「XR HOUSE(エックスアールハウス)北品川 長屋 1930」
大和ハウス工業、バンダイナムコ研究所、ノイズは6月2日、築90年以上の古民家を改装した「XR HOUSE(エックスアールハウス)北品川 長屋 1930」(東京都品川区)で6月3日から8月31日まで、「リアルとデジタルの融合」をテーマにした共同実証実験を行うと発表。同日、メディアに「長屋」を公開した。
建築を専門とする大和ハウス工業、エンターテインメントに強みがあるバンダイナムコ研究所、デジタル技術に詳しいnoizの3社がプロジェクトを立ち上げたのは2020年12月。コロナ禍で人々の価値観や生活習慣が大きく変化する中で、3社は「未来の暮らし」について検討を開始。家で過ごす時間が長くなる中、巣ごもりの閉塞感を軽減しながら、暮らしをより楽しくするために、一瞬で空間イメージを変えるデジタル技術「XR 技術」に着目し、「建物価値の拡張」と「建物サイクルの拡張」によるパラダイムシフトを企図したのがきっかけ。
1階のプロジェクトでは、AI技術のほかセンシング技術を組み込むことで、リアルとバーチャルの相互作用を生み出すことを可能にした。学習能力があり、「人」が古民家の中にあるLED電球に触れると、事前に決められた機械的な反応ではなく、その時々の「人」の位置などによって多種多様に変化する反応を示し、空間に置かれたタイルへの映像投影とサウンドで表現する。
2階の各10畳大の「障子+デジタル」と「襖+デジタル」には不定形の「ボロノイ畳」にLED 技術を組み込み、「障子+デジタル」では、バーチャル世界を「日常」から覗いているかのようなモノクロの屋外空間を演出。立体音響効果により、障子の奥に外とつながっているような空間を作っている。「襖+デジタル」では、「襖」を開けると囲炉裏、坪庭などの屋内空間が広がり、将棋を指す音、炭火のはぜる音、山鳩の鳴き声なども聞こえるようにしている。
実証期間中に有識者や業界関係者、学生などに「リアルとデジタルの融合」を体感してもらい、ワークショップを開催し、今後の住宅・建築業界の新しい価値の創出につなげる。
「XR HOUSE 北品川長屋 1930」は、JR品川駅から徒歩10分、品川区北品川 1丁目に位置する木造2階建て全5棟の古民家のうちの1棟改修したもので、延床面積は約97㎡。
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この種のVRやらAR、AIをテーマにした見学会を数十回は経験している。その都度感じるのは、リアル(実物)には絶対にかなわないということだ。商品を購入することを決断させるための一つのツールに過ぎない。当事者だってそんなことは百も承知のはずで、いかにシズル(sizzle)感を演出するか四苦八苦しているに違いない。
今回も見学する前までは、これまで見たものと似たり寄ったりだろうと高を括っていた。ところが、「障子の間」「襖の間」を見学して驚愕した。五感のうち嗅覚、触覚、味覚は味わえないのはこれまで見学したものと同じだが、〝これはいい〟と第六感に訴えるものがあった。黒澤明や小津安二郎の映画シーンを見るようで、酒でも飲みたくなる気分にさせられた。
とにかく芸が細かい。部屋内は改修に用いられた黒松やイグサの香りがし、中央には卓袱台が備えられていた。障子には雨だれの文様が映し出され、開けると郷愁を誘う田舎の街並みが白黒で展開し、雨の音、風の音、小鳥の鳴き声が聞こえ、人の気配を感じさせる将棋を指す音、除夜の鐘、囲炉裏の炭火のはぜる音や火花が灰になって舞う仕掛けも施されていた。
この種の演出はゲーム大手のバンダイナムコにとってはもっとも得意とする技なのだろう。バンダイナムコ研究所イノベーション戦略本部プロデュース部・本山博文氏は「襖の開け閉めの所作はミリ単位で計算している」と話した。
肝心の価格について質問したが、「現段階では未定」とのことだ。価格によっては住宅だけでなくあらゆる施設にも導入できそうで、パラダイムシフトを起こす可能性が大とみた。
重箱の隅をつつくようで申しわけないのだが、一つだけ課題。本山氏も「没入・熱中しすぎない、目が疲れない工夫」と話したように、やりすぎると全てぶち壊すことにつながりかねない。
そんなシーンがあった。不定形の「ボロノイ畳」に稲妻のようにLEDの光が走り、床から灰が舞い上がった。薪も炭火も安物は爆ぜて火花を散らすことは確かにある。しかし、床を雷のように駆けずり回ることは絶対にないし、灰は空中をさまようが、床から蛍のように湧き上がることはない。本山さん、いかがか。過ぎたるはなお及ばざるがごとし。