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2021/04/13(火) 15:30

素晴らしい! 448㎡の木造コミュニティ施設完成 築50年696戸の洋光台南第一住宅

投稿者:  牧田司

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完成した洋光台南第一住宅管理組合管理事務棟

 築50年の全39棟696戸の中層マンションからなる洋光台南第一住宅管理組合は4月12日、管理事務棟開所式を行った。耐震性に問題のある40mを超える給水塔・集会所を取り壊し、新たに約448㎡の木造コミュニティ施設としたもので、この日は建築に関わった関係者同士で話し合い、その模様をメディアにも公開した。

 施設は、JR根岸線洋光台駅から徒歩3分(団地入口)、横浜市磯子区洋光台5丁目に位置する一団地敷地面積約81,561㎡に位置する建築面積約538㎡、地上1階建て延床面積約444㎡。最高高さは6.5m、木造45分準耐火構造。設計監理はスタジオ・クハラ・ヤギ+ team Timberize。施工はナイス。工事期間は2020年9月~2021年3月。総工費は解体費用を含め約6.5億円。

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関係者で記念写真

◇      ◆     ◇

 事前準備がいかに大事であるかを思い知らされた取材であった。

 この施設については昨年12月15日、木と住まい研究協会が主催(共催:スタジオ・クハラ・ヤギ、NPO法人team Timberize、ナイス)して工事中の構造見学会を行っている。記者は、新型コロナが猛威を振るっているときでもあり取材を見送った。

 そして今回の4月12日は、東京都にまん延防止等重点措置が取られた初日。出掛けるとき「小池さんが東京から出ないでと言っているわよ」などとかみさんから嫌みな一発を喰らい、1時間30分も掛けて見学取材した。

 現地に着き、建物の素晴らしさはすぐ理解できた。ところが、配布された資料は式次第のみで、施設の概要、経緯などは全然記載されていなかった。

 管理組合の方の司会に始まり、コンサル会社の都市環境研究所(2人)-給水塔の解体を担当したトライテック-施設設計者のスタジオ・クハラ・ヤギ-施工担当のナイス(3人)-施設を管理する神奈川保健事業者-団地を管理する日本総合住生活(2人)-居住者代表の村瀬安弘氏-管理組合理事長・古山伸一氏がリレー方式で1時間近くにわたりそれぞれコメントした。総計13人だ。

 予備知識が全くなく、難聴がひどくなり、マスク越しも加わってよく聞こえず、プロジェクターに映し出される文字もろくに読めない記者は面食らった。必死にメモを取った。

 全部は紹介しきれないが、発言者順に要点だけを以下に紹介する。間違っていたらごめんなさいと謝るほかない。

 都市環境研究所は、横浜市の団地再生事業により2016年から同団地の再生事業に関わってきた。最初にマイク(バトン)を握った同研究所・大野整氏は「(とてもそんなには見えなかったが)わたしはリレーのアンカーだった」と笑わし、「4街区全体のリビングのような楽しい空間が完成した。管理組合、自治会がぶれずにワンチームになれたのが成功の秘訣。次の50年先の素敵な場所になるようこれからもサポートしていく」と、また同所・實方理佐氏は「サンドベージュの壁と木の壁による明るい空間が誕生した。胸がわくわくしている」とそれぞれ語った。

 トライテック・加藤琢磨氏は「給水塔は高さが40m以上あり、基礎部分も広範囲に及んでおり工事は難航したが、安全・安心を最優先しスピーディに工事を完了することができた」と話した。

 スタジオ・クハラ・ヤギ代表取締役・久原裕氏は「施設はわたしの娘、分身のようなもの。施設引き渡しは嫁にやるようなもの。それまではスリッパだったのに、引き渡し時はみんな土足で上がったのに複雑な思いがした」と、記者をどきりとさせるフレーズでもって切り出し、「自由な使い方ができる、ここにしかない外観も内観も理にかなった唯一無二の木造準耐火建築物になったはず。しかし、全体を100とすれば建物の完成は30から40%。余白を残すように設計した。これからみなさんで使いこなし育てていただきたい」と述べた。

 ナイスのプロジェクトリーダー・遠藤雅宏氏は「わたしの誕生日は団地の入居が始まった昭和46年3月30日のちょうど1年前の昭和45年の1月15日。無事に工事が完了し、感謝、感謝」などと感謝を連発し、横浜市が推進する公共建築物の木質化を先導する事業であることも強調した。

 同社の営業担当・会田利知氏は「700世帯の熱い思いが込められている。表も裏も外も内も木。誇りに思っている」と喜びを表した。

 さらに同社の工事担当・平田裕治氏は「(設計の)高いハードルを越えようと燃えた。コロナ禍でも問題なく工事は完了した。小さい女の子が建物を見て〝やばい〟と歓声を上げた。新しい息吹が吹き込まれた」と作業着姿で語った。

 マンションを管理する日本総合住生活・高階徹氏と中村陽人氏は、この種の先進的な管理事務所は他に例がなく気が引き締まる思いがするなどと話した。

 昭和64年の入居開始時から住んでいる90歳の村瀬氏は「入居開始の2年目から組合役員をやっており、通算25年間役員をやってきた。従前の集会所は使いづらく、自治会館をつるのが夢だった。やっと住民の力が結実した」と感慨深げに語った。

 管理組合理事長の古山氏は「素敵な素晴らしい建物が完成した。3つのグループに感謝したい。一つは組合員、二つ目は理事の皆さん、三つ目はこれから先のすべての関係者」と締めくくった。

 同団地の規約では、理事長は立候補方式をとっており、任期は8年。73歳の古山氏は今年6月の総会で8年務めた理事長の職を退く。

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内観

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内観(サッシは木製)

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開所式

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 開所式を取材せず、プレスリリースを引き写すだけだったら高々444㎡の木造準耐火建築物ではないかとやり過ごしたかもしれないが、必死で取材した結果、切り口によってはいかようにも仕上げられる素晴らしいプロジェクトであることが分かった。

 一つひとつ紹介はしないが、例えば合意形成。築50年の696戸もある組合員をよくぞ結集させたものだ。案件は過半数でいい普通決議ではなく4分の3以上の賛成が必要な特別決議だが、2018年2月18日に行われた臨時総会では反対者は9人/696人(賛成率98.7%)しかいなかったそうだ。理事長(理事もか)が立候補方式というのも面白い。

 住宅の質も高い。記者が観た範囲では全て5階建てでエレベーターはなかったが、古山氏によると専有面積はもっとも多いのが南面3室の78㎡で、次が66㎡、それと60㎡だという。駅から3分で南面3室は価値がある。URは50年も前にこんな住宅を建設した。この価値に欠けていたコミュニティを創出したのは大きな意味を持つ。

 建物そのものも素晴らしい。木と住まい研究協会が作成したA3で4枚にわたる資料を見たが、出入り口は9か所もある。延べ床面積が444㎡の平屋建て集会所などどこにもないはずだ。フリースペースが中心なので、どのような使い方も可能だ。

 ギザギザの連続折れ屋根とやわらかな木の浮き屋根を組み合わせたデザインも面白く、かつ、屋根形状はルームの天井高(最大6m超)にもなっており、各ルームはつながっているようにも区切られているようにも見える。

 ベイマツの太い構造通し柱や、国産材のヒノキの燃えしろ設計による集成材柱、多摩産材のスギの羽目板も美しい。久原氏は「山小屋のような全て木にはしたくなかった」と語ったように、左官や塗装の外壁(サイディング下地)を組み合わせた外観も斬新だ。

 このほか、床を二重構造にし、二重床内に設置された空気式フィルムダクトシステムを通じて床から温風・ 冷風を送風する空調方式を採用しているのもいい。

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洋光台南第一住宅

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洋光台南第一住宅

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コロナのリスクは全くなく、喫煙も可能な隣接公園での記者の昼食(近くのスーパーで買ったおにぎり1個、神奈川県産のトマト、缶ビールで合計650円くらい)
 

 

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