昨年(2020年)の首都圏マンション供給量が激減したことを各紙が報じている。1月25日付の不動産流通研究所のWeb「R.E.port」は「首都圏マンションの新規供給戸数は2万7,228戸(前年比12.8%減)となり、1992年以来となる年間供給戸数3万戸割れとなった」と発信した。翌日、朝日新聞は「20年の発売戸数は、春の緊急事態宣言で販売を一時休止したことが響き、前年比12.8%減の2万7,228戸と、92年以来、28年ぶりに3万戸を下回った」と記事にした。
双方とも不動産経済研究所(以下、不動研)のプレス・リリースをそのままコピペしたものだ。住宅新報も週刊住宅も2月1日発売号で同じような記事を発信するはずだ。(不動研のほかに工場市場研究所、東京カンテイも同様な調査を行っている)
記者は、調査や記事に異論を挟むようなことはしたくないのだが、記事は半分当たっているかもしれないが、コロナ禍で市況が低迷しているかのように印象付けるのは明らかに間違いだと思うし、何よりも一般の人の誤解を招くのではないかと危惧するので、以下に「事実」を記す。
別表とグラフを見ていただきたい。最近5年間の首都圏(一都三県)の分譲マンション着工戸数と、その戸数のうち居住面積が40㎡以下の戸数(非木造)、そして不動研が発表している年間の供給戸数を比較したものだ。
これによると、不動研調べによる昨年の供給戸数は着工戸数の半数しかなく、この5年間の数値もほぼ同様だ。着工時期と供給時期はタイムラグがあるので一致はしないのだが、着工戸数の半分しか供給(成約)できなかったら、間違いなく事業は破綻する。それなのに、悲鳴などは聞こえてこない。
なぜか。業界関係者ならお分かりだろう。不動研の調査対象は専有面積30㎡以下や投資用マンション、1棟売り、非分譲住戸などは含まれないはずだ。一方で、国交省の住宅着工戸数は確認申請の数字をそのままをデータ化したものだ。この溝を埋めない限り正確な分譲マンション市場を把握することはできない。
双方の数値の違いに大きな影響を及ぼしているのが、ここ数年激増している単身・DINKS向けコンパクトマンションや投資家向けマンションだ。これらがいったいどれくらいの戸数に達するのか、どこも把握できていないはずだが、着工戸数と不動研の供給戸数の差からして年間1万数千戸に達するのではないかと推測できる。不動研は投資向けマンションの調査も行っているが、その数は6~7,000戸台だ。これでもまだ着工戸数に届かない。
記者は、このほか賃貸への用途変更、リートへの売却、非分譲住戸(一般には分譲されないが「事業協力者住戸」などとして分譲される)なども数値を狂わしていると思う。「分譲マンション」市場はかつてないほど多様化している表れだ。
この推測が当たっていれば、着工戸数と供給戸数の差は埋められる。それどころか、昨年4~6月はマンション販売の営業活動を自粛し、その後も来場を制限するなどして供給も抑制し、なおかつ価格を上げている(一方で室・設備仕様レベルの低下は甚だしいのに)ことなどを考慮すると、決して〝低迷〟などしていないことがわかる。むしろ逆ではないか。デベロッパー各社の直近の決算発表によると、マンション事業進捗率は信じられないほど好調だ。
メディアには、表層的なデータばかりを見ていたら事実を見誤るといいたい。〝人のふんどし〟(下品でごめんなさい)で相撲を取ってはだめということだ。