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2020/12/15(火) 14:41

築84年 都内に現存する唯一の木造見番建築物見学会 青木茂建築工房が設計監理

投稿者:  牧田司

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「港区立伝統文化交流館」

 青木茂建築工房が設計監理を担当した港区の旧協働会館「港区立伝統文化交流館」の見学会が12月14日行われた。コロナ禍のため1回30名の来場制限を行ったにもかかわらず、15日と合わせ8サイクル全240名が全て満席となった。(写真★は記者、それ以外は交流館ホームページから)

 施設は、JR田町駅から徒歩8分、港区芝浦1丁目に位置する木造2階建て(既存棟)RC造2階建て(増築棟)延べ床面積約550㎡。

 昭和11年に建設された既存棟は、「目黒雅叙園」の棟梁である酒井久五郎が手がけた都内に現存する唯一の木造見番建造物(「見番(けんばん)」とは「置屋」「料亭」「待合」からなる「三業」を取りまとめ芸者の取次ぎや遊興費を精算する施設)。

 正面玄関には銅板葺きの唐破風(からはふ)をつけ、檜舞台のある「百畳敷」の大広間、木製引戸の卍崩し、階段支柱の擬宝珠(ぎぼし)などの技巧が凝らされた優美な姿を留めている。

 第二次世界大戦中に芝浦花柳界が疎開し、戦後は「協働会館」と名を変え港湾労働者の宿泊所として使用された。2階は日本舞踊の稽古場、集会のために貸し出されていた。

 老朽化のため平成12年に閉鎖され、一時は解体が決まったが、平成21年に港区指定有形文化財に指定され、地域の請願を受けて2年に及ぶ改修工事を経て、伝統・文化を次世代へとつなぐ「港区立伝統文化交流館」として令和2年4月に開館した。

 改修に当たっては、文化財的価値を保存するため曳家で約8m移動させ、新たな基礎・耐圧盤を整備し、さらに耐震性を担保する補強工事を施したうえ、公の施設として活用するため増築部分にエレベータ、トイレ、スロープなどを設置した。

 誰でも自由に利用できる1階は、建物や地域の変遷が分かる展示室をはじめ情報コーナー、飲み物や軽食を提供する福祉喫茶を設けている。予約制の2階は様々な用途に使えるようになっている。

 見学会に臨んだ青木氏は「文化財としての価値を損なわないよう再利用できるものは極力残した。補強壁などは違和感のないように工夫も凝らした」などと語った。

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青木氏★

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◇       ◆     ◇

 写真をご覧いただきたい。外観は84年前に建設されたままなのだろう。内観は置屋、料亭そのものでないので絢爛豪華とは言い難いが、装飾を施したガラス戸、擬宝珠などに往時がしのばれる。芸者さんなどが稽古を行った檜舞台付き「百畳敷」は、最大天井高は3.1m(10.23尺、今のマンションはせいぜい2.45m=8尺)、間口は8.7m(4.785間)だった。

 今は使用されていないが、昔のままの和式水洗トイレも見せてもらった。タンクに水を貯め、ひもを引っ張ると水が流れる立派なトイレだった。本来の「掃き出し窓」も見た。文字通り箒でごみを外に吐き出す小窓だった。

 驚いたのは、内観はあきらかに補強したと思われる壁などが設置されているのに違和感は全くないことだった。

 そのことを青木氏に話したら、「キーストーンと同じ。力が加わるところに補強を施すから違和感がなくなる。単なる装飾ではない」と話した。けだし名言。建築の魔術師はいうことが違う。

 青木氏はまた、「私はこれまでも結構木造のリファイニングを手掛けてきた。寺の設計も行ったくらい。それにしても昔の大工は凄い。100畳の無柱空間を造り、曳家も日常的に行ってきた」と語った。

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◇       ◆     ◇

 記者はこの日、別の取材もあり、空いた2時間を渋谷東武ホテルの「勉強カフェ」で本を読んで過ごした。コーヒーなど飲みたい放題で、ホテル内の喫煙室も利用でき1,100円だった。

 この「交流館」は、改装工事(本工事+エレベーター工事)に約4.5億円かけた価値はある。弁当などの持ち込みが可能で、コーヒーが150円、軽食も注文できる。「密」も回避できそうだ。お勧めしたい。

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当時の洋式トイレ★

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補強壁★

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掃き出し★

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