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2022/02/10(木) 13:05

プリンスホテル売却へ 30か所で1500億円は安すぎないか/西武は分譲に力入れて

投稿者:  牧田司

 西武ホールディングスが保有する国内のプリンスホテル約30施設を売却するとメディア各紙が報じている。例えば2月5日付朝日新聞。同紙は「東京都港区の『ザ・プリンス パークタワー東京』、『札幌プリンスホテル』(札幌市)、『グランドプリンスホテル広島』(広島市)など30施設」を「シンガポール政府系の投資ファンド『GIC』に売却する方向で検討していることがわかった」と報じた。

 これら一連の報道に対して西武HDは2月7日、「現時点で決定した事実はございません」とコメントを発表した。

 各紙の報道と西武HDのコメントから判断して売却の方向で検討しているのは事実のようだ。具体的な金額や施設名が報じられているのは、どこかがリークしたのだろう。

 この報道に、60余年、西武ライオンズをずっと応援し、西武不動産などを取材してきた記者は相当のショックを受けている。昨季、西武ライオンズは42年ぶりに最下位に転落し、先に西武建設の売却が決定されたばかりだ(セブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武も売却する方向で検討されているとの報道はさておく)。

 「西武」「プリンス」ブランドはどうなるのか、そんなに深刻なのか。調べてみた。確かに業績は最悪だ。

 プリンスホテルの2021年3月期の売上高は699億円、営業損失は429億円、純損失は606億円だ。収益を悪化させているのは固定費の負担だ。営業費用1,129億円のうち人件費は34.3%に当たる387億円で、水道光熱費58億円、清掃・洗濯費45億円、借地借家料55億円のほかに「その他」が333億円に上っている。コロナ前の2019年3月期の売上高2,031億円、営業利益231億円(営業費用は1,790億円)、純利益146億円と比較して、売上高が66%減なのに、営業費用は37%しか減っていない。「所有」と「運営」一体型の事業形態がコロナの直撃を受けたことがよく分かる。

 西武HDは昨年5月に「総合報告書2021」を発表し、その中で代表取締役社長・後藤高志氏は「社長メッセージ」として次のように述べている。

 「従来、プリンスホテルは、『保有』と『運営』の一体構造で売上や利益を取り込むビジネスモデルで展開し、稼働率も高く収益をもたらしていました。しかし、コロナ禍で需要が瞬間蒸発したため、資産を保有することで生じる固定費の負担が重石となりました」とし、今後は「ホテル業では、一部資産を売却・流動化し、保有を継続するホテル資産は不動産事業へ移管します。これにより、プリンスホテルはホテルオペレーターとして、西武プロパティーズはアセットホルダーとして開発を進めるなど役割を明確にして、『攻め』を意識した体制のもとで事業を展開していきます」

 後藤社長がいうように「保有」と「運営」一体型のホテル事業はコロナの直撃を受けた。外資系ホテルはみんなそうであるように、分離するのが時代の流れのようだ。

 それにしても国内の全49施設のうち30か所も売却し、その額が1,500億円というのは安すぎないか。1か所平均で50億円だ。売却後も運営は当分「プリンス」として継続するというから、従業員の雇用も確保するという条件付きなのが売却価格を押し下げているのか。あと1年、2年辛抱すれば需要は回復するような気がするのだが…。

 ともあれ、西武ファンとしては残される「シティ」と呼ばれる都心部のホテルのイノベーションに期待したい。いかに都心の「プリンス」の価値が高いかを紹介する。

 西武HDの発表資料によると、グループが所有する東京23区の不動産は約46万㎡(大手デベロッパーを上回る規模=西武HD資料)にも達する。その大半は品川・高輪・芝のホテルだ。

 具体的に紹介すると、「ザ・プリンス さくらタワー東京」「グランドプリンスホテル高輪」「グランドプリンスホテル新高輪」の合計敷地面積は約8.8haで、「品川プリンスホテル」は約4.0haだ。合計で約12.8ha。これは8.5haの「六本木ヒルズ」や6.8haの「東京ミッドタウン六本木」を超える。これに、東京タワーや増上寺に隣接する約5.0haの「東京プリンスホテル」、芝公園内の約3.8haの「ザ・プリンスパークタワー東京」、約3.0haの「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」を合わせると約24.6haにもなる。

 これら7つのホテルの土地を時価評価したらいくらになるか。公示地価を参考に推測すると坪2,000万円として約1.5兆円だ。しかし、立地条件や規模かかして実際に入札されたらはるかに高い値段が付くはずだ。

 品川・高輪の再開発計画は決まっていないが、リニア新幹線、高輪ゲートウェイの開発とともに脚光を浴びることになる。「プリンス」には世間をあっと言わせる新機軸を打ち出してほしい。

 ただ、西武HDが中期経営計画で掲げるアフターコロナ後の「最良、最強の生活応援企業グループへ」のスローガンには一言いいたい。

 「最良、最強の生活応援企業グループ」の中核をなすのはもちろん鉄道事業だが、もう一つの柱である不動産事業を担う西武プロパティーズを「総合不動産会社」(後藤社長)と称するのには疑問を呈さざるを得ない。

 2021年3月期の西武HDの不動産事業は売上高553億円で、営業利益は154億円だ。不動産事業を担う西武プロパティーズの主な事業は商業施設やオフィスの賃貸業だから、これくらいの利益を確保するのは当然だ。むしろ23区に46万㎡の不動産(鉄道路線は入っていないはずだ)を所有する会社にしては事業規模が小さすぎる。土地の有効活用ができていないということになる。

 肝心の開発力も縮小する一方だ。西武プロパティーズはもう10年くらい前から目立った分譲マンション・戸建て事業を行っていない。JVマンションはあるが、みんな〝ぶら下がり〟だ。西武線沿線はデベロッパーの分譲事業の〝草刈り場〟になっている。情けない。堂々とトップシェアを占めてほしい。

 同業他社はどうか。売上高・利益とも桁違いの東急や近鉄はともかく、売上高は小田急、阪急阪神、相模鉄道、西鉄などに負けているのではないか。売上高は西武より少ない京急や東武もコンスタントにマンションを分譲している。不動産事業は微々たるものしかない京王も、「稼ぐ力」を強化するため、タカラレーベンが保有していたサンウッドの株式を取得した。リビタとともに不動産事業の拡大を打ち出している。

 分譲事業はリスクも大きく、同業他社と足並みを揃える必要はないかもしれないが、「最良、最強の生活応援企業」を消費者に印象づけるのは分譲住宅だ。住民の足になっているのだから親しみもあり、大手デベロッパーとも互角以上戦える強みもある。まず差し当たって老朽化が目立ち、施設の陳腐化も目立つ「新宿プリンス・新宿PePe-ペペ」「BIGBOX高田馬場」の建て替えを提案したい。マンションなら坪600万円以上になるはずだし、何よりも「西武」のイメージを一新できる。

 書き忘れた。わが埼玉西武ライオンズの2022年3月期第3四半期の売上高は189億円(前年同期比46.1%増)、営業損失は4億円(前年同期の営業損失は40億円)と改善した。

 北京オリンピック女子アイスホッケーチーム〝スマイルジャパン〟は予選1次リーグを1位で突破したが、全23選手のうち8人が「SEIBUプリンセスラビッツ」所属だと西武関係者から聞いた。次戦の準々決勝戦は強豪のフィンランドだそうだが、がんばれ!スマイルジャパン! 

ショック 分譲戸建ての施工・デザインが最高の西武建設の身売り(2022/1/28)

 

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