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2013/05/13(月) 00:00

1時間でリンゴ800個 数時間で10万の売上「こだわり商店」

投稿者:  牧田 司記者

1時間にリンゴ800個、数時間に10万円の農産品が売れる

新宿区西早稲田の「こだわり商店」


安井氏

 近江商人の商法の基本とされる「三方良し(さんぽうよし)」という言葉がある。「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」を満足させるのが肝要という意味だ。この究極の顧客満足ともいうべき商売を実践している新宿区西早稲田の「こだわり商店」店主・安井浩和氏(35)に話を聞く機会があった。

 「こだわり商店」は、早稲田大学に近接した約400の店が加盟する「早稲田大学周辺商店連合会」の一角にある。麻雀屋だった空き店舗を改装した店舗の面積は約7坪。開業は平成19年10月。

 屋号にもあるように、商品の安全性、本物志向に徹底してこだわっているのが特徴だ。狭い店には宮城県南三陸町から栃木県茂木町、東京都桧原村などの産直品から米、野菜、魚、肉、調味料、酒、菓子類まで全国のあらゆる農産物や加工品が並べられている。業種としては食料品販売業と呼ぶのだろうが、いわゆるアンテナショップでもある。

 特徴はそれだけではない。ものを売るだけではなく、環境問題やバリアフリーの街づくり、地域の活性化などにも積極的に取り組んでいることだ。環境問題は15年前から早大と連携して早稲田商店会が取り組んでいるもので、安井氏もメンバーの一人として参加している。ハワイ旅行券をつけたり地域通貨などを発行したりなどして大ヒット。「街中から空き缶やゴミがなくなりました。子どもたちが旅行券や地域通貨ほしさにゴミ箱をあさる光景もみられました」

 バリアフリーの取り組みでは、当時、早大生だった乙武洋匡氏が電動椅子に乗り、いかに街にはバリアが多いかを訴えた。これも話題になった。

 修学旅行生の店頭販売・販売体験の手伝いを行なっているのも社会教育・ 地域貢献活動の一環だ。年間に受け入れる修学旅行生は約20校、約1,000人にのぼる。 商品の並べ方、名札の付け方、接客マナーなど販売のイロハを安井氏は手ほどきする。

 「ここの商店街はそれほど人通りが多いほうではありません。それでも、この前、青森の修学旅行生がリンゴを売ったら1時間で800個売れました。800個? 尋常じゃない数字。大きなスーパーの1日の売り上げと同じぐらいです。何が嬉しいかといえば、全然ものを売る経験などない子どもたちが最初は戸惑い、声も掛けられない状態から残り30分ともなると大騒ぎになる。その笑顔を見るのが嬉しいんです。学校だから利益を出しちゃまずいから、金額は赤十字などに寄付するんですが、社会貢献にもつながるわけです」

 こうした一連の活動がマスコミなどで取り上げられるようになり、いまでは全国から視察団が訪れるようになった。これまで約260団体に達している。

  
店頭販売する度会中学校の生徒

◇     ◆     ◇

 店を始めたきっかけが面白い。「父(潤一郎氏)がスーパーを経営しておりまして、私はその手伝いをしていました。3歳ぐらいのときから手伝わされていました。父は早稲田商店会の会長を務めており、その街づくりの活動から小泉チルドレンに走り、衆議院議員になったとき(平成17年の東京ブロック比例区で当選)、私に跡を継げと言ったのですが、スーパーの将来性なども考えて独立してやろうと決めました」「開業するに当たっては全国20~30カ所を見て回りました。自分で食べておいしいと感じたものしか売らないと決めました」

 栃木県茂木町の100アイテムを販売したのを皮切りに現在では32都道府県1,200アイテムに増えている。「全て産地直送。90%が無添加です。私が納得するものしか売らないので、食べてばかり。ウエストはこれごらんの通り」と大きな腹を抱えて笑う。


店頭に掲げられたPR看板

◇     ◆     ◇

 記者が安井氏と出会ったきっかけは次の通りだ。

 三菱地所が協力企業となっていた農水省のキックオフイベント「ジャパンフードフェスタ 2012」を昨年11月に取材したとき、わが故郷の三重県度会(わたらい)町が「度会茶」と「鹿のコロッケ」の販売をしており、そのとき町役場の方と話しをした。

 その町役場の方から「度会中学校の就学旅行で町の特産品の販売体験を早稲田の『こだわり商店』で行なうので取材してほしい」との連絡を受けた。

 正直、〝不動産に全然関係ない修学旅行生を取材して記事など書けない〟と思ったが、安井氏から話しを聞くうちに〝これは地域の活性化、環境問題、バリアフリーの視点から面白い記事になる〟と考え記事にした。 

 安井氏によると、「度会中学校さんはネットで当店のことを見つけてくれて来られました」とのことで、当日の模様は安井氏がブログで次のように書いている。

 「お陰様で、無事に事故もなく度会中学校の修学旅行地元産品PR販売が終了しました!過去最高売上の108,300円を記録しました!!最後に大隈講堂で売上発表してお決まりの一本締め!生徒代表から御礼の言葉を頂きました。『ビラ配りから販売に入り、売れなくても皆で頑張ろうと声を掛け合った結果、全ての椎茸を売り切ることが出来たのは本当に嬉しかったです』 この言葉を目をキラキラしながら皆の前で言ってくれたんです。今まで頂いた言葉の中で一番嬉しかった。販売始めの時間帯はやらされてる感があったのに帰り際にはこう変わるんです。もう見ていてゾクゾクするくらい気持ちのよい瞬間です」


販売風景

幟や看板で宣伝告知もする生徒

◇     ◆     ◇

 度会中学校の修学旅行生は3年生の82人。その生徒が3時間半ぐらいの間にしいたけ、お茶、あられなど金額にして10万円以上を売ったと地元の人が聞いたら仰天するのではないか。度会町は伊勢市に隣接した人口約8,500人の町。鎌倉時代、伊勢神宮の神官、度会氏が唱えたとされる「度会神道(伊勢神道)」発祥の地とされている。

 冒頭に近江商人の「三方良し」を取り上げたが、「近江泥棒、伊勢乞食」という言葉がある。これは県民性を示す言葉で、窮したときに取る行動を対比したものだと言われているが、そうではなくて高飛車な態度を取る近江商人と、手すり足すり低姿勢で臨む伊勢商人の商法の違いを意味する言葉だと記者は考える。数時間で過去最高の10万円の売り上げを達成できたのも「伊勢商法」のお蔭かもしれない。


全国から寄せられた感謝の手紙類

法被を着て宣伝する生徒


生徒と一緒に記念写真に納まる安井氏

 

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