全体では小幅の下落にとどまった 住友不動産・仁島浩順社長
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、入国規制や緊急事態宣言下の外出自粛等により、昨年前半は経済が停滞、後半は回復の兆候が見えながらも不安定な状況が続いた。
こうした中、商業地は国内外の来訪客が大幅に減少し、店舗やホテルなどの需要減退により三大都市圏を中心に大きく下落した。
一方、住宅地は在宅勤務などを機に住宅への関心が高まり、希少性の高い都心部や交通利便性に優れた近郊などで需要が堅調に推移し、全体では小幅の下落に留まった。
ハード&ソフト両面で高付加価値化 東急不動産・岡田正志社長
今回の地価公示では、全国の全用途平均は6年ぶりに下落に転じるなど、昨年までの地価の上昇傾向が全国的に広がっていた流れからは大きく変化した。用途別では住宅地は5年ぶりに、商業地は7年ぶりに下落に転じている。用途や地域によって変化の程度には差はあるものの、新型コロナウイルスの影響などで全体的に弱含みになっている。コロナ禍で商業施設や観光施設などが営業自粛や短縮営業をしたほか、消費者の外出自粛の影響による需 要の急減、そして外国人観光客の大幅減少による観光需要の激減が地価にも影響している。一方、「WITH コロナ」が続くなかで、テレワークやワーケーションなどの「新しい働き方」が広がるなどして、新たな需要も生まれている。
住宅地については中心部の希少性の高い立地や、交通利便性等に優れた近郊の地点では地価上昇が継続するなど、根強い需要がある。当社でもテレワークが増加している事実に着目し、共用部に個室型のワークブースを設けた「ブランズタワー所沢」、関西でも仕事場所として在宅ワークにも活用可能な「ユニットスペース」を初めて導入した「ブランズ大阪福島」など独自性の高い物件を展開している。オフィス家具大手のコクヨと連携して在宅勤務用のインテリアオプションの開発を進めるなど、「新しい生活様式」で求められる住まいを検討・導入している。
商業地では来街者の減少による商業施設やホテルの需要減退、そしてコロナ禍や景気の先行き不透明感などから全体的に弱含みで推移している。特に東京・銀座や大阪・心斎橋などの地価下落はインバウンド需要で地価が過熱気味だった場所がコロナ禍による需要喪失で修正されている一時的な現象と捉えており、「AFTERコロナ」の段階でインバウンドは復活し、これらの地域の地価は回復するとみている。また、近年、住宅地や商業地の地価上昇地点の上位に名を連ねている北海道・倶知安町では、当社グループはリゾート関連事業を展開しており、これまでインバウンド効果で地価が上昇を続けていたが、今回のコロナ禍でインバウンド需要が消失しても大きく地価が上昇した地点があった。これは「ニセコ」というこれまで培ってきた高いブランド力が高い評価を受け続けているためとみている。
オフィス関連では在宅勤務の広がりを受け、東京都心の代表的なオフィス街にある地点の地価が下落するなど影響が出ている。一部に「オフィス不要論」などの極端な意見も出ているが、組織全体の一体感を生み出す、社内外のあらゆる人と「コミュニケーションの活性化」ができるオフィスの存在は今後も必要不可欠であると考えている。そうした環境下、当社では緑の力に着目し、緑を効果的に取り入れたオフィスビルを開発・運営する「Green Work Style」を 推進しているほか、東京・竹芝に開発した最先端の都市型スマートビル「東京ポートシティ竹芝」ではリアルタイムデータと最新のデータを活用することなどで新しい都市型ワークスタイルを提案していく。また、このビルに本社を置く ソフトバンクとともに、最先端のテクノロジーを竹芝の街全体で活用するスマートシティのモデルケースの構築に取り組んでいる。また、従来型のオフィスに加え、都心オフィスのフレキシブルな利用を可能とする新サービス「QUICK (クイック)」を導入したほか、都内で展開している会員制シェアオフィス「ビジネスエアポート」の15店舗目を東京・田町に新設するなど、働く人のニーズに合わせた全方位型のワークプレイス提供を可能にし、オフィスの幅広い需要 に対応できるようにした。
当社が本社を置く東京・渋谷については多様な機能を持った街であり、その点を評価してIT関連などの成長企業が集積してきた経緯があり、現状、オフィス需要が極端に縮小するような懸念は抱いていない。2023年度竣工予定の「渋谷駅桜丘口 地区第一種市街地再開発事業」など、渋谷駅周辺を含む「広域渋谷圏」で新たな日常で求められるオフィス空間を提供していく。
今後の不動産市場については、国際情勢などのマクロ要因やコロナ禍の今後の動向などを注視する必要があるが、長期的な視点では市況を悲観的には捉えていない。中長期的には少子高齢化による単身世帯の増加や空き家問題、「働き方改革」によるオフィス環境の変化等、環境の変化が続くなか、ハードだけでなく当社グループの持つ幅広い事業領域を生かしたソフトサービスという付加価値を組み合わせて事業展開を進めていく必要があると考えている。
リアルとデジタル一体化街づくり推進 三菱地所・吉田淳一社長
令和3年地価公示は、全国平均では全用途で6年ぶりに、住宅地で5年ぶりに、商業地は7年ぶりに下落に転じた。国土交通省によれば、新型コロナウイルス感染症の影響等により、全体的に弱含みとなっているが、地価 動向の変化の程度は、用途や地域によって異なるとの見解が示されている。
先般、一都三県の緊急事態宣言が解除された。依然として先行き不透明な状況が続くが、新型コロナウイルス感染症との共存を踏まえながら、経済活動を着実に回復させていく必要がある。
当社グループにおいては、新型コロナウイルス感染症がもたらした本質的な変化を見極め、ポスト・コロナ時代のワークスタイルやライフスタイルに向けたまちづくりを推進していく。フレキシブルなワークスタイルに対応する商 品やサービスの拡充、個人や企業の交流が生むイノベーション・価値創造の追求、プライベートな時間を充実させる多様な目的をまちに用意、安心・安全とウェルビーイング(健康・快適・便利)を両立するサービス・技術の推進など、多様化するニーズに応える新たな価値を提案・提供していく。
また、上記取り組みを加速させる上で、新技術の導入や都市のデータ活用などDX施策を引き続き強化し、スマートシティの実現に向け、リアルとデジタルが一体となったまちづくりを推進していく。加えて、脱炭素などの国際的な課題解決にも積極的に取り組み、サステナブルなまちづくりを通じて、社会に貢献していく。
マーケットインの発想重視 野村不動産・宮嶋誠一社長
今回の地価公示では、全用途平均で6年ぶりに下落に転じた。ただし、変化の傾向・程度は用途や地域によって違いがある。都心部および近郊の交通利便性の高い住宅地や、地方主要都市では引き続き上昇が見られる一方、とくに国内外の来訪客増に支えられ地価が上昇してきた地域や飲食店が集積する地域では、比較的大きな下落が見られる。
住宅市場に関しては、新型コロナウイルス感染症拡大を背景とした雇用・賃金情勢等の先行き不透明感による需要者マインドの低下が懸念されたものの、価値観やニーズの多様化による新たな需要の拡がりもあり、新築・中古ともに堅調に推移している。都心・駅前立地への評価は依然として高く、供給量の少なさもあり価格が維持されているなかで、広さ・間数・環境等を求めてより外側のエリアへの動きも見られ、近郊エリアでも交通利便性・生活利便性に優れる 物件、郊外の戸建も非常に好調である。なお中古については好調に成約が進む一方で、今後に向けては在庫の不足が懸念される。引き続き市場環境を注視していく必要があり、より価値観やニーズの変化・多様化などに対応した商品の提案が求められる。
オフィス市場に関しては、空室率は少しずつ上昇しており、賃料については足元では大きな動きはないものの、コロナ禍による企業業績への影響の検証は継続していく必要がある。働き方の変容が進み、時間と場所を選ばないフレキシ ブルな働き方が可能な多様なオフィスが求められており、こうしたニーズに対応したオフィスの提案およびサービス提供が求められる。商業・ホテル市場に関しては、緊急事態宣言の影響もあり足元では厳しい状況が続くものの体験を伴うコト消費へのニーズは溜まってきており、需要の回復を注視したい。物流市場に関しては、高機能施設へのニーズ拡大継続を背景に、旺盛な投資意欲が継続するものと想定する。
コロナ禍での働き方の変容は、住まい方へも大きな影響を与えており、住む/働くだけではない新しい「住まい方」「働き方」が可能な場・サービスへのニーズが生まれている。社会や人々の価値観の大きな転換点にあって、当社は顧客や市場との対話を重視したマーケットインの発想で、DXを推進しサービスの高度化を図りながら、変わり続ける社会や顧客のニーズを的確に捉えた独創性の高い商品・サービスを生み出すべく、積極的な事業展開を続ける。
地価調査は、不動産の取引動向や中期的な展望を反映したものであり、様々なマクロ指標と合わせて今後も重要指標のひとつとして注視していく。