市民の地域活動や文化活動の拠点として1月16日開園した田園調布せせらぎ公園内の「大田区 田園調布せせらぎ館」を見学した。施設は建築家・隈研吾氏が設計を担当しており、鉄骨造でありながら内外装に自然素材の木をふんだんに用い、雑木林のような公園に面した側は大開口のガラスによって建物の中と外を緩やかにつなぐハイブリッド建築物だ。
施設は、東急多摩川線・東横線・目黒線多摩川駅からすぐ、大田区田園調布一丁目の「田園調布せせらぎ公園」の一角に位置。建物は鉄骨造2階建て延べ床面積約2,433㎡。総工費は約20億7,000万円とメディア(朝日新聞)が伝えた。
大田区立図書館にある資料の予約・受取・返却、レファレンスができる図書サービスコーナーや多目的室、集会室、和室のほか、田園調布せせらぎ公園の自然を感じながらくつろぐことができる休憩スペース、カフェを併設している。
隈氏は施設紹介映像の中でインタビューに答え、「場所は、わたしが子どものころ遊んだところで、国分寺崖線の南端に位置しているのが特徴。建物は、丘陵の地形を感じられる縁側のような気持のいい空間をデザインした。縁側の気持ちのいい日陰の中で本を読んだりおしゃべりしたり、いろんな活動をしたりできるようになればいいなと設計した。カフェは離れ感を出し、より自然と一体化した隠された場所みたいなニュアンスを与えてみた。日本の空間の特徴は、中と外の空間が一体になっているということであり、今回も床、壁から小物にいたるまで景色にあった色合いとかテクスチャーなど自然素材をふんだんに使用した。施設全体は融通無碍に使える、利用者の様々なアイデアに柔軟に対応できるデザインとした。市民と一緒に伸びていってくれることを期待している」などと語っている。
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施設をみてすぐ隈氏が設計した建物であることが分かった。建物は、総延長100m近くありそうな南北軸が長い切妻か差しかね屋根形状で、過剰な装飾を一切排した凛とした気品を漂わせていた。
道路に面した外壁にはアセチル化木材(※)が縦ルーバー状に張られていた。板材は大中小の3種のみだが、板を繋ぎ合わせたり、間隔を変えたり、側を表面に配置したりなどして見る方向によって表情が異なるように工夫されている。隈氏がよく使う手法だ。
※木材のアセチル化とは,木材成分(セルロースやリグニンなど)に含まれている水酸基に,酢酸を化学的に反応させた木材で、耐腐朽性能、寸法安定性、安全性が高いとされている。外壁などの原材料にはパイン材が用いられることが多いようだ。
一方で、公園側の外観は総ガラス張りで、外からは周囲の緑がガラスに映しこまれ、建物の中と外を緩やかにつなぐデザインコンセプトが手に取るように理解される。
内装も床、壁、天井、階段などにオークの突板がふんだんに採用されている。
建物も素晴らしいが、敷地面積約34,664㎡の比高差にして10m以上ありそうなせせらぎ公園もまた手つかずの雑木林のようで、人工的な公園とは一線を画している。
園内には大きな湧水池が2か所あり、サクラ、モミジ、ツバキなどのほか樹齢数百年、幹周り2m以上ありそうなケヤキ、コナラ、シラカシ、ズダジイ、イチョウなどの巨木もたくさん植わっている。
隈氏が設計した「角川武蔵野ミュージアム」がいま話題となっているが、「田園調布せせらぎ館」と「せせらぎ公園」もまた大田区の新しい名所になるのではないか。
公園側から写す