東日本旅客鉄道(以下「JR東日本」)と東急不動産ホールディングス(以下「東急不HD」)は2月14日、包括的業務提携契約を締結したと発表した。両社グループが持つまちづくりに関わるアセット、ノウハウ、人材などを活用した高いシナジー効果を追求するためで、住宅事業と再生可能エネルギー事業を軸に、その他海外事業展開などを含めた事業を推進していくのが目的。提携期間は2033年2月までの10年間。
環境共生・コミュニティ自助型の持続可能なまちづくりの柱の一つである住宅事業では、第1号案件として、JR東日本の所有する船橋市市場一丁目に位置する社宅跡地約4.5haにマンション800戸や商業施設、再エネ発電施設を整備する。完成時期は2026年度。
再生可能エネルギー事業では、総定格容量約1,400MWの自社発電施設を有する東急不HDの再生可能エネルギー施設の開発・運営ノウハウや、JR東日本グループが保有する土地・建物資産などを活用し、太陽光発電施設などの開発を進め、概ね5年以内に5か所程度の再生可能エネルギー事業開発を推進する。また、東急不HDが所有する宮城県を中心とした既存の再生可能エネルギー施設2~3か所をシードアセットとし、来年度に100億円規模のファンドを組成する予定で、今後10年間で1,000億円規模を目指す。
このほか、JR東日本がもつASEAN各国鉄道会社とのネットワーク、東急不HDのインドネシアを中心とする不動産開発の実績をベースに、環境共生・コミュニティ自助型の持続可能なまちづくり事業を展開していく。
また、ニューノーマル時代の「新しいワークスタイル」として、モビリティや通勤顧客へのサービスを提供するJR東日本と、さまざまな形態のオフィス開発・運営、リゾート&ホテル事業を手掛ける東急不HDの強みを生かし、軽井沢などの東急ハーヴェストクラブ会員権に新幹線往復チケットを付けるなど利便性の高いワーケーション商品の開発を行う。
さらにまた、JR東日本グループと東急不HDが保有する多様なアセットを活用し、新たな価値創造と事業収益の獲得を目指していく。
記者会見でJR東日本代表取締役社長・深澤祐二氏は、「提携により2023年度から5年程度で1,000億円規模の売り上げを目指す。両社が連携しグローバルアジェンダの解決に果敢に挑戦していく。タッグを組むことで、これまでどちらか一方では実現できなかった心豊かで輝く未来を実現していく」と語った。提携の決め手については、「中期ビジョン、環境共生、ユニバーサルビジョンなどが一致するから」とし、「当社はこりまでモビリティが中心だったが、生活ソリューション事業を拡充し、将来的には事業比率を5:5にする目標を掲げている。その中で不動産事業は大きなウエイトを占めている。スピード感をもって進めていく」と話した。
東急不動産ホールディングス代表取締役社長・西川弘典氏は、「当社グループの長期ビジョン『GROUP VISION 2030』では全社方針として環境経営を、事業方針の一つとしてパートナー共創を掲げ取り組んでいる。連携は非常に高いシナジー効果が期待できる。国内外の様々な課題解決をリードする存在になる。今回の提携を契機に幅広く連携し、新たなお客さま価値の創造と企業収益の拡大を目指す」と語り、連携の決め手については「不動産会社として成長していくため、重要な戦略として関与資産をいかに拡大していくかが課題となっている。そのためパート―ナー共創を掲げ、関与資産拡大の機会を探ってきた。両社の中長計画がほぼ同じであること、両社が持っている経営資源などのリソースは補完性が非常に高いと判断した」と述べた。
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両社が包括的業務提携契約を締結すると案内があったとき、記者は仰天した。青天の霹靂、逆転満塁サヨナラホームランを浴びたような気がした。
なぜか。デベロッパーとしたら、JR東日本が所有する駅舎などの土地は垂涎の的だ。土地代はただ同然で、容積など半分以上余しているはずだ。やろうとすれば、駅地下・駅中・駅上開発ができる。郊外では寝過ごし客相手の仮眠・宿泊施設を設けたら連日連夜満室だろう。シェアオフィス需要だって取り込める。三顧の礼、三跪九叩頭して提携をお願いしたい企業だ。日本郵政も同じだが、同社は2018年4月2日、デベロッパー日本郵政不動産を立ち上げた。社長は2代にわたって三井不動産グループ出身者だ。
そんなこともあり、記者はJR東日本と〝婚約〟発表をするのは、最近いくつかの共同事業を行っているあるデベロッパーしかないと思っていた。相思相愛、ラブラブだと信じて疑わなかった。相手が東急不HDとは毫ほども考えていなかった。そのデベロッパーは振ったのか、振られたのか謎だ。
そこで考えた。そのデベロッパーになく、東急不HDにあるもの・強みは何か。ホテル&リゾートだと結論づけた。双方の事業規模を調べる余裕はないが、同じくらいか。双方合わせれば100か所くらいになるのではないか。タッグを組めばドラスティックな改革も可能で、面白い展開ができると。
ただ、他の住宅などの不動産開発は、土地は持っているが、その土地を生かすノウハウを持たないJR東日本はフリーハンドで好きなとき、好きなデベロッパーと手を組んだほうが優位に立てるはずで、業務提携によって手かせ足かせをはめるのは得策ではないから、その点を質そうと、質疑応答で最初から最後まで手を上げ続けた。いつも馬鹿な質問をするからだろう。今回も指名されることはなかった。質問を許されたのはいつものメンバーだった。(これはやめるべき。記者はその手口を小学生のとき知った。それを許すメディアにも責任がある。みんなが手をあげればMCもスタッフもパニックに陥る)
少し横道にそれる。これまで鉄道事業会社の不動産開発をいくつか取材してきた。一言でいえば稚拙。ごく一部を除き、ゼネコンやデベロッパーに丸投げ、ぶら下がるだけ。〝揺りかごから墓場まで〟(福祉施設のことを言っているのではない)あらゆる事業で沿線住民にサービスを提供しているのに、収穫することを行ってこなかった。許認可権を握る国の責任でもあるが…。
まあ、こんな繰り言をいってもしょうがない。仕方がないので、両社の担当者に直接聞いた。JR東日本には「自由恋愛と同じように、だれとでも手を組むほうがいいのではないか」と(こんな質問をするから嫌われる)。
ところがどうだ。その担当者の方は「仰る通り。案件によっては他社と組むこともある」と。さすがJR東日本、強かな読みがある。
東急不HDには、「JR東日本さんは自ら手を縛らないと言っています。好きなように他社と手を握られたら、東急さんだって面白くないのではないか」と(これまた失礼な質問)。すると、同社担当者の方は「企画力を向上させ、選ばれるようにする」と語った。不動産仲介の専属専任媒介ではない主旨のことも話されたので、一般仲介に近いのか。
これで疑問は氷解した。他のデベロッパーにもつけ入るチャンスはあるということだ。深読みすれば、JR東日本は今回の提携により、デベロッパー間の競争を促し、より有利な開発を行おうとしているとも読める。
ただ、東急不HDの強みはほかにもある。両社社長が強調したように、環境共生やユニバーサルデザインの取り組みを、東急不HDはどこよりも早く着手したのを思い出した。再生可能エネルギー事業もそうだ。街づくりといえば東急だった。西川社長は渋沢栄一の創業精神を紹介したようにそのDNAは健在であることを思い知らされた。両社が協業の話し合いを始めたのは昨秋というから、ほとんど即断即決なのだろう。善は急げか。
もう一つ、どうしても確認したいことがあったので質問した。会見場はJR東日本のクラシックホテル「東京ステーションホテル」でも、東急グループのフラッグシップホテル「ザ・キャピタル東急」や「セルリアンタワー渋谷」でもない点だ。
これについて、JR東日本担当者は「お互いの色が付いていないから」と話した。なるほど。
そこでまた考えた。愛は惜しみなく奪うのか、限りなく尽くすのか。色に染まるのはどっちか。何? JR東日本も東急不HDもコーポレートカラーは青? ならばなおさらだ。記者はどっちの青にも染まず毅然として傍観者の「白鳥」の立場を貫くぞ!「白鳥は悲しからずや」と詠んだ牧水は自身が病んでいたらで、白鳥は健康そのものと高校のテストで答えたら×だった。今でも小生の答えが正解だと思っている。