以下の記事は、漸減傾向にあるとはいえ毎年全国で10万戸以上(2020年は107,884戸)が着工され、市場規模は数兆円に上る分譲マンション事業に携わり、商品企画の向上に奮闘されている関係者への記者なりのエールであり、マンション購入を検討する消費者の利益を最優先して考えるからこそであって、まったく他意はないことを最初に断っておく。〝ほっとけば〟というもう一人の自分がいるが、これは看過できない。
5月24日付「週刊住宅」は、住宅評論家・櫻井幸雄氏の寄稿として「顧客嗜好に機敏な対応 購入マインドに異変? 収入安定層の買い一巡か」の見出し記事を紹介している。全体で約3,200字だから、紙面にして1ページの長さだ。
消費者の購入マインドに異変が起きているのか、収入安定層の買いが一巡したかどうか、記者は分からない。マンション現場の方はよくご存じだろう。
看過できないのは、櫻井氏が「低価格を魅力とする好例に、三井不動産レジデンシャルの『パークホームズ千葉』がある」とし、次のように書いている部分だ。
「価格を抑えるため、床暖房など設備の一部が省かれ、またオプション設定になっているものがある。といっても、床暖房は人によって使わないことがある。使う場合も、エアコンと併用するのが普通。だったらエアコンだけでもよい、という割り切りである。
一方で、『パークホームズ千葉』の室内は天井高が2メートル50センチ(以下2500ミリ)もあり、バルコニーの奥行が2メートル(同2000ミリ)で居住性能は高い。遮音対策にも力が入れられ、線路側を中心に多くの窓を二重サッシとなっている」
読者の皆さんは、この記事をどう読まれたか。記者は、床暖房が付いていないことについてはコメントを差し控える。千葉県はもともと価格(単価)相場が低く、グロス指向の強いエリアだ。総武線や京葉線沿線では大量のマンションが供給されている激戦地の一つだ。床暖房を設置しないことで価格を抑制する戦略は理解できないわけではない。
しかし、「室内は天井高が…」の記述は我慢がならない。「室内」というのはリビングや居室のことを指すのだろうが、数値が高いことを示す数助詞の「も」を付けたのは事実に反する。
記者が最近見学した他の〝パークホームズ〟と比較してみよう。「昭島中神」は2500ミリ、「調布 ザ レジデンス」は2500~2550ミリ、「柏タワーレジデンス」は2450ミリ、「LaLa南船橋ステーションプレミア」は2500~2550ミリだった。
同業他社のマンションはどうか。大和地所レジデンスの〝ヴェレーナ〟の「赤羽北フロント」は2400~3050ミリ、「西新井」は2450~2600ミリ、フージャースコーポレーション「デュオヒルズつくばセンチュリー」は2500~2600ミリ、ポラス「ルピアグランデ浦和美園」は2500ミリ、大和ハウス工業「プレミスト船橋塚田」は2450ミリだった。
きりがないのでこの辺りでやめるが、以上紹介したように2500ミリは低くはないが、高くもない。櫻井氏ともあろうものが「並」でしかないものを「上」か「松」扱いするのはいかがなものか。
バルコニーの奥行きも同様だ。一般的には1800ミリだが、2000ミリ以上も結構ある。床暖房が付いておらず、基本的な広さ、他の設備仕様、間口などについて言及せず、バルコニーの奥行きだけをもって居住性が「高い」などとどうしていえるのか。
櫻井氏はさらに「遮音対策にも力を入れている」と線路側に「二重サッシ」を採用しているのを評価するが、線路・道路端のマンションに二重サッシを採用するのは業界の常識だ。同社だけが「力を入れている」わけではない。
記者が当事者だったら、これらは最大の皮肉と受け取る。〝贔屓の引き倒し〟とはこのような記事のことを言うのではないか。
このような不実をそのまま掲載する週刊住宅の編集チェック体制に問題がありそうだし、櫻井氏を〝住宅評論の第一人者〟として崇めるメディアや、この種の論評を広告塔として利用するマンション業界にも問題はないとは言えない。消費者が賢明な選択をしてくれることを願うほかない。
参考までに。リビング天井高も二重サッシもその他設備仕様もすべては相対的なもので、その時々の市場動向にも左右されるし、販売戦略によっても異なってくる。絶対的な数値などというものは存在しない。
階高でいえば、記者が「特上」評価したのは、三井不動産レジデンシャルが10年前に分譲した「パークコート六本木ヒルトップ」だ。標準階の階高は3400~3450ミリ、最上階は4150ミリだったのにびっくりした。天井高は廊下やキッチンでも最低2340ミリあり、最上階は3000ミリだった。
櫻井氏は、高仕様・高規格の事例として日本エスコン「レ・ジェイド浦和」を取り上げているが、この前見学した同社の「レ・ジェイドつくばStation Front」は確かにレベルが高かった。