から名付けられた。その後、1882年(明治15年)に、政府と三井銀行から極秘裡に経営資金援助を受け、経営基盤を固めてきた。

 東京に進出したのは1888年(明治21年)。東京に本社を置く「めさまし新聞」を買収し、「東京朝日新聞」に改題、大阪は「大阪朝日新聞」に改題してスタートした。 株式会社朝日新聞社に改組したのは1919年(大正8年)だった。

 1945年(昭和20年)の日本の敗戦は、朝日新聞に対して戦争責任明確化を求めることになる。これにより、村山長挙社長以下幹部が辞任後、村山長挙と上野精一が公職追放となる。また、その後、朝日新聞の名声に大きな傷跡を残したのが誤報とされた「吉田証言」(慰安婦問題に関する記事)や(福島原発に関する)「吉田調書記事」を巡って「新聞業界全体の信頼を大きく損なわせた」と朝日新聞が詫び謝罪した事態である。

 なお、朝日新聞社は2023年度までに社員計300人規模の希望退職の実施の検討に入ったとの情報も。まずは100人以上を対象とした具体案を労働組合に示した。一部の管理職などを除き、来年3月31日時点で勤属10年以上の45歳以上65歳見満の社員が対象となる。年収や年齢に応じて、希望退職特別一時金として最大計5,000万円を支給し、再就職支援会社のサービスも受けられるようにするとの計画だとされている。

 在宅勤務やデジタル化の流れもあり新聞の購読者もこれまでとは違った生活の在り方に変わっていくことになるだろう。かつては花形職業であった新聞社の編集者や記者の仕事も今後は大きな変革の荒波に揺すぶられるのは避けられない。

 

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