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2021/03/03(水) 18:16

価格上昇・専有圧縮 質の低下…マンション市場データは消費者目線欠落していないか

投稿者:  牧田司

 先日、長谷工総合研究所の不動産総合情報誌「CRI(Comprehensive Real-estate Information)」最新号3月号(No.511)が届いた。昨年の首都圏と近畿圏の分譲マンション市場の総括が特集だ。

 記者は、1994年に長谷工総研が設立されてから大変お世話になってきた。同社の研究員と一緒に民間の有料老人ホームなどを取材したこともある。「CRI」は、ページ数は25ページくらいだが上質紙を使用しており、不動産経済研究所のデータをリソースとしながらも独自の視点でマンション市況などをレポートしている。巻末の首都圏と近畿圏のDATAFILEは8ページにも及び、住宅着工動向についても毎月報告している。見城美枝子氏のコラムもいい。マンションを取材するメディア関係者にとって欠かせない情報誌の一つだと思う。

 一方で、3月2日発売の住宅新報3月2日発売号(電子版)の1面は「首都圏新築分譲マンション市場の行方」と題する記事だ。

 こちらは、トータルブレイン・杉原禎之取締役副社長、工業市場研究所・美濃部康之専務取締役、長谷工アーベスト販売企画部門市場調査部・林祐美子部長らのコメントを中心にまとめたものだ。

 トータルブレインは設立時から小生もお世話になっており、杉原氏とは1か月くらい前にお会いし、いろいろ情報交換をした。一昨年暮れに急逝された久光龍彦社長の業務を引き継ぎ、43社を毎日3社のペースで訪ねていると聞き、とてもうれしくなった。美濃部氏とはしばらくお会いしていないが、リーマンショック前までは同社が主催する勉強会「さんもく会」などに出席していたし、長谷工アーベストはマンション販売現場のほかRBA野球大会でも楽しい取材をさせていただいている。

 双方のレポート・記事についてはコメントを差し控えるが、この際だ。情報機関や記者の取材のあり方について以下に書くことにする。調査、取材は何のためか、誰のためかを考え直してほしいからだ。

◇       ◆     ◇

 まず、第一に各調査機関のデータについて。マンション市場については、不動産経済研究所、CRI、東京カンテイ、工業市場研究所(コーケン)などが調査し、毎月レポートを発信している。

 調査対象がそれぞれ異なるのでデータが一致しないのはやむを得なが、最近は住宅着工戸数との乖離が目立つような気がしてならない。

 ここ3年間の住宅着工戸数と不動産経済通信(CRI)、東京カンテイ、コーケンの分譲戸数を比較してみた。

 2018年から2020年までの首都圏マンション着工戸数は168,514戸だ。一方で分譲戸数は不動産経済通信(CRI)が95,598戸、東京カンテイが129,153戸、工業市場研究所が103,495戸だ。不動研の数値が少ないのは、同社は専有面積30㎡以下や投資向け1棟売り、定借物件は調査対象外としているのでこのような乖離が生じるのは納得できる。東京カンテイとコーケンはワンルームマンションなども調査対象としていると思われる。

 それにしても住宅着工戸数との差は3年間で東京カンテイは約4万戸、不動研は7.3万戸の開きがある。住宅着工を100とすれば、捕捉率はそれぞれ76.6%、56.7%だ。着工戸数の半数しか供給されないのに、どうして「堅調」(新報)などと言えるのか。

 〝疑ってかかる〟のは記者の基本だ。いったい捉えきれない残りの戸数はどうしたのか考えるべきだ。記者は、建て替え・再開発物件などの地権者用や事業協力者住戸も年間で数千戸あり、同業・リート・個人投資家向けへの1棟売りも数千戸に上るのではないかと推測しているのだが…これだと限りなく住宅着工の数値に近くなるはずだ。

 いずれにしろ、需要は多様化している。デベロッパーも多様化するニーズに応えるよう開発を行っているはずだ。「分譲マンション」として一括りにするのは正確な市場を把握したことにならないと思う。調査機関はこうした動きに対応できているのか。

 需給の多様化の一例を紹介する。三井不動産の2021年3月期第3四半期決算の分譲セグメントで、オフィス・物流・海外分譲の売上高2,769億円が国内の分譲マンションと分譲戸建ての売上高2,495億円を上回った。住友不動産も前期あたりから〝全国供給量ナンバーワン〟を目指さなくなった。この意味するところを考える必要がある。

 もう一つ、こちらのほうが大事だと思う問題提起。調査機関はマンションの供給戸数、面積、価格、売れ行き、在庫などについては詳報しているが、その質や設備仕様についてはほとんど公表しない。量とともに質も大事にしないといけないのはマンションも同様のはずだ。

 記者は、マンションの質とは基本的には面積だと思っており、ファミリータイプの専有面積が価格を抑制するために縮小されるのは時代が退行するようで残念でならないのだが、単身・DINKSなどの小規模家族向けの需要が増大していることを考慮すると、一概に面積圧縮=質の低下といえない側面もある。それを無視して平均値で示すマクロデータの欠点はここにある。

 各調査機関のデータに欠落しているものはこのほかにもたくさんある。列挙するとレンタブル比率はどうか、リビング天井高はどう推移したか、免震は増えたのか減ったのか、直床の増加をどう見るのか、ワイドスパンはどうか、キッチンのグレードはどうか、フラット・ハイサッシの設置はどうか、バルコニーのスロップシンク、ディスポーザー、食洗器、ミストサウナ、ZEH、UD…書き出したらキリがない。

 これらは分譲価格と不可分のものだが、マクロデータはこれらを拾いきれない。聖路加国際大学大学院看護学研究科教授・中山和弘氏の「か・ち・も・な・い」(書いた人は誰か、違う情報と比べたか、元ネタは何か、何のために書くか、いつの情報か)はマンション市場記事についても当てはまる。消費者目線が欠落したデータはそれこそ「価値もない」と言ったら失礼か。

 

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