11月29日付「住宅新報」WEB版は、「中古マンション値上がり率、日鉄興和不が7年連続関東1位 スタイルアクト調べ」と題する記事をトップで報じた。
調査は、宅建業者のスタイルアクトが運営する分譲マンションサイト「住まいサーフィン」が行ったもので、2008年以降に竣工した首都圏マンションを対象に、各住戸の新築時分譲価格と2021年10月から2022年6月までの間に中古マンションとして売り出された価格の値上がり率を算出し、新築を分譲したデベロッパーごとにランキングとして発表したものだ。
これによると、値上がり率トップは日鉄興和不動産の4.37%で、以下、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、東京建物などと続く。2008年以降で最多供給と思われる住友不動産はベスト10位で、供給量ではベスト10社入りするはずの〝中堅〟は1社もランクインしていない。
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小生は、このスタイルアクト=住まいサーフィンの調査は知ってはいたが、どこがどのような調査をしようと勝手だし、それを記事にするかしないかを決めるのはメディアの判断に委ねられるので、無視を決め込んできた。
だが、しかし、28万人(同社発表)もいる「住まいサーフィン」の会員(消費者)は不利益を被らないかと心配になったので、以下に書くことを決めた。
まず、中古マンションの値上がり率について。東日本不動産流通機構(東日本レインズ)のデータによると、今年10月の首都圏中古マンションの成約価格は4,395万円(前年同月比13.1%増)、坪単価は229万円(同14.7%増)、築年数は23.73年となっている。
2008年の首都圏新築マンションはどうかというと、東京カンテイのデータでは平均価格は4,662万円、坪単価は233.7万円だ。
これを、スタイルアクトの値上がり率ランキングの計算式「中古値上がり率=中古売出価格/新築時価格/経過年数」に倣い計算すると、4,395万円/4,662万円/14年=6.7%となった。スタイルアクトが公表した値上がり率上位10社の数値よりかなり高いtが、最近の新築マンションの価格上昇率が高いことから、築浅の物件ほど上昇率は下がるはずなので、各社の物件の上昇率もこのようなものだともいえる。
これはさておき、上位10社についてみてみる。値上がり率トップの日鉄興和不動産を始めベスト10入りしている各社はどこも販売棟数、竣工戸数などを公表していない。このため、民間調査会社のデータに頼らざるを得ないのだが、日鉄興和不の2008年以降の販売戸数は年間800戸として10,000戸くらいのはずだ。1棟当たり戸数を50~60戸とすると、販売棟数は10,000÷50~60=167~200棟になる。ところが、スタイルアクトが対象としているのは41棟にしか過ぎない。販売棟数の20.5~24.5%しかカバーしていないことになる。(他社もほぼ同様)。
なぜそうなるのか。最大の理由は、スタイルアクトの計算式では「少数事例による誤差を抑制するため、総戸数10戸未満のマンションならびに事例数が5件未満のマンションは除外」しているからだと思われる。(販売戸数だけならベスト10入りするはずのデベロッパーは2~3社あるが、この適用除外に該当するためか)
この適用除外に問題はないのか。記者は中古市場のことはよく分からないのだが、年間5戸以上の売買事例がある中古マンションの1棟当たりの規模はどれくらいなのか。50戸で年間5戸以上というのは考えづらいのではないか。10年で所有者が入れ替わる計算だ。100戸でどうか。投資用や単身者・DINKS向けはあるかもしれないが、ファミリーマンションではあり得ないような気がするが…。(日鉄興和不は単身者・DINKS向けの供給比率が他社と比べて高い)
次に、資産性の問題。スタイルアクトは値上がり率の高いマンションは資産性が高いというが、果たしてそうか。短絡的に過ぎるのではないか。新築もそうだが、中古マンション価格はそのときどきの市場に左右される。上りもすれば下がりもする。資産価値が高いマンションは、「広尾ガーデンヒルズ」に代表されるように、市場動向に左右されず、居住環境や居住性能が高いことなどから賃貸市場でも適正に評価される物件だと思う。
これに関連することだが、釈然としない問題もある。ベスト10の住友不動産だ。他社の事例数を棟数で割ると、もっとも少ないのは阪急阪神不動産の9.7件で、あとは12~14件だが、住友不はほぼ倍の23.7件だ。値上がり率は低いが、市場流通性(換金性)が2倍というのをどう評価するか。
もう一つ、スタイルアクトはどのようにして膨大な中古マンションデータを収集したのかという問題だ。東日本レインズによると、2021年の首都圏の中古マンション成約戸数は約4万戸だ。同社が調査した10社合計の事例は11,596戸だ。レインズデータの29.0%だ。これは2008年以降の竣工物件に絞ったからでもあるが、いずれにしろ全物件のデータを収集・分析しないと割り出せないはずだ。
同社は宅建業者なので(調査主体は「住まいサーフィン」だが)、レインズデータは得られるはずだが、レインズは「不動産取引を促進するために物件情報や成約情報を集計・加工・分析し、物件や個人が特定されない範囲で外部に提供する場合、利潤を得ることはできない」とし、「会員は上記以外で、成約情報を広告・宣伝等で利用してはいけない」と規制を設けている。
であるとすれば、スタイルアクトはレインズのデータをもとに算出したと言えないはずで、ならはどのような調査を行っているかを明らかにすべきだ。根拠が希薄な「広告・宣伝」は不動産公正取引協議会連合会の「公正競争規約」で「実証されていない、又は実証することができない事項を挙げて比較する表示」「実際のものよりも優良であると誤認されるおそれのある表示」などを禁止している。
以上、縷々述べてきたが、新築・中古マンション市場について多少の知識があれば〝これはおかしい〟と感じるのが普通だ。無批判にリリースをコピペして発信する業界紙のメディア・リテラシーも問われている。