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2022/06/16(木) 18:16

「新築そっくりさん」建替えよりCO2排出量47%削減 東大×武蔵野大×住友不

投稿者:  牧田司

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清家氏(左)と磯部氏

住友不動産は616日、東京大学、武蔵野大学と共に共同で進めてきた建物改修による脱炭素効果の定量化を目指す研究の「第一フェーズ」結果をまとめ発表。建物性能を向上させたうえで、同様の建物を建て替えた場合と比較してCO2排出量を47%削減できるとした。

研究は202112月にスタート。わが国は2050年カーボンニュートラル、家庭部門における2030年までのCO2排出量66%削減(2013年度比)が要請されているが、圧倒的に多い既存住宅(5,000万戸)の省エネ、脱炭素化の取り組みの遅れが指摘されている。

このため、既存住宅の脱炭素を推進する研究・制度の構築を主導している東京大学大学院新領域創成科学研究科・清家剛教授とその弟子の武蔵野大学工学部環境システム学科・磯部孝行講師から、「新築そっくりさん」として丸ごとリフォームの実績が約15万戸ある同社に研究依頼があったのがきっかけ。

研究では、BIMBuilding Information Modelingの略称。資材データなどを入力し、3次元の建物デジタルモデルを構築する技術)などデジタル技術を活用して既存部材の再利用量、改修時資材投入量をそれぞれ把握し、建物LCA評価(Life Cycle Assessment の略称。製品等のライフサイクル全体における環境負荷を定量的に評価する手法)を実施。住友不動産の改修現場(築46年、延べ床面積149㎡)で調査を行った。

その結果、平成28年省エネ基準をクリアしたリフォーム住宅では、同基準の建物に建て替えた場合と比較し、解体などで生じる廃材の利活用により資材投入量が大幅に削減されるため、CO2排出量は47%削減できるという結果が得られた。

今回の調査結果を受け、第2フェーズでは既存戸建住宅の改修による長寿命化効果の検証を行い、2年後に発表する予定の第3フェーズでは既存戸建住宅の改修による省エネ・創エネ設備の導入効果を検証し、CO2排出量削減を可視化(定量化)できる評価システムの構築を目指す。

発表会に臨んだ清家教授は、「今回は資材、リフォーム現場にフォーカスして調査した。改修における環境評価手法は確立されていないが、47%のプラスマイナス10%のCO2排出量削減効果があることを示せた。今後は長寿命化やZEHレベルなど運用効果を検証していく」と語った。

住友不動産取締役 新築そつくりさん事業本部長・加藤宏史氏は、「わが国の戸建て住宅の寿命は約30年と考えられているが、当社はそのスクラップ&ビルドの常識を覆し、既存の残せるものは残しながら新築と同様の安心・安全の『新築そっくりさん』事業を25年超展開し、約15万棟の実績を積み上げてきた。今回の調査結果は、当社の事業は持続可能な社会的を目指す事業であることが証明できた。今後も引き続いて環境評価手法の見える化、定量化に貢献していく」とあいさつした。

        ◆     ◇

 清家氏と磯部氏の説明を聞きながら、昨年、三井不動産と東大、青木茂建築工房が共同研究した結果、「リファイニング建築」のCO2排出量は建て替えるより約72%削減できると発表したのを思い出した。

コンクリと木造の違いだろうとは思ったが、「わたしは木造ファン。リファイニングは72%なのに、木造はどうして47%なのか。わが国の森林・林業は危機に瀕している。建築資材を外材ではなく国産材を使用することで、森林・林業の再生・活性化を図れば、その社会的経済的効果を金銭に置き換えることはできるのではないか。それをCO2排出量に反映できないのか」などとストレートに質問した。

記者の質問に対し、清家氏は、「リファイニング建築」のCO2排出量研究を行ったのは自分たちであることを話し、RC造はCO2排出量が大きい鉄やセメント、ガラスなどを大量に使用するのでリファイニング建築では削減効果が大きく出るが、木造はもともと排出するCO2が小さいので、削減数値も小さくなると語った。

また、わが国には外材と国産材を分けて環境評価を行う手法はなく、国産材を活用した場合も、天日で乾燥する場合はともかく、重油を使って乾燥させる場合はCO2排出量は大きくなり、その課題もあると指摘した。

        ◆     ◇

 清家先生の仰ったことはよく分かった。おそらく国産材より外材のほうが植林、伐採、運搬、製材、加工コストは低く、結果としてCO2排出量も少なくなるのだろう。しかし、わが国の森林・林業は危機的状況にあり、地域の文化すら崩壊しつつある。コストは多少かかってもCO2排出量が多くなっても、国土を強靭化するのに投資する価値のほうを重視すべきだと記者は考える。わたしたちは経済合理性だけで生きていない。「安心・安全」をお金に換算し、多少値段が高くとも国産の食材を購入する消費者が多いのはその端的な例ではないか。

 いま取材している千代田区の神田警察通りのイチョウの伐採の是非も同様だ。区はイチョウを伐採してヨウコウザクラに植え替える場合のコストはイチョウを残して道路整備するより初期コストはかかるが、その後の維持管理費を考慮すると、数年後には元が取れると主張している。この論法には樹木がもたらす緑陰効果、地表温度の抑制効果、癒し効果、街並みの景観美などは全く考慮されていない。

 建築資材も同じではないか。磯部先生は日本建築学会の地球環境委員会 LCA小委員会主査を務めている。先生、外材と国産材の利用に関する経済波及効果の差異を研究する学者先生はいらっしゃらないのでしょうか。

 

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