アットホームは3月1日、過去2年以内に一戸建て・マンションを購入した人を対象に、途中でこだわるのを諦めた条件・設備に関する調査結果をまとめ発表。住まいの基本的条件では、価格は1.3倍妥協、広さは14.0㎡削減、最寄り駅からの徒歩時間は8.6分妥協。設備仕様では5人に1人が「収納スペース」「リビングの広さ」「外観のデザイン」を妥協していることが明らかになった。
調査対象は、過去2年以内(2020年10月以降)に住まいを探し、一戸建て・マンションを購入した18~50歳の男女400名。内訳は新築マンション、中古マンション、新築一戸建て(注文住宅含む)、中古一戸建て各100名。
住まいの条件の住宅価格の妥協ラインは、「実際の住宅価格÷当初の住宅価格」で算出。予算の1.3倍まで妥協していたことが分かった。
築年数を妥協したと答えた人の中で、築年数の妥協ラインを「契約時の築年数-当初希望していた築年数の上限」で算出したところ、当初より11.1年古くても妥協していたことが分かり、その理由として「建物自体は免震構造で、共用部分の清掃・管理もきちんとなされていたため(中古マンション)」といった声があった。広さも同様、当初より14.0㎡狭い物件で妥協したと回答。
最寄り駅までの徒歩時間は当初より8.6分、通勤・通学時間は当初より17.6分遠くても妥協。その理由として、「自転車を使えばすぐだったから(新築一戸建て)」、「以前と同じくらいの時間帯の出勤で済んでいるから(中古一戸建て)」といった声があり、「在宅勤務が増えたので妥協しても問題なかった(新築マンション、中古マンション、中古一戸建て)」という回答も見られた。
このほか、妥協したものは27.0%の「収納スペースの広さ」がトップで、以下、「リビングの広さ」23.5%、「外観のデザイン」22.8%の順。その理由は、収納は「断捨離する良い機会になるから(中古マンション)」、「物を出しっぱなしにしないことで広々使えるから(新築一戸建て)」「住んでしまうと狭さを感じなかったから(中古一戸建て)」、外観のデザインは、「住んでみたら気にならなかったから(中古マンション)」「自分では妥協したと思っていても意外と来客に褒められたから(新築マンション)」など。
住まいの条件で「妥協はしていない」と答えた人は19%。
住まいの設備でもっとも妥協したものは「宅配ボックス」16.8%で、以下、「ウォークインクローゼット」15.5%、「床暖房」15.3%の順。その理由として宅配ボックスは「置き配を利用できるから(新築マンション)」「お互いの休日に上手く受け取ることができているから(新築一戸建て)」などの声があり、ウォークインクローゼットは、「普通のクローゼットで十分、使い勝手に問題はないから(新築マンション)」「和室の収納を工夫して、バッグやベルトなどの保管場所を増やしたから(中古一戸建て)」、床暖房は、「気密性の高い家にしたのでそんなに寒くないから(新築一戸建て)」「他の暖房機器があれば十分だから(中古マンション)」といったコメントがあった。
一方、「妥協はしていない」と回答した人は44.3%だった。
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とても興味深い結果だ(同社は先に賃貸篇も発表しているが、賃貸はよく分からないので割愛した)。
結果についてコメントする前に、課題を一つ指摘したい。今回の同社のアンケートに限ったことではないが、結果を全部足して、それを割って平均値や傾向を出しても、絵具と一緒、攪拌されて限りなくグレーに近くなる。実態はよく分からない。今回の調査でいえば、マンションと戸建て、新築と中古、そしてもっとも肝心なことだが、購入者の所得(購入価格)、年代によって回答はかなり異なっているはずで、その詳細な分析が必要だということだ。(同社リリースでは回答者の属性を一部紹介はしているが…)
設問項目に注文もある。どうして基本的な条件に住環境、ランドスケープデザイン、断熱・遮音、天井高、サッシ高、廊下・階段幅、その他トイレなどのユニバーサルデザインに関するものはないのか。設備仕様では、同社は宅配ボックス、ウォークインクローゼット、床暖房、オール電化、シーズインクローゼット、食洗機、トイレ内手洗い、ディスポーザー、人感センサー付き照明、TV付き浴室、押入れ、複層ガラス、省エネ給湯器の12項目についても聞いているが、これでも少ないと思う。基本性能とも関連するのだが、間取り(可変性)、収納・引き戸のソフトクローズ機能、ミストサウナ、スロップシンク、キッチン天板仕様、食器棚、浴室タオル掛け、ドアノブ、トイレドア幅、床・壁仕上げ…などだ。
これらをさておき、調査結果について。住まいの条件に対する妥協ラインが予算の1.3倍というのは正直驚いた。これは前述したように、億ションを買える人は1億円が1.3億円になっても買いあがることはできるかもしれないが、当初予算が3,000万円の人は4,000万円近くになっても購入することができるのか。
築年数の妥協ラインは納得だ。基本性能・設備仕様レベルは最近のマンションより10年くらい前の物件のほうが高いものは少なくない。これは消費者が賢明な選択をしているということか。
広さを14㎡(約4.2畳大)妥協したというのは、是非はともかく最近の住宅市場をストレートに反映している。
最寄り駅までの徒歩時間は、デベロッパーが「駅近」(マンションだが)を最大の売りにしていることと全く異なる結果が出た(戸建ての回答が半数であることと無関係ではないが)。記者は、徒歩時間より大事なものがあると消費者は考えていると理解したい。
その他の条件については、人それぞれだからコメントしないが、収納スペースについて一言。仮に住宅の収納率を10%としたら、価格が5,000万円だったら、収納スペースは500万円だ。それほど高価なスペースに後生大事にしまっておく価値のあるものはどれほどあるのか。小生などは本のみ。本は捨てられない。
全体として住まいの条件を妥協しない人が19%というのには、やや驚いた。十全の物件など一つもない。全ての条件を満たした物件を買えるのはほんの一握りのお金持ちしかいないはずだ。
設備仕様に関してはなにも言うことはない。「妥協しない」が44.3%というのは、このようなものか。逆に驚いたのは「複層ガラス」は7.5%、「省エネ給湯器」は6.5%の人が妥協しており、「妥協しても問題なかった」人は前者が56.7%、後者が53.8%にも達していることだ。マンションのサッシは一度付けたらほとんど変更できない。これからは樹脂サッシが当たり前の時代になる。消費者も住宅を見る目を肥やさないといけない。複層ガラスと省エネ給湯器を妥協した人の30%超の人が後悔していると回答しているのに注目すべきだ。
全体として、調査は現在のデベロッパー、ハスウメーカーの供給するマンションや戸建てのレベルを反映していると思う。そして何よりもうれしいのは、5年前に「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本について3回にわたって批判した記事は間違いではなかったことを、消費者の方が証明してくれたことだ。この記事には3回で2万件を超えるアクセスがあった。