三井不動産、三井不動産ホテルマネジメント、国立がん研究センターは7月1日、国立がん研究センター東病院(NCC東病院)の敷地内に立地する「三井ガーデンホテル柏の葉パークサイド」を開業する。双方の知見をもとに共同企画した、がん患者とその家族をサポートするホテルで、病院と連携した人的サービスのほか、デジタル技術を用いた各種のサービス、患者に配慮した食事メニュー、ロボットによる食事配送なども行う。開業を前にした6月20日、メディアに施設内を公開した。
施設は、つくばエクスプレス線柏の葉キャンパス駅から車で約5分、柏市柏の葉6丁目に位置する国立研究開発法人国立がん研究センター東病院(NCC東病院)が所有する敷地面積約ホテル部分約3,972㎡、NCC東病院敷地約11,914㎡、地上7階建て延べ床面積約8,329㎡、客室数145室。客室面積は22.8㎡(60室)と30.0㎡(68室)がメインで、デラックスタイプは45~47㎡、スイートは60.1㎡。設計・施工は東急建設。建物は三井不動産が所有する。
建物の2Fの一部にはNCC東病院が外来拡張エリアを設置。10室の診療室を設け、うち2室はオンライン診療の環境を整え、セカンドオピニオン外来にも対応する。
ホテルの共用部には全82台のAIカメラを設置し、緊急時の対応につなげる試験導入を行なうほか、スタッフはがんに関する専門的な知識を習得し、常駐するケアスタッフが24時間体制で緊急対応する。また、AI 健康アプリ「カロママ プラス」(開発・運営:リンクアンドコミュニケーション)を活用したがん患者向け食事管理機能、「Health Data Bank for Medical」(開発・運営:NTTデータ)を用いたバイタルデータ管理機能の2つのデジタルサービスを提供し、資生堂ジャパンはがんの副作用による外見変化の悩みや不安を軽減する「メイクアップアドバイスセミナー」などを定期開催していく。
発表会に臨んだNCC東病院長・大津敦氏は「当院には毎年国内外から30万人弱のがん患者さんが来院しており、新規がん患者さんは9,000人以上となっている。当院敷地内にホテルが開業することで、がん患者さんとそのご家族の通院時の負担軽減や遠方の方の受診の利便性向上が期待できる。さらに『柏の葉スマートシティ』で進めている最先端のがん医療・研究機関と連携し、世界トップレベルの診療モデルを確立したい」と述べた。
NCC東病院の平成30年1月1日~12月31日のデータによると、年間新入院患者数は11,918人で、425の病床は満床。年間院内死亡患者数は664人。
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病人を、しかもがん患者とその家族を顧客層に据えた高級ホテルは、米国では当たり前のようだが、わが国には存在しないようだ。永遠のテーマである生と死に真正面から向き合う双方の挑戦に期待したい(地獄の沙汰も金次第の言葉をぐっと飲みこんだ)。「hospitality」も「hospital」も「hospes」も語源は一緒のはずだ。
私事だが、小生の亡妻は43歳で乳がんが発覚した。ステージⅣだった。なぜなぜなぜ、神や仏に祈り呪った。市立病院と大学病院に入退院を繰り返し、最初に医師が予言したとおり4年後に死亡した。
他の病院は知らないが、大学病院の個室は窓が小さいうえに、病室の外には鉄格子のような手摺が設けられていた。ここから羽ばたけたらどんなに素晴らしいか、外の緑豊かな庭を二人で散歩できるか、来年もサクラが見えるのか、身内のゴルフイベントに参加できるか…そんなことばかり考えた。最期のころは、病院の許可を得て寝泊りもした。何かあったら知らせてもらうように手首に紐を付けつないだ。眠ろうとすると、苦痛を伝えるためか、あるいは裏切りばかりしてきた小生へのしっぺ返しか、紐が引っ張られる。意識が朦朧とする。島尾敏雄の「死の棘」の世界だ。当然だ。まんじりともせず死の恐怖と戦っているのに、傍のソファでいびきをかいて眠っている夫を憎たらしく思わないほうがおかしい。
そんなつらい経験をしているからこそ、今回のホテルは患者や家族の悩みを解消してくれる最高にいいホテルだと思う。共用部の廊下幅は2m確保されており、客室はマンションに近い。日常の生活をホテルでも過ごしてもらおうという配慮が伝わってくる。車椅子でも利用可能にするために廊下幅は1.2mくらいあり、天井高も2600ミリ確保している。引き戸を多用、窓も大きい。呼び出しボタントイレもオストメイト対応もある。診療の前泊、後泊はもちろん、中長期滞在もありうると見た。
食事管理機能、バイタルデータ管理機能の2つのデジタルサービスは、がん患者だけでなく健常者の生活習慣病予防にも役立つはずだ。資生堂の「メイクアップアドバイスセミナー」は患者にとってとても重要なことだろうとは思うが、よく分からない。
疑問に思ったのは、がんの進行レベル・ステージが0期からⅡ期くらいならまだしも、Ⅳ期のがん患者とその家族はホテルでどのように過ごすのかということだ。同じような患者と同席して食事はできるのか、会話は弾むのか、きれいに化粧はしていてもその裏の素顔・素肌は透けて見えないのか、その光景はどのように映り、心的影響を及ぼすのか。知りたいようで知りたくない。
ある名声さくさくたる経済紙の記者が「客単価はどれくらいか」とぶしつけな質問をした。ホテル関係者は当然のことのように「公表していません」と話した。(メディア・リテラシーに著しく欠ける。答えが返ってきそうもない質問はしないことだ。取材のイロハだ)
難点も一つ二つ指摘したい。共用施設は「木調」デザインを強調しているように、すべてが本物の木を使ったカフェ&レストラン「丁字屋KASHIWA-NO-HA」やヘリンボーン床のホールはあるが、ラウンジの壁際の緑はくすんだ色のフェイクの観葉植物だった。エレベーターホールの壁面も「木調」ではあったが、シート張りだった。画竜点睛を欠くとはこのことをいう。三井不動産レジデンシャルはタワーマンションの全てのエレベーターホールに本物の観葉植物を飾ったことがある。
NCC東病院