RBA OFFICIAL
 
2022/05/26(木) 11:45

消化不良なのが残念だが素晴らしい農園 三菱地所「大手町ビル」リノベ完成見学会

投稿者:  牧田司

01_東西で異なるビル外観(東側).jpg
東西で異なるビル外観(東側)

 三菱地所は5月24日、1958年(昭和33年)竣工のオフィスビル「大手町ビル」の大規模リノベーション工事が完了したことに伴うメディア向け内覧会を行った。工事は2018年5月にスタート、2022年5月に完成。テナントが入居したままのこれほど大規模なリノベーションは珍しいという。

 物件は、東京メトロ丸ノ内線・千代田線・半蔵門線・東西線、都営三田線大手町駅直結の建ぺい率80%(実質100%)、容積率1300%の千代田区大手町1丁目に位置する敷地面積約10,496㎡(200m×50m)、地下3階・地上9階建て延べ床面積約111,272㎡。設計・ 監理は三菱地所、施工は大成建設。着工は1956年5月、竣工は1958年4月。リノベーション設計・監理は三菱地所設計、内装改修建築設計はメック・デザイン・インターナショナル。建築施工は大成建設。

 外装デザインは、日比谷通り、丸の内仲通り、大名小路の象徴的な通りとの親和性を重視し、外壁素材や窓ガラスなどの機能を更新したほか、ビルを東・西・中央に分節。外壁材にはGRCを採用するなど管理コストの低減、窓ガラスはLow-Eガラスにするなど約44%の熱負荷削減を図っている。

 約4,000㎡の屋上には、植栽を施したワークスペースや約658㎡の都内最大級の農園スペースを整備。AI画像分析を通じて野菜の生育環境を計ることができる世界初の機器を備えている。竣工時から屋上に安置されていた「大手町観世音菩薩像(大手町観音)」は、従前は年に1回御開帳の日を設けていたが、リノベーションを機に一般の来館者も参拝できるように整備した。

 7階には、就業者やエリアワーカー向けの共用ラウンジ・テラスを開設。ラウンジ(136席)はビル就業者が利用できるほか、一部ゾーンはエリアワーカーも利用可能。

 また、ビルの東側を「LABゾーン」とし、多様な企業が集積、様々な人・企業が交流する拠点を創出。大規模フロアプレートでありながらも小割貸付に適したフロア形状の優位性を活かし、スタートアップ企業や大企業の新規事業開発部門など様々な企業が集積できる環境を整備した。

 建て替えでなく新たな建築確認申請が必要でないリノベーションを選択したのは、様々なテナントニーズに対応するとともに、既存ストックの活用という社会的な要請にも応え、同社が「丸の内NEXT ステージ」で掲げる“人・企業が集まり交わることで新たな「価値」を生み出す舞台”を具現化したためとしている。

02_東西で異なるビル外観(西側).jpg
東西で異なるビル外観(西側)

03_仲通り機能を建物内外から整備・演出した南北通路(1階).jpg
仲通り機能を建物内外から整備・演出した南北通路(1階)

05_新たに整備したワークスペース(屋上).jpg
新たに整備したワークスペース(屋上)

07_新たに整備した屋上農園.jpg
新たに整備した屋上農園

09_共用ラウンジ(7階北側).jpg
共用ラウンジ(7階北側)

1階ELVホール前の柱.jpg
1階ELVホール前の柱

◇        ◆     ◇

 上段はほとんどリリースのコピペ。内覧会では1時間以上にわたり7~8か所を見学した。一つひとつ具体的に紹介したいのだが、その余裕がないのが残念だ。1か所当たり10分もなく、消化不良だったからだ。見学時間は倍あってもよかった。それほど見どころの多いリノベ工事だと思う。以下は興味深かったことを紹介する。

 まず、大手町ビルについて。敷地面積は丸ビルや新丸ビルとほぼ同じだが、丸ビル、新丸ビルは100m×100mのほぼ整形なのに対し、大手町ビルは200m×50mの長方形であるのが大きな違いだ。

 そして、もっとも異なるのがその歴史だ。記者は30年くらい前まで、仕事の関係でこのビルの飲食フロアを1週間に1度くらい利用した。使用されている仕上げ材は歴史を感じさせるものばかりだ。例えば人造大理石のテラゾー、文様が美しいトラバーチン、アール状の壁、化石が含まれる直径数十センチはありそうな構造柱などだ。今回の工事でもこれらがいたるところに残されている。

 驚いたのは耐震性だ。現行基準とほぼ同等の性能を有しているという。昭和30年前半の建物でも、現行法基準を満たしている。これは凄い。当時の数百枚にのぼる設計図書を見た関係者は「感動した」と語った。

 気になったのは、建物は敷地いっぱいに建てられているので歩行者空間が狭いことだ。ビルの道路を挟んで南側に建っている大手町タワーや大手町スクエアは公開空地が確保され、区道も整備されているのに、幅員1メートルくらいしかない大手町ビル側の歩道は未整備。こちらを優先して整備するべきではないか。区の神田警察通りの道路整備でかなり辛辣な記事を書いたが、行政は何を考えているのかさっぱり分からない。

 関係者によると、容積率を約300%余しているので増築も可能ではないかと思ったが、リノベーションにしたのは、現行の建築基準法に適合させるためには法的なハードルが高かったためだろう。屋上は天然芝ではなく人工芝で、樹木も低木ばかりなのは構造上の問題なのだろう。

 素晴らしいと思ったのは、農園スペース「The Edible Park OTEMACHI by grow」だ。運営するPLANTIO(プランティオ)UrbanFormer/CEOの芹澤孝悦氏は「わたしの祖父は1949年(昭和24年)、わが国で初めてプランターを開発した。家庭菜園を有料にしているのはわが国だけ。欧米などはシェアするのが当たり前、スタンダードになっている」などと切り出したのに驚いたのだが、野菜育成アプリ「grow GO」や6種類のAIセンサーを搭載した世界初のプロダクト「grow HOME」には絶句した。日照量・土壌水分量・土壌温度など栽培に重要なデータをアルゴリズム分析により、水遣りの必要性などを伝えてくれるという。

 このAIは、手間暇かけて育てる楽しみを奪いかねないが、農業・園芸を一変させる可能性を秘めている。AI機器は販売しないのだそうだが、値段によっては爆発的に売れる。芹澤氏の祖父が開発したプランターの比ではないのではないか。

 もう一つ。「LABゾーン」などの観葉植物はほとんどが本物。これまた凄い。丸ノ内パークビル竣工見学会で見た三菱地所の本社オフィスはフェイクがあふれていた(失礼。その後、本物が植えられたとも聞くが)。

IMG_2284.jpg
階段室

IMG_2314.jpg IMG_2315.jpg
幅1mくらいの大手町ビル側の歩道(左)と整備済みの大手町スクエア側の歩道

IMG_2316.jpg
左右非対称の歩行者空間(左が大手町ビル側)

IMG_2306.jpg
AIについて説明する芹澤氏

 

rbay_ayumi.gif

 

ログイン

アカウントでログイン

ユーザ名 *
パスワード *
自動ログイン