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2021/07/14(水) 14:21

全国121万人の看護師の万感の思いここに 「ナースたちの現場レポート」を読んで

投稿者:  牧田司

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 書評家・東えりか氏が朝日新聞で紹介しなかったら読まなかったはずの日本看護協会出版会編集部編「新型コロナウイルス ナースたちの現場レポート」(A5版/756ページ、税込み定価:2,860円)を小生も読んだ。

 同書「はじめに」は、「2020年1月の中国・武漢への自衛隊の災害派遣から、第3波が来る12月までの約1年間にわたる、医療・ケア現場の様子と日々の暮らしを綴ったレポート。医療従事者としての使命感、未知のウイルスへの恐怖心、差別・偏見に対する怒りや悲しみ、大切な人への思いなど、看護職であり生活者でもある1人の『人』としての姿を垣間見られる貴重な記録」とあり、執筆者は162人、756ページに上ると記されている。

 それぞれ執筆者の文量は少ないもので2ページくらい、多いものでも10ページくらいの完結型なので、小説と違ってどこから読んでもよく理解できるのが特徴で、これまで報じられてきた医療現場の映像とはまた違った説得力がある。

 小生は比較的冷静に読めたのだが、同編集部に寄せられている読者の感想文に衝撃を受けた。「表紙を見るだけで、涙がでます」とあるではないか。小生も、滂沱の涙と鼻水でハンカチをべとべとになるまで濡らし、電車に乗っているのが恥ずかしくて途中下車した小説はたくさんあるが、表紙を見るだけで涙がでる書物に出会ったことは一度もない。

 読後感想文には「この本は、国民全員が読むべき!」ともある。ぽっぺたをひっぱたかれたような気になった。

 多分この読者の方も当事者で、この書籍には全国121万人といわれる看護師の皆さんの万感の思いが込められているのだろう。

 以下長くなるが、同編集部の了解も得られたので、生々しい現場レポートを引用する。(順不同、敬称略)

 「納体袋に収納するまで、個人防護服の交換と遺体周辺の清拭消毒を三度繰り返すため、1時間半程度要する。…家族は『ああ、袋に入っている』『顔が見える』とお別れの数分間を過ごされる。業者が棺の蓋をテープで密閉すると、もう顔を見ることができない。この数分間の顔を見せることが非常に大事な看取りのケアだと考える」(佐藤奈津子)

 「いざ病棟内に入ると、思っていた何倍も何十倍も状況は悪かった。患者数は1病棟40人ほどいたが、3分の2は陽性患者であり、それを看護師2人で看ていた。看護師もまた、約半数が陽性となって休んでいたのだ」「火葬場に向かう際も、病院内で棺へ移すのだが、袋ごと棺に入れ、蓋を閉めた後にテープでぐるぐる巻きに固定し、消毒スプレーをびしょびしょになるまで噴霧する。…人生の最期に、全身防護服で顔もよく見えない人間に囲まれ、テープでぐるぐる巻きにされるなんて、本人は生前思いもしなかっただろうなと思うと、いたたまれない気持ちになった。看取る際もマスクを外すことも許されず、即時病院のドアを閉めなくてはならないこの状況を呪った。なぜ、こんなことになってしまったのかと毎日思った。病棟に戻り、こっそり一人で泣いた」(中島ひとみ)

 「病棟看護師の残業は増え、病院の方針に恨みが募るくらい皆、疲弊していた。『自分は所詮使い捨ての看護師なのだ…』何度も思った」(むつき つゆこ=仮名)

 「コロナウイルスの由来となった『太陽コロナ』が日食で陰った太陽の暗闇周辺を明るく輝かせているように、看護師の働く姿は本当に美しく輝き、笑顔は患者さんの希望の光になっている。2020年は人類の歴史に残る年になる。私たちが今、まさに実践している看護こそが、歴史として後世に語り継がれるのである」(山田眞佐美)

 「疲れ切って、ベッドに入ってもなかなか寝つけない。薄闇に天井を見やると、涙が自然にあふれてくる。こんな日がもう3日ぐらい続いている。悔い無き人生を締めくくるべく、穏やかにがんばろうと決めた矢先だというのに…」(深井喜代子)

 「『濃厚接触』を『濃厚な接吻』と思い込んでいた夫は、その意味を知ると、思わず笑いだした私に、理解できる説明がなかったことを真剣に怒った。専門用語を翻訳し、生活の知恵や工夫につなげることができるレベルにすることこそ、看護職が力を発揮しなければならないことだ」(吉田千文)

 「保健所はこの30年間で半減してしまった。多くの都道府県で職員採用も抑制したため、保健所保健師は全国的に30代後半から40年代前半の中堅層が薄い」(村嶋幸代)

 「『何かあったら、あなたが責任をとってくれるんですか』と返され…問答となってしまい、終わりが見えなかった。なかには1時間近くこのようなやり取りが続いたこともあった。…次第に私は、この業務が相談者の役に立っているのか疑問に感じるようになった。電話は途切れることなく鳴り続けていた。1つの相談が終わり受話器を置くと、息つく暇もなく眼前の電話が鳴る。数をこなし、たらい回しを続けているだけの機械のように思えてくる」(坂井志織)

 「(電話相談は)1週間に1~2回順番が回ってきたが、連続36時間対応することもあった。事情があって事実を話したくない方などの調査に2時間以上要することもあった」(東口三容子)

 「(積極的疫学調査は)感染症対策として最も重要だ。濃厚接触者と感染源の特定とハイリスク者の追跡により、感染拡大を最小限に抑えることになる。…(患者発生の)公表は、住民の感染予防の注意喚起が目的だが、個人や店舗を特定し攻撃するようなクレーム、SNSへの投稿、噂の流布など、患者の人権に配慮のない言動は後を絶たない」(竹林千佳)

 「本書を読み進めていくと、想像を絶する困難な中でも看護職の強い使命感に支えられた行動力に感謝と敬意の気持ちが膨らむばかりでした。初期の頃は重症化した患者さんは家族にも会えず、亡くなった後でさえ遺骨になってからの対面という現実に、残された家族の切なさ、看取った看護師が感じた憤りや悲しさ、申し訳なさをひしひしと実感し、涙せずにはいられませんでした。つらく理不尽な現実も含めて、新型コロナに看護職がどう立ち向かったのか、貴重な歴史書となり得る本だと思っています」(髙橋則子=読者)

◇       ◆     ◇

 皆さん、いかがか。小生は常磐大学特任教授・吉田千文氏の「『濃厚接触』を『濃厚な接吻』と思い込んでいた夫は、その意味を知ると、思わず笑いだした私に、理解できる説明がなかったことを真剣に怒った」に仲良し夫婦を思い浮かべたのだが、吉田氏のご主人の思い込みに同感だ。

 小生はこの1年5カ月、徹底してコロナから逃げている。外食をやめたのは自分の判断で、かみさんに濃厚接触を拒否されたのは自業自得・自己責任だが、東京都の多くの区市は公園での飲食・飲酒を禁止し、公衆喫煙所なども閉鎖した。「経路不明者の大半は飲食関係」などとする専門家の知見とやらを唯一の根拠に、再三再四の緊急事態宣言で国は飲食店などでの酒の提供自粛を求めた(ほとんど強制)。

 どなたか執筆者の方は医療現場を「まるで戦場のよう」と形容されていたが、飲酒・喫煙を禁止するのはヒットラーと同じだ。暴動どころか、こぶしすら上げられない情けない世の中になってしまった。

 ここまで辛抱強く読んでいただいた皆さんに感謝する。が、しかし、小生の言いたいことはこれからだ。あとは明日以降。

 

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