今年も残り1週間。カウントダウンが始まった。
読者の皆さんもそうだろうが、記者のこの1年間はコロナがすべてだった。3月からテレワークに突入し、その直後、RBA野球大会は中止になった。マンションやオフィス、ホテル、商業施設などの見学が激減した。コロナに突き落とされ、翻弄された1年だった。
三密を徹底して避けたおかげか、コロナには感染しなかったのは幸いだったが、ものを観ない記者などに一片の存在価値もない-そんな無力感にさいなまれた1年でもあった。
記者は毎年このころ、見学取材したマンションの中から商品企画、売れ行きなどがもっとも優れたと思われるマンションを3物件選び「ベスト3マンション」とし、注目すべき「話題のマンション」を30物件前後紹介してきた。30数年間継続しているので、その数は1,000件を突破するはずだ。その時代時代を活写してきた自負はある。
しかし、今年は「ベスト3マンション」も「話題のマンション」も発表は中止・断念することにした。今年見学取材したマンションは58物件だ。前年の2019年は72物件、2018年は86物件、2017年は105物件だった。この4年間でほぼ半減した。
これほど激減したのは、第一に供給量が減少したためであり、同時に記者の取材力が衰えたためなのは明白だ。そして今年は新型コロナだ。見学すべき物件はあと20物件くらいあったが、取材を断られ、断られるのが目に見えていたから申し込まなかったのが響いた。
中止するのは、高々60件弱の物件を見ただけで市場を把握したような記事など書きたくないし、各社に失礼だと思うからだ。
それともう一つ、記事を書くことをためらわせる理由がある。口コミ掲示板の存在だ。成否はともかく、微に入り細を穿つその情報量は小生などの記事を圧倒する。お客さんに成りすまさないことには分からないはずの価格(坪単価)が堂々と公表されている。正攻法のわれわれメディアの出る幕はなくなった観がする。ひょっとすると、マンション市場を左右するのはこの種のブロガーと呼ばれる人たちかもしれない。
だから、デベロッパーが取材に応じたくない気持ちも理解できる。口コミ掲示板であることないことが暴露されているのに、記者などの何の役にも立たない〝辛口〟記事などでそれ以上物件が〝荒らされたくない〟と予防線を張るのは当然と言えば当然だ。(以前は各社とも鷹揚なもので、取材を断られるのは10のうち一つあるかどうかだった。時代は変わった)
だがしかし、この1年間を振り返って印象に残ったマンションなどについて書き記すことにする。少しでも今後の商品企画に生かしてほしいと思うからだし、〝コロナなんぞに負けてなるものか〟という反発心がもたげてくるからだ。
◇ ◆ ◇
本題のマンションに触れる前に俎上に上げたいのは、わが業界紙恒例の「重大ニュース」だ。
「住宅新報」12月22日号の「重大ニュース」は次の通りだ。
・国や自治体が家賃補助、地価下落局面に
・営業現場の非対面化が進む
・五輪延期で「HARUMI FLAG」の販売一時休止に
・宅建試験が2回実施に
・東京都心5区、オフィス空室率が上昇
・賃貸住宅管理適正化法が成立
・水害ハザードマップ、重説時に説明義務化
・改正民法施行、老朽マンション対策の法改正成立
・物流施設が活況、需給ひっ迫
・新築マンション需要底堅く、テレワーク対応も
・緊急事態宣言で、住宅営業拠点が休止
「週刊住宅」12月21日号の「重大ニュース」は以下の通り。
・経済低迷、企業業績も急ブレーキ
・インバウンドが消え、五輪も延期に
・在宅ワーク対応の企画商品活発化
・IT重説への注目度高まる
・東京の人口が初めて減少
・経営統合など住宅業界の再編進む
・木造高層ビルの開発が本格化
・業務適正化へ賃貸管理業法が成立
・老朽化マンション対策で改正マンション建替え円滑化法が成立
・ハザードマップの説明が義務化
何が重大でそうでないかは百人百様、十人十色だ。双方で異なるのは当然だ。記者などはむしろIT重説、ハザードマップ説明、宅建試験の2度実施、マンション建替え円滑法改正、賃貸管理業法成立などが双方の重大ニュースに入っているのに違和を覚える。
これは、業界の意向を忖度しているようにも受け取れるのだが、和洋中華、何でもありの雑魚煮かどこを切っても同じ金太郎あめと一緒のようでつまらないし、〝総合的俯瞰的〟な視点が欠落しているような気がしてならない。
皮相的な事象を追うだけでなく深く掘り下げる努力が必要だ。時間軸を横糸に業種・事業を縦軸に整理し解きほぐし、そしてまたその糸を紡げば、後世に残る記事になるのではないかと思う。
例えば、東京都の人口減少。これは明らかに新型コロナの影響だ。とくに小生は中国人を中心とする外国人の都内23区からの脱出に注目している。令和2年10月現在、東京都の外国人居住者は約54万人で、前年同月比約3万人減少している。新宿区の中国人居住者は12月現在、12,754人で、前年同月より16.6%、2.542人も減少している。この人たちはどこに移動したのか、追えばまた面白い結果が得られるのではないか。
「住宅業界再編」も興味深いが、どうしてデベロッパーの再編に触れないのか。三井不動産のTOBによる東京ドームの子会社化はビッグニュースだし、オープンハウスのプレザンスコーポレーションの連結子会社化も見逃せない。来年以降も業界再編は加速するはずだ。
また、新築マンションは「ホテルや商業施設と比べて堅調な市場だった」とする一方で、「『この先、景気悪化で個人が所得に不安を感じるようになれば、住宅取得意欲への影響は大きい』と懸念する声も聞かれる」としている。当たり前だが、その答えをあなたが出してはどうか。ヒントは現場にある。
さらに一言。住宅・不動産業界も変わった。多様化は著しい。悪しき前例主義は捨てるべきだ。金科玉条のように墨守するお仕着せの「重大ニュース」も変化に対応すべきだと思う。「私の重大ニュース」とでもして紹介したほうがはるかにおもしろい記事になるのではないか。
続きは明日以降で。